子どもが学校に行きたがらないときに、かける言葉は「どうして?」ではなく「どうしたの?」【伊沢式スクールライフ-第3回-】
学校生活に慣れてきたタイミングや夏休みなどの長期休み明けなどに、「学校に行きたくない」「学校がしんどい」と、悩みを抱えてしまう子も少なくありません。
この連載では「学校生活」をテーマに、QuizKnockの伊沢さんに、子どもの頃の思い出とともに、子どもたちや保護者に伝えたいメッセージをうかがっていきます。
第3回目の今回は「学校に行きたくないとき」について。学校に行きたくないことが「かなりあった」と言う伊沢さんはどのように向き合ってきたのでしょうか?
「理由はないけど学校に行きたくない」ことだってある
皆勤賞というタイプではなく、小学校から大学に至るまで、かなりの回数休んでいました。
学校に行きたくないときには1日から2日休んでまた行き始める感じだったので、いわゆる「不登校」の定義にはあてはまらないけど、けっこう休む方だったと思います。
宿題がイヤ、授業についていけないのが怖い、そんな風に言葉にできる理由があればよいのですが、もっと単純に「行きたくないから行かない」「今日はなんだか違う気がするから行けない」というときが多かったかもしれません。
単なる怠慢だったときもありますけど、「いや、大人も休むしな」とは心の中で思っていました。
学校が楽しくないわけじゃなくて、行ったら行ったで楽しいことはわかっているんですよね。
そのうえで、学校でちょっとしたイヤなことがあったり、今日はなんかしんどいなっていう感覚だったり……理由はないけど気分がのらないときって、子どもに限らず誰もがあると思うんです。

子どもの心を開いて「なんとなく」の奥にある原因を分析するのは大人の役目
学校を休むときは一応言い訳として、母親に体調の悪さを訴えるわけですが、もちろん母親は行かせようとしていましたね。ただ、小学校が家から遠く離れていて、引きずってでも連れていけるような場所にはなかったので、多少は、休みやすい環境だったかもしれません。
休んでいいときと、やっぱり行きなさいと言うときもありましたし、そのあたりを母がどう判断していたのか分かりませんが、もし、今の僕が当時の自分に声をかけるとしたら、「どうしたん?」ってまずは問いかけることを優先すると思います。
もちろん、家に子どもを一人で放置できない場合は、急いで対策を考える必要はありますけど。
大事なのは聞き方。理由があることを前提に尋ねたくないので、「どうしたん? なんとなく行きたくないのか?」みたいな。「なんとなく休みたい」という答えもありだよって、相手に伝わるような声かけをしたいです。
君の近くにいる大人が、すべてではない。世界の広さを知るスタートは、いろいろな人がいると知ること
一方で、行きたくない理由が明確なのに、大人に打ち明けられない子どもたちもいると感じています。
たとえば、こんな理由は受け入れられないんじゃないかと不安に思ったり、1回言ってみたけど軽く受け流されてしまって傷ついていたり……。いろいろな理由が考えられると思います。
だから、そんな理由で悩んでいる子どもたちがいたら、「いろんな大人に話してみるといいよ」と伝えたいですね。
休むことは家にいることだから、家庭の問題になりがちですが、親だけが考えるべき問題でもないと考えています。

君の悩みを解決できる大人がどこかにはいると信じてほしい。学校には担任の先生以外もいろんな先生がいるし、家や学校以外の世界にも目を向ければ、君の考えを分かってくれる大人がどこかにいるかもしれない。
実は病気で学校に行きづらいこともあるし、逆に人間関係に自分の思い込みが混じっていることもある。いろんな人の話を聞いて考えることは、学校以上の学びをもたらすかもしれません。現実的な問題は様々あるけれど、ひとまずは答えを焦らないことが大切です。
講演会でいろいろな学校に行くと、「ふだん登校していない子が今日は来られたんです」という声を聞くことがあって。
僕もまた、「いろんな大人」のひとりです。ひとつの変化を起こすことで、いろんな変化が連鎖的に起こることにも期待して活動しています。
「僕が何かを変えてやるぜ」というよりは、僕が行くことでいろんなことが起こって、結果として何かが子どもたちの中で変わる、みたいなことですね。
先生方も保護者も子どもも、何かをよりよくしようとして日々活動しているはずなので、あくまでその補助、きっかけになればいいなと。
楽しい時間を大切に。焦らないことからはじめよう。
もうひとつ大事にしてほしいのは、今、自分が「面白い!」と思うものを大切にすること。ゲームでもいいし、好きなもののコレクションでも、それはなんでもいいんです。
面白いと思う世界が学校の中になくったって、いっこうにかまわないんですよ。でも、夢中になれるなにかがあったほうが、前向きに、元気になれます。
学校に行けなくても、元気な方がいい。「学校に行けないんだけど元気です」ってことがあってもいい。
無理しない範囲で、なにか熱中できることを持てたらいいですね。楽しい時間が必ず君を救ってくれます。

「なんだか学校に行きたくないな!」「おうちの人に理由が伝えられないな!」などすごく悩んでいても問題ないよ。今は向かい風だったとしても、風向きはたまに変わります。
君には君の時間の流れがあって、その中で人とは違うテンポで前に進んでいるはず。焦らないことからはじめよう。
取材・文/森下真理 編集/石橋沙織(学研キッズネット) 写真/鈴木謙介 デザイン/曽矢裕子