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山上被告に無期懲役を求刑 裁判の量刑ってどう決まるの?

山上被告に無期懲役を求刑 裁判の量刑ってどう決まるの?

日々のニュースの中に「学び」のきっかけがあります。新聞を読みながら、テレビを見ながら、食卓やリビングでどう話しかけたら、わが子の知的好奇心にスイッチが入るでしょうか。ジャーナリストの一色清さんがヒントを教えます。
※写真は、山上徹也被告の裁判が行われている奈良地方裁判所=2025年10月28日、奈良市、朝日放送テレビヘリから、林敏行撮影

死刑を求刑されなかった山上被告

安倍晋三元首相を銃撃して殺害した山上徹也被告(45)の公判(裁判員裁判)が12月18日に奈良地裁であり、検察側は山上被告に無期懲役を求刑しました。一方、弁護側は「重くても懲役20年にとどめるべき」と述べました。判決は2026年1月21日に下される予定です。殺人などの罪で起訴された山上被告は罪を認めているため、焦点は量刑になります。

刑事事件の被告に下される判決の量刑は罪の重さによって種類と期間が分かれます。罪が重いものから死刑、拘禁、罰金、拘留、科料があります。拘禁刑は刑務所に入ることになり、もっとも重い拘禁刑は、期間の定めのない無期拘禁になります。期間の定めのある拘禁刑でもっとも長いのは20年ですが、刑が加重される場合は30年まで延長できます。最短は1カ月です。

拘禁刑は法律改正により25年6月1日に新設された刑で、これまでの懲役刑と禁錮刑を一本化したものです。懲役刑は労働の義務があり、禁錮刑は労働の義務がなかったのですが、禁錮刑の人はごくわずかで、しかも希望して労働することが多いため、区別する意味がなくなっていました。ただ、25年5月31日以前に起きた事件は懲役刑や禁錮刑が適用されるため、山上被告への求刑は無期懲役になっています。

また、懲役刑や禁錮刑や拘禁刑に対しては1~5年の執行猶予が付くことがあります。刑務所に入らずに通常の社会生活を送ることができ、期間内に犯罪をしなければ、そのまま刑期を終えたことになります。犯罪をしてはならないというプレッシャーを受けながら社会で生活するほうが教育的な意味が大きいという考えにより設けられているものです。初犯だったり、情状酌量の余地があったりする場合に付きます。

 

死刑を適用する場合の基準とは

日本でもっとも重い刑罰は死刑です。刑法で死刑がある罪は12です。そのほか特別法でも7つの罪があります。内乱罪や外患誘致罪などの国家に対する罪や「水道毒物等混入及び同致死」「汽車転覆等及び同致死」など社会に大きな不安を与える罪に死刑の規定があります。

とはいえ、死刑が適用されるケースのほとんどは刑法199条の殺人罪です。ただ、殺人罪なら死刑になるわけではなく、死刑判決が言い渡されるのはそのうちのごくわずかです。

死刑判決が下される際の規準として「永山規準」と呼ばれるものがあります。1968年から69年にかけて発生した連続強盗殺人事件の犯人である永山則夫元死刑囚の名字からとられています。永山元死刑囚は在日アメリカ軍から盗んだ拳銃を使って全国4か所で強盗の目的でタクシー運転手2人警備員2人の計4人を射殺しました。事件当時、永山は未成年の19歳でした。

83年に最高裁判所は永山事件の上告審で死刑を選択する際の判断規準を示しました。「犯行の罪質」「犯行の動機」「犯行の態様」「結果の重大性」「遺族の被害感情」「社会的影響」「犯人の年齢」「前科」「犯行後の情状」の9つの要素がその基準になると示しました。中でも重要と考えられたのが、「犯行の態様」と「結果の重大性」です。「犯行の態様」は執拗性や残虐性のことで、「結果の重大性」は殺された被害者の数が主になります。こうした最高裁の判断規準をもとにして、これ以降、被害者が1人ならよほど残虐な犯行でなければ死刑判決は出ず、2人以上なら死刑の可能性が高まるというふうに扱われてきました。

山上被告の裁判でも検察側はこの規準を考慮しているはずで、死刑を求刑しなかったのは、被害者が1人であることや生い立ちに情状酌量の余地があることなどによるものと考えられます。また、被害者の身分や功績の有無などは量刑に大きな影響を与えないという考え方もうかがえます。

死刑制度をめぐる世界の流れは

死刑という刑罰自体については廃止の議論があります。世界では死刑制度のない国が多数派です。現在、死刑を廃止あるいは事実上廃止した国は140カ国にのぼっています。ヨーロッパ連合(EU)は死刑制度がないことを加盟条件としていて、加盟国はすべて死刑制度を廃止しています。世界の有力な国の中で死刑制度があるのはアメリカ、中国、日本などですが、アメリカは州によっては死刑制度を廃止しています。

世界の国が死刑を廃止した理由でもっとも大きいのは、えん罪の可能性がゼロではないことです。えん罪で死刑が執行されれば取り返しがつきません。そのため、「国家といえども人の命を奪うことはできない」という考え方が出てきます。日本でも一家4人殺害で死刑判決が確定していた袴田巌さんが再審で無罪となりました。再審の門が開かなければ、取り返しのつかないことになるところでした。

一方、死刑を廃止すれば、犯罪が増えるのではないかという声があります。ただ、アメリカでは死刑のある州と死刑のない州によって犯罪率の高さに明確な差はないそうです。国連も死刑に犯罪の抑止力を期待することはできないとして、加盟国に対して死刑の廃止を求めています。

死刑がない国の多くは、もっとも重い刑として仮釈放のない終身刑を設けています。そうした国で終身刑が確定した人は生涯を刑務所で過ごすことになります。日本では死刑の次に重い刑は無期拘禁ですが、10年を超えれば仮釈放も可能になります。仮釈放の可能性がある点で終身刑に比べれば軽い刑罰になります。ただ、終身刑についても「生涯を刑務所で過ごすのは残虐だ」という批判や、「かかる公費が大きくなる」という課題が指摘されています。

「罪と罰」は古代からの課題

古代から人間は「罪と罰」の関係について考えてきました。かつては「目には目を 歯には歯を」といった応報主義が一般的でした。日本でもかたき討ちといった復讐の私刑が慣行としてあったり、中世ヨーロッパでは裁判としての決闘が制度化されたりしていました。しかし、社会は変わり、人権意識や教育による更生の意識が高まりました。それにつれて、「罪と罰」について社会の納得性が高まるように進化しています。そのうち「人間が裁くより人工知能(AI)が裁いたほうが納得できる」という意見が出てくるかもしれません。

ただしいずれにしても、どの方法が正しいという結論が明確に出る課題ではないことは確かです。「AIに裁かせる」と決めるにしても、その判断をするのは人間なのです。

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一色清(いっしき・きよし)さん

一色清(いっしき・きよし)さん

一色清(いっしき・きよし)さん

朝日新聞社に勤めていた時には、経済部記者、アエラ編集長、テレビ朝日 「報道ステーション」コメンテーターなどの立場でニュースと向き合ってきた。アイスホッケーと高校野球と囲碁と料理が好き。

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