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親は「何、どこ、いつ、なんで、誰」の5Wで子どもを困らせる/子どもが伸びる親力【第1回】

親は「何、どこ、いつ、なんで、誰」の5Wで子どもを困らせる/子どもが伸びる親力【第1回】

あるとき、少年野球チームの監督の話を聞く機会がありました。その人は私の講演を主催してくれたPTAの役員さんで、講演の前後に控え室で話したのです。そのチームは県大会の常連で、その人は名監督として地元ではかなり有名な方のようです。

下手なコーチは5Wで叱る

あるとき、少年野球チームの監督の話を聞く機会がありました。
その人は私の講演を主催してくれたPTAの役員さんで、講演の前後に控え室で話したのです。
そのチームは県大会の常連で、その人は名監督として地元ではかなり有名な方のようです。

いろいろな話が出ましたが、中でも「下手なコーチは5Wで叱る」という話が特に興味深かったです。

次のような話です。

5Wで言われても子どもはどうしていいかわからない

野球の守備の練習で子どもがゴロをトンネルしたとき、下手なコーチは「何やってんだ!」と叱ります。

打席に立った子どもが空振りをしたとき、下手なコーチは「どこ見てる!」と叱ります。

「何やってんだ!」の「何」は英語の「what」であり、「どこ見てんだ!」の「どこ」は「where」です。

何かができないときは「なんで○○できないんだ!」と叱り、これは「why」です。
子どもの行動が遅いときは「いつになったらできるんだ!」と叱り、これは「when」です。

よそ見をして話を聞いていない子がいるときは、「誰だ! 話を聞いていないのは」と叱り、これは「who」です。

このような5Wで言われても子どもはどうしていいかわかりません。
具体的な改善点がわからないのです。
当然、子どもたちはいつまでもできるようになりません。

指導力のあるコーチは具体的かつ明確に言う

指導力のあるコーチは5Wを使わずに、子どもにして欲しいことを具体的かつ明確に言います。
ゴロが捕れない子には「腰を落として捕ろう」と教え、空振りする子には「ボールをよく見て」と教えます。

何かができないときは、具体的に「○○して」と指示します。

行動が遅いときは「3分でやろう。用意、始め」「9:30までにやっておこう」など、具体的に時間を示します。

よそ見をして話を聞いていない子がいる場合は、「目をこちらに向けて聞こう」と指示します。

万事につけて、子どもがやるべきことを具体的かつ明確に教えます。
ですから、子どもたちはだんだんやり方を覚えてできるようになっていきます。

親も5Wで叱っている

私はこの監督の話を聞いて、子育て中の親にもまったく同じことが言えると思いました。

親は、子どもが玩具を落としたら「何やってんの!」と叱り、物をなくせば「どこへやったの!」と叱ります。

文章問題ができなければ「なんでできないの!」と叱り、なかなか寝ないでいると「いつまで起きてるの!」と叱ります。

テーブルを拭き忘れると「誰なの!テーブルを濡らしたのは!」と叱ります。

このように親はよく5Wを使って叱るのですが、それには理由があります。

5Wは子どもを困らせるため

親は子どもの望ましくない行動を見てイライラしてストレスが溜まります。
そのストレスを取り敢えず降ろしたくてたまらないのです。

しかも、ただ降ろすのでは気が済みません。
自分をイライラさせている相手にも相応のストレスを与えないことには気が済みません。

それで、相手を詰問して、相手が困るのを見て溜飲を下げたいのです。
ただシンプルに「○○して」と相手に指示を出すだけでは気が済まないのです。

子どもは5Wで聞かれると答えに窮して困ります。
それを見て親は溜飲を下げます。

5Wは相手をなめている証拠

「なんで○○なの?」と詰問されて、答えに窮した子どもが「だって○○だもん」などと答えようものなら、「だってじゃありません!」とか「言い訳しない!」などとよけいに叱られます。

親は子どもを困らせてたくて聞いているだけなので、「だって…」などという回答は不愉快なだけなのです。

そんな回答ができるということは、子どもがたいして困っていないということを示しているからです。

「だって…」は火に油を注ぐだけなのですが、哀れな子どもはそれを知りません。

5Wで詰問する心の奥にはこのような心理があります。
ですから、大人同士では5Wなど使えません。
そんなことをすればものすごい反発が返ってきますし、人間関係は完全に終わります。

5Wは、自分がなめきっている相手に対してだけ使える、パワーハラスメントの代表のような言葉なのです。

子どもを一人の人間としてリスペクトすれば普通の対応ができる

文章問題ができなくて子どもが困っているときは、「なんでできないの!」でなく、ヒントを出したり教えたりしてあげましょう。

なかなか寝ないでいるときは「いつまで起きてるの!」でなく、「10時3分までに寝なさい」と指示しましょう。
(子どもには、10時などのぴったりの時刻より、中途半端な時刻の方が効き目があります。)

テーブルを拭き忘れたときは「誰なの! テーブルを濡らしたのは!」でなく、「塗れたままだと後の人が困るから、拭いておいてね」と教えましょう。

何か物をなくしたら「どこへやったの!」でなく、まずは一緒に探してあげましょう。
それから、同じことが起きないような工夫を考えましょう。

玩具を落としたら「何やってんの!」でなく、まずは「だいじょうぶ?」と心配してあげて、それから「一つずつ運んだ方がいいよ」とアドバイスしてあげましょう。

こういったことは、すべて、大人同士ならごく当たり前におこなっている普通の対応です。
ですから、子どもを一人の人間としてリスペクトすれば普通にできることなのです。
一人の人間同士として普通の対応をすればいいだけのことです。

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親野智可等(おやのちから)

親野智可等(おやのちから)

親野智可等(おやのちから)

教育評論家。1958年生まれ。本名 杉山 桂一。
公立小学校で23年間教師を務めた。教師としての経験と知識を少しでも子育てに役立ててもらいたいと、メールマガジン「親力で決まる子供の将来」を発行。具体的ですぐできるアイデアが多いとたちまち評判を呼び、新聞、雑誌、テレビ、ラジオなど各メディアで絶賛される。また、子育て中の親たちの圧倒的な支持を得てメルマガ大賞の教育・研究部門で5年連続第1位に輝いた。読者数も4万5千人を越え、教育系メルマガとして最大規模を誇る。『「親力」で決まる!』(宝島社)、『「叱らない」しつけ』(PHP研究所)などベストセラー多数。人気マンガ「ドラゴン桜」の指南役としても知られる。長年の教師経験に基づく話が、全国の小学校や幼稚園・保育園のPTA、市町村の教育講演会で大人気となっている。
著書多数。
Webサイト http://www.oyaryoku.jp/

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