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ICT時代の国語辞典の役割/シリーズ 専門家にきく! 実践! 国語辞典を楽しく使いこなそう 学研 子ども向け国語辞典編集室インタビュー【最終回】(全4回)

ICT時代の国語辞典の役割/シリーズ 専門家にきく! 実践! 国語辞典を楽しく使いこなそう 学研 子ども向け国語辞典編集室インタビュー【最終回】(全4回)

先の「シリーズ 専門家にきく! 国語辞典のひみつ 学研 子ども向け国語辞典編集室インタビュー(全4回)」では、子ども用の国語辞典は限りない工夫とハイテクのかたまりだとわかりました。そこで本シリーズでは実践編として、子ども用の国語辞典を家庭で楽しく使いこなすコツ、ICT社会で国語辞典が果たす役割などについて、ひきつづき株式会社学研プラス 小中学生事業部 辞典編集室の森川聡顕副室長と今井優子編集長にお話をうかがった最終回(全4回)です。

第4回(最終回) ICT時代の国語辞典の役割

―スマホで言葉の意味が簡単に調べられる時代に紙の国語辞典はどのような形で存続していくのか興味があるところです。ICTの時代の国語辞典の役割についてお聞かせください。

今井:今の子どもたちは生まれたときからスマホがあるので、ネットで調べればなんでも出てきます。でも、そこで出てきた情報は、自分が調べた情報ではなく、ほかの人が調べたことを見ているだけなので、自分で調べるということとはちょっとちがいますよね。

そして、ネットには正しい情報も正しくない情報もたくさんありますが、それに対して本になっている精査された情報にはある程度、信頼性がある。そういう正しさが紙の国語辞典のいちばんいいところだと思います。

森川:ネットと辞書に関連するおもしろい事例を紹介します。わたしたちが出している類語辞典に『ことば選び実用辞典』というコンパクトサイズのものがあります。類語辞典というのは、「うれしい」というキーワードに対して「歓喜」とか「驚喜」とか、ちがう表現の言葉がたくさん並んでいる辞典なんですね。

この『ことば選び実用辞典』は刊行してもう10年以上たつのですが、なぜか去年の夏ぐらいから急に売れはじめたんです。

なんで急に売れ出したんだろうと思って調べてみたところ、シナリオを書く1人の人が「この本超便利!」というようなツイートをしたのがきっかけだったようです。それがものすごくリツイートされて、多くの方が実際に買ってくださって、この『ことば選び実用辞典』が品切れになってしまいました。営業の人もびっくりするような状況になって、それ以来ずっと、今でも売れ続けています。

―バズったんですね(笑い)。

森川:そうなんです。きっかけとなったツイートには、シナリオや小説などの文章作品を創作する方が多く反応しました。この方々は、イベントだけでなくpixivなどを使ってWeb上で作品を発表したり、 Twitterなどを使ってほかの人と交流したり、創作活動でネットを活用することも多いようです。

その人たちが“紙の辞書”を買って使ってみて「こんなに便利な本があったんだ」とツイートする。するとまた爆発的に売れてまたツイートされる。その繰り返しになっています。

スマホで無限の言葉の海の中で苦労して時間をかけて検索していたものが、1冊の本としてコンパクトにまとまっている。辞書は収録できる語数に限界がありますから、文字数を絞ってあるのですが、それが逆によかったんですね。そして調べるだけでなく、書くことにも使えると。

今までそういう本があることを知らなかった驚きもあって話題になったのではと推測しますが、「ネットで活動する人たちでも紙の辞書をいいと思ってくれるんだ、そういうことなら買ってもらえるんだ」と、わたしたちにとっても目からウロコが落ちたような新たな発見でした。

―それは、とてもおもしろい現象ですね。
一方で、ネットの発達にともなって積極的に文字に接していない層も増えてきていますが……。

今井: そうですね。でも、文字を読まないといっても国語辞典に関して言えば、1語についてだいたい2行か3行を読むだけなので、じつはそんなに大変なことじゃないんですよ。イラストもありますし、むしろ「国語辞典なら読める」ととらえていただくといいと思います。

―力強いお言葉ですね。文字や本が苦手でも国語辞典なら読めるなんて、そういうふうに思ってみたことがなかったです。

森川:ひとつひとつの言葉の解説はTwitterと同じくらいの分量ですからね。厚みにたじろがず、辞典を開いてみればじつはとてもシンプルなんですよ。

―おしまいに、いま子どもの使う日本語に思うことがあれば教えてください。

森川:文章を長く書かないほうに工夫を凝らしはじめていると感じています。
言葉自体も短くなりつつあって、近い感覚の人としかしゃべらなくなっている。だから長い文章が書けなくなった、というような話が聞かれます。

そこに危機感を持って、なんとかしたいと思った人が辞書に戻ってきている。現在は辞書ブームだと言われていますが、それだけでなく、もうちょっと広い社会的役割が辞書に帰ってきていると思っています。

 

思いもよらないお話をうかがうことができて、わたしにとっても目からウロコの連続でした。これまで勉強の道具だと思っていた国語辞典のイメージがガラリと変わり、国語辞典の奥深さと活用の可能性を感じることができました。

今日から親子で楽しく国語辞典を使っていけそうです。森川さん、今井さん、どうもありがとうございました。
 

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 梅本真由美(うめもとまゆみ)

 梅本真由美(うめもとまゆみ)

梅本真由美(うめもとまゆみ)

サイエンスライター。
長野県出身。NTT勤務を経てNTT系列の広告代理店で編集・マーケティング・企業向けWebページの企画制作などを担当。結婚後は専業主婦となる。2002年、 「天文台マダム日記」の公開がきっかけでライターに転身、朝日新聞・天文雑誌などに執筆多数。現在、月刊星ナビにて「天文台マダムがゆく」、国立天文台の公式サイトにて「天文台マダム VERAに夢中!」を連載中。

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