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ダメなお母さんなんて、本当はいないんです/くやまない、悩まない、自分を責めない――心がラクになるアドラー流子育て【第1回】

ダメなお母さんなんて、本当はいないんです/くやまない、悩まない、自分を責めない――心がラクになるアドラー流子育て【第1回】

自分も人も責めなくて良い「アドラー流の子育て」では、過去の原因にとらわれず、未来を見据え、これからの目的に目を向けます。あなたの子育てのお悩みを解決するヒントになるアドラーの考え方や手法を、この連載ではご紹介していく予定です。

ダメなお母さんのレッテルを貼られ…

長男が幼稚園に通い、下の双子の息子が2歳くらいの頃のことです。わたしは、生後1カ月で重度のアトピー皮膚炎と診断された双子を連れ、皮膚科の治療で有名な、ある大きな病院に通っていました。人気のある病院だったため、待合室はいつも満席。予約を入れているにもかかわらず、1時間待ちは当たり前の病院でした。双子の症状はとても重いもので、何種類もの塗り薬の他に飲み薬まで処方され、子どもたちはもちろんのこと、わたしも気の重い通院でした。

何回か通ったある時の医師の言葉を、わたしは今でも忘れることができません。「あ〜あ、お母さん! (子どもに皮膚を)かかせちゃダメでしょ。こんなに(症状を)ひどくしたら治るもんも治んないよ。お母さんがしっかり見ていなきゃ!」わたしは絶句し、病室を出てから涙をこらえることができませんでした。「わたしだって、子どもたちに治ってもらいたいからここに来ているのに。」「好きでかかせているわけじゃないのに。」『ダメなお母さん』のレッテルを貼られ、「子どものアトピーが良くならないのはあなたのせい」と責められている――そんな気がして、自分が情けなく、やりきれなかったことを、今でもはっきりと覚えています。

真面目で、子どものことを真剣に考えている保護者ほど陥りやすい落とし穴

さて、そんな経験を持つわたしが、今、多くのお母さんたちと関わってきて、思っていることがあります。それは、どんなお母さんも、毎日精一杯がんばっているということ。子どもを怒ってしまったり、子育てに悩んでいたりするのだって、子どもを愛しているからこそなんですよね。子どものためを思い、子どもの幸せを願うから、心を痛めるのであって、どうでも良いと思うならば、何も感じないし何もしないはずです。やり直しができない子育てだから、みんな一生懸命だと思うんです。

でも、残念ながら、わたしのように誰かから責められたり、あるいは、自分を責めたりするお母さんがとても多いのです。

子育ては、思い通りにいかないことの方が多いもの。
わたしの子育ても、実はうまくいかないことばかりでした。学校に遅刻しそうなのに、いつまでも身支度しない長男にイライラしたり、ささいなことでけんかしている双子の次男三男を怒鳴ってしまったり、仕事で疲れて帰って来るのはわかっていても、自分のことが優先で、用事が済んだらさっさと寝てしまう夫にも、文句ばかり言っていました。本当は、いつもニコニコと優しく、子どもや夫の気持ちを考え、円満な家庭を築きたかったはず。なのに、現実は違っていました。思い描いていた理想の家庭、母親からは程遠かったように思います。

ありのままの自分を受け入れるアドラー流子育て

でも、振り返ってみると、そんな完璧でないわたしの子育ても決して悪いものではなかったと、今は思えるのです。と言うのも、わたしの心の中には、いつも「自分の人生を決めるのは自分自身」「ありのままの自分を認め、好きになる」という人生の指針とも言える言葉があったから。これを唱えているのが、フロイトやユングと並ぶ三大心理学者の一人、アルフレッド・アドラーです。「勇気づけの心理学」とも言われる「アドラー心理学」ですが、わたしが教員をしていた頃から学んできた、この「アドラー心理学」が、わたしの大変だった子育てに、勇気と希望を与えてくれたのでした。

アドラー流の子育てで大切なこと。それは「ありのままの自分を受け入れる勇気を持つ」ということです。完璧な人間はいません。不完全な自分を受け入れることの必要性をアドラーは説いています。世の中に、本当にダメな母親なんていないと、わたしは思います。完璧な母親になる必要もないと思うんです。理想の子育てができない自分を責めても、良いことなど一つもないとも思います。でも、そうは言っても、「そんな子育てでは、子どもを伸ばせないのでは?」という声も聞こえてきそうです。なので、ここでちょっと考えてみてほしいことがあります。

ありのままの自分を好きになれない親の子どもが、ありのままの自分を好きになれるでしょうか? 「君はそのままでいいんだよ。ありのままのあなたが好きよ。」子どもにそんなふうに言ってあげたいのであれば、まずはお母さん自身がお手本となってはいかがでしょう。毎回毎回では困りますが、たまにはイライラしたって良いんじゃないでしょうか。自分を責める人は、子どもも責める傾向があると言われます。まずは自分を許す。そして、子どもも許す。という寛大な心が必要なのかもしれませんね。自分も人も責めなくて良い「アドラー流の子育て」では、過去の原因にとらわれず、未来を見据え、これからの目的に目を向けます。あなたの子育てのお悩みを解決するヒントになるアドラーの考え方や手法を、これからご紹介していく予定です。どうぞお楽しみに。

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松井美香(まついみか)

松井美香(まついみか)

松井美香(まついみか)

東京音楽大学ピアノ専攻卒業。「勇気づけの音楽家」。大学卒業後約10年間公立中学校に勤務。その頃偶然、教員研修でアドラー心理学に出会い、岩井俊憲氏の元で学び約25年が経過。自身のピアノ教室や子育てにおいてアドラー心理学を実践する中、子どもたちが音楽や部活動を続けながらも有名大学に続々と合格し夢を叶えている。長男(21歳)と双子(18歳)三人の男子の母。現在、保護者や音楽指導者に向け、執筆やセミナーを通して「勇気づけの指導法」を広める活動をしている。

*学研「おんがく通信」にて、コラム「勇気づけのピアノレッスン」連載中

*学研プラス出版「あなたの想いが届く愛のピアノレッスン」にて、手記「ある教室のささやかなサクセスストーリー」を執筆

松井美香公式ホームページ:

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