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プロセスをほめられた子どもは、学ぶ力が伸びる/AI時代を生き抜くために 「失敗力」を育てる6つの栄養素【第9回】

プロセスをほめられた子どもは、学ぶ力が伸びる/AI時代を生き抜くために 「失敗力」を育てる6つの栄養素【第9回】

シリーズ『AI時代を生き抜くために 「失敗力」を育てる6つの栄養素』では、子育てにおいて、どんな時代でも変わらず必要なこと、そして、AI時代に必要な技術や能力の育て方を、6つのカテゴリーに分けて、最新の学術研究などをもとに紹介します。今回は連載9回目です。

ほめられているのに、できないと思ってしまう、意外な落とし穴

みなさんは、できるかどうかわからないことにチャレンジすることになったとき、ワクワクしますか? それとも、うまくいくかどうか心配になって尻込みしちゃいますか?

実は、この2つの違いは、生まれもった性格ではなく、マインドセット(心構えや、思考様式のこと)が影響しているという研究結果があります。

アメリカのスタンフォード大学の心理学者キャロル・S・ドウェック教授は、能力は同等でも、難問に直面したときに、あきらめてしまう人と、粘り強くがんばろうとする人がいるのはなぜかという疑問を解決するために、20年以上にわたってあらゆる研究をしてきました。

その結果、両者の分かれ目は、「能力に対する考え方とほめ方」であるということがわかったのです。

「すごいね」ではなく、「よくがんばったね」とほめる

象徴的な実験として、次のようなものがあります。

思春期初期の子どもたち数百人を対象に、知能検査のかなり難しい問題を10問解いてもらいました。ほとんどの生徒が同じような成績でしたが、問題を解き終わったあとで生徒を2つのグループに分け、かける言葉をかえたのです。

一方のグループでは「良くできたわ。頭がいいのね。」とその子の能力をほめました。もう一方のグループには「良くできたわ。がんばったのね。」とその子の努力をほめました。

その後に、新しい問題を見せて、新しい問題に挑戦するか、同じ問題をもう一度解くのか、どちらかを選ばせたところ、2つのグループの間で、明確に差が現れたそうです。

新しい問題にチャレンジしたのは、どちらのグループだったと思いますか?
結果は、努力をほめられた生徒たちでした。

頭の良さをほめられたグループは、新しい問題を避けて、同じ問題を解こうとする傾向が強かったそうです。

新しい問題にチャレンジして、もしうまくいかなかったら、自分の能力を疑われるかもしれないという気持ちがはたらいたため挑戦しなかったのです。

次に、さらに難しい問題を出したら、頭の良さをほめられたグループは、難問を解くことに不安を感じ、自分はちっとも頭が良くない、こんな問題を解いても楽しくない、と思うようになり、最後には自分は頭が悪いのだと考えるようになりました。

一方、努力をほめられたグループは、難しい問題は当然かんたんには解けないのだから、「もっとがんばらないと」と考えました。解けないことを失敗だとか、頭が悪いからだとも思わず、新しい問題にどんどんチャレンジし、実際に成績も良くなっていったそうです。

さて、難問が出されたあと、頭の良さをほめられたグループは、成績ががくんと落ち、再びやさしい問題を出されても回復しなかっただけでなく、自分の能力に自信がなくなり、スタート時よりも成績が落ちてしまいました。

一方、努力をほめられたグループの成績はどんどん良くなっていきました。難問に挑戦したことで、スキルに磨きがかかり、すらすら解けるようになったというのです。

最初はほとんど差がなかったのに、かける言葉によってこんなに違いが出るとは驚きです。

頭の良さは生まれつき? それとも努力しだい?

こうした研究から、ドウェック教授は、人は次の2つのタイプに分類できるといいます。

  1. 才能や頭の良さは生まれつき決まっていると考えるタイプ
  2. 能力は、一生懸命がんばれば身につけることができると考えるタイプ

新しいことに挑戦するのを避ける子どもは、1の傾向があり、学ぶことが大好きで何にでも挑戦しようとする子どもは、2の傾向があるようです。

そして、この違いには、幼少期からのほめられ方が深く関わっているということも長年にわたる研究でわかっています。

実験のように、
「こんな良い成績がとれるなんて、本当に頭がいいのね!」
と能力をほめるのではなく、
「こんな良い成績がとれるなんて、一生懸命に勉強していたからね。」
とプロセスをほめられてきた子どもは、「自分はがんばればもっとできるようになる!」と信じてより難しいことにもチャレンジするので、結果的に能力が伸びるのです。

わたしたち親は、子どもには学ぶことが好きになってほしいと願って、いろいろな言葉をかけますが、その結果、知らず知らずのうちに子どもが自分で限界をつくってしまうとしたら、それによって失うものは計り知れません。

AIや、IoT、量子コンピューターの登場など、圧倒的な技術の進化がもたらされると、自分で自分の人生を切りひらいていく力がますます大切になってきます。こんな時代だからこそ、失敗を恐れずにチャレンジすること。たとえ失敗しても、それをチャンスととらえる成長マインドをもつことが、子どもたちの宝になるでしょう。

そのためにも、能力は生まれつきのものではなく、努力しだいでだれでも伸ばしていけるものだということを伝えていきたいですね。

もしかしたら、この記事を読んでヒヤッとされた方もいるかもしれません。でも、大人になってからでも能力は努力しだいで伸ばせるということですから、子どもならなおさらです。いまからでもおそくはありません。お子さんへの声かけを、もう一度見直してみませんか?

※IoT(Internet of Things:モノのインターネット)モノをインターネットにつなぐこと。これによって、離れたモノの状態を知ったり変えたりすることができる。

結果ではなく、プロセスあるいは努力をほめる

中曽根陽子

中曽根陽子

中曽根陽子

教育ジャーナリスト

教育雑誌から経済誌、紙媒体からWeb連載まで幅広く執筆。子育て中のママたちの絶大な人気を誇るロングセラー『あそび場シリーズ』の仕掛人でもある。 “お母さんと子ども達の笑顔のために”をコンセプトに数多くの本をプロデュース。近著に『1歩先行く中学受験成功したいなら「失敗力」を育てなさい』『後悔しない中学受験』(共に晶文社)『子どもがバケる学校を探せ』(ダイヤモンド社)などがある。教育現場への豊富な取材や海外の教育視察を元に、講演活動やワークショップもおこなっており、母親自身が新しい時代をデザ インする力を育てる学びの場「Mother Quest 」も主宰している。公式サイトhttp://www.waiwainet.com/

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