子どもの伝える力を育てる2つのチャレンジ/AI時代を生き抜くために 「失敗力」を育てる6つの栄養素【第11回】
「別に!」「わかんない」。どんな会話も一言しか返ってこない子どもには、「脱ワンワード週間」宣言です。新学習指導要領でも重視されている「伝える力」を家庭ではどのように育てればよいのでしょうか? シリーズ『AI時代を生き抜くために 「失敗力」を育てる6つの栄養素』の第11回目です。
子どもの話はわかりにくい!と言うけれど……
みなさんは、お子さんの話を聞いていてイライラすることはないですか?
「ある、ある!」という声が聞こえてきそうです。
そうですよね。「子どもの話ってあいまいで、話の順番もぐちゃぐちゃで、なにをいいたいのかわからない」あるいは、「なにを聞いても『別に!』『わかんない』と一言で終わってしまうから、なにを考えているかわからなくて困る」という話はよく耳にします。
実はわたしも、子どもの話が最後がどこかわからないくらいぐるぐる回るのでイライラして、ついつい「で、結局なにがいいたいの」と言ってしまったことがあります。
子どもが安心して話をするためには、まず話しやすい環境をつくること。そのためには以前お話したように※、子どもの話を最後まで聴く態度がとてもだいじです。それと同時に、子どもが相手に自分の考えや気持ちをきちんと伝えられるようになることもだいじです。
では、どうしたら、自分が考えていることを筋道立てて伝えられるようになるのでしょうか?
「伝える力」は、新学習指導要領でも重要ポイント
子どもは言葉を知らないからじょうずに話せないけれど、大人になれば自然と伝えられるようになるかというと、そうでもなさそうです。
実はいま、この「伝える力」は学校教育でも注目されています。
2020年から施行される学習指導要領でも、“思考力・判断力・表現力”を育てることがうたわれています。そして、授業でも先生の話を黙って聞くだけでなく、生徒が自分の考えを発表する機会を増やしていこうとしています。わかりやすく伝えるというのは才能ではなく技術なので、訓練すればできるようになります。ですから話す機会を増やすのは伝える力を育てるためにもですね。
では、学校だけに任せていればいいのでしょうか?
わたしは、伝える力の基本は、家庭での会話を子どもが小さいころから工夫することによって身につけられるのではないかと思っています。とはいえ、ただ「ちゃんと話しなさい」と言えばできるようになるものでもなさそうです。
「脱ワンワード週間」と「1分スピーチ合戦」
じつは親子で楽しみながら、子どもの伝える力を育てる方法があるんです。それは、「脱ワンワード週間」と「1分スピーチ合戦」です。これは外資系の元経営コンサルタントで、社会人を対象に次世代のリーダーとなる人材を育成している三谷宏治さんが開発した方法です。
「脱ワンワード週間」というのは、
- 「わかんなーい」「べつに」「ビミョー」「むかつく」など、わが家のNGワードを親子で決めて(複数可)、それを1週間使わないことを約束する
- 「これから1週間、NGワードを使わず、きちんと文章で話す」という宣言をする
- 毎日夜に反省会をして、宣言が守れたらごほうびシールを貼ってあげる
というもの。
ワンワード禁止! にすることで、文章で話すように意識することになります。また、親のほうが「早く!」「だめ!」「宿題は!」など、1日のうちでワンワードを連発していることに気づくという結果が出ています。
そして、自分の考えを筋道立てて伝える力が身につくおすすめの方法が、「1分スピーチ合戦」です。
ルールは3つ。
- その日のできごとと、思ったことを1分で話す
- 聴き手はひとつだけ質問する
- それに答える
この3段階を親子でくり返します。
1分間で話せるのは原稿にして300字程度。まずは、今日やったこと(事実)を話す。それができたら、わかったことや、そこから思ったことも順番に話します。このときだいじなのは、絶対に途中で口をはさまないで最後まで聴くこと。そして、話し終わったらパチパチと拍手。あくまでも楽しく! がだいじです。
質問は、話し方や内容を注意するのではなく、「よくそんなことに気がついたね」「あなたは、どう思ったの」と、もっと話したくなるような質問をして、子どもの“考えや言葉”を引き出します。そして、最後に良かったところやこうしたらもっと良くなることをお互いに話しておしまいです。
これをたとえば、食事のまえなど決まった時間に毎日続けます。
最初はうまく話せないかもしれませんが、訓練をすることで、自分の考えを短くわかりやすく伝えることができるようになります。親もいっしょにやることで、お互いをよく知ることができますし、大人にとっても話し方の訓練になりますね。
「そんなめんどうくさいことできない」と思っているあなた。
実際、この2つの取り組みを行なっている小学校では、およそ7割の子どもたちが熱心に取り組み「自分の言葉遣いが良くなった」と自己評価したそうです。ポイントは、ゲーム感覚で楽しくやることです。ぜひ、試してみてください。
考えてみれば、親の話こそ筋道だっていなくて、あいまいで、子どもに本当の気持ちが伝わっていないことの方が多いかもしれません。「早く!」→「うるさい」というワンワードの応酬でストレスをためるより、親子で自分の気持ちや考えをきちんと文章で伝える訓練をしたほうが、結果的にどちらもハッピーになれそうです。
子どもたちが生きることになるグローバル社会では、“あうんの呼吸”とか“以心伝心”は通用しません。子どもたちは今後ますます、多様な価値観をもった人と関わり合うなかで、自分の考えを筋道立てて、分かりやすく言葉にして伝えることが求められるようになるでしょう。
そのときに子どもが困らないためにも、ゲーム感覚で、わかりやすく伝える訓練をしてみませんか?
参考文献
『親と子の伝える技術』三谷宏治著(実務教育出版2013年)
三谷宏治オフィシャルウエブサイト
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