メニュー閉じる

【夏休み明けが要注意!】医師&養護教諭に聞いた学校での熱中症対策

【夏休み明けが要注意!】医師&養護教諭に聞いた学校での熱中症対策

近年続出する熱中症のニュース。運動会や体育祭の練習中など、学校現場で救急搬送されたケースも少なくありません。子どもたちを熱中症から守るために、学校として対応できることは何でしょうか。今回は、帝京大学医学部附属病院の高度救命救急センター長を務める三宅康史医師、そして高校の養護教諭として日々生徒たちと接している堀恵子先生に、学校現場での熱中症対策についてお話をうかがいました。

≪今回お話をうかがった方≫

三宅康史さん

帝京大学医学部救急医学講座教授。帝京大学附属病院高度救命救急センター長。1985年東京医科歯科大学医学部卒業。専門は救急医学。テレビ、新聞、雑誌、WEBなど数多くのメディアを通じて、熱中症の危険性と対策を訴え続けている。

堀恵子さん

岐阜県公立高校の養護教諭。2001年愛知教育大学卒業。工業高校、中間定時制高校勤務を経て、現在は全日制普通科高校にて勤務9年目。勉強・行事・部活動に打ち込む生徒たちの体と心の健康の保持増進に日々向き合っている。

【養護教諭に聞く】学校現場の実情と熱中症対策

まずは、岐阜県内の公立高校で養護教諭をされて20年の堀恵子先生にお話をうかがいます。以前に比べ、熱中症と思われる症状の子どもが増えていると感じることはありますか?

「とても多くなりましたね。昨日も、一時間目の最中に手足のしびれとめまいで倒れた子がいましたし、今日も偏頭痛を訴えて早退した子がいました。私が教員になったばかりの頃と比べてはもちろんですが、数年前と比べても、格段に暑くなっていると感じます。もはやエアコン無しでは授業は不可能です。2018年、愛知県豊田市の小1児童が校外学習後に熱中症で死亡するという悲しい出来事がありましたが、あのニュースをきっかけに、小中学校でエアコンはマストだという流れになったと記憶しています。特に今年(2022年)は梅雨が短く、体が暑さに慣れないまま、真夏のような気候になりました。例年のような暑熱順化が難しいので、余計に体調不良を訴える子が多いです」(堀先生)

 

確かに、大人でも暑さに慣れず体調不良になってしまうような気候が続いています。では、熱中症になった、もしくは疑われる症状の子どもに共通する特徴はありますか?

朝食を食べていない、 寝不足、この2つがほぼ100%当てはまります。加えて、少し前から体調が良くなかった、ストレスを抱えていた、疲れがたまっていた……これらの悪条件が重なった子ほど、熱中症になりやすいと見受けられます」(堀先生)

●熱中症を出さない!学校としてできること

では、堀先生の高校では、どのような熱中症対策をされているか教えてください。

熱中症に注意すべきは、ゴールデンウィーク明けと夏休み明けです。つまり、長い休みが終わって、学校生活が始まるタイミングですね。休み中はどうしても夜ふかしをしたり、食事時間がバラバラになったりする子が多く見られます。特に夏休みは、日中の気温が高いため、外出を控えて一日中家の中で過ごすことが多くなりがちです。そういう状態が、もっとも熱中症になる危険性が高いので、夏休みに入る前の三者懇談時に必ず『夏休みが終わる一週間前から、生活のリズムを整えるよう意識してください』と保護者の方にも伝えています。

加えて、暑い時期に体育祭を行う場合は、まずは室内練習、その後グラウンドでの練習といったように、暑さに少しずつ体を慣らすことを意識しています。持ち物は、大きめのタオル帽子氷をたくさん入れた水筒は必須。体を冷やすために、凍らせたペットボトルも持たせます。体育祭当日は、保健係が塩分チャージできるタブレットを配ったり、紙コップに粗塩を入れて舐めさせたりして、定期的に塩分がとれるような対策もしています。

夏場の体育の時間は、授業時間のうち実質外にいるのが35分だとすると、2回は休憩を入れるよう指導しています。日陰に行って水分補給をして、少ししたら再開……といった具合です」(堀先生)

●万全の体制を整えたうえで、いざとなったら救急搬送を

かなりきめ細やかな対応をしているのですね。

「どの学校も、対策をしていないところはないと思いますよ。厚生労働省から熱中症対策の注意事項が書かれた冊子が送られてきますし、体育祭や校外学習など暑い時期の行事があれば、かなり早い段階から教員内で対策委員会を発足し、熱中症対策をどうするか何度も話し合ったうえで、開催します。もちろん、開催時期から検討したうえで、です。それでも、悪条件が重なってしまうと、熱中症の子どもが出てしまうんですよね。

子どもたちには、とにかく朝食を食べてくること。夜はしっかり眠ることを口を酸っぱくして伝えています。あとは、保護者の方の声かけも大きな意味がありますね。朝送り出すときに『暑かったらマスクは外していいからね。水分をしっかりとってね』と一声かけてもらうだけで、子どもたちの意識は変わると思います。

私自身、学校は救急車を呼ぶべき第一優先の場所だとずっと教えられてきました。特に熱中症は、そのときはそこまで症状がひどくなくても、時間が経ってから気分が悪くなったり、意識がなくなったりするケースがあります。子どもの予後のことを考えて、いち早く医療機関につなげる責任があるので、いざというときは迷わず救急車を呼ぶ。その判断だけは間違えないようにと、肝に銘じています」(堀先生)

【医師に聞く】周囲ができる熱中症対策

続いては、さまざまなメディアで熱中症対策について情報発信をされている三宅康史医師に、周囲ができる熱中症対策についてうかがいます。子どもを含め、熱中症だと疑われる人を見つけた場合、どのように接したらいいでしょうか?

「特に子どもの場合、熱中症だと自分で気づくのは難しいものです。周りがいかに早く気づくかがカギですね。体育の授業や部活動で一緒に走っている子同士で、『あれ、ちょっと顔色が悪いよ。大丈夫?』とお互いに気にかけること。先生も、あまり体調が良くなさそうな子、家庭から体調不良の連絡が来ている子は、より一層目を配っておく。これが一番です。そのためには、学校と家庭でのコミュニケーションが不可欠ですね」(三宅医師)

●熱中症と疑われる人への声かけ法

では、様子がおかしいな、熱中症かなと思われる子どもがいた場合、どのように接したらいいでしょうか?

「まずは声をかける。この段階で反応がなければ、すぐに救急車を呼んでください。しっかり対話ができたら、冷たい水やお茶を渡して、自分で飲んでもらいます。というのも、こちらから飲ませてしまうと、誤飲の可能性があるためです。自分でペットボトルやコップが持てない、こぼれる、むせる……といった様子が見られたら、速やかに病院へ連れて行きましょう」(三宅医師)

 

最初に意識があるか否か、自分で水分がとれるかがポイントなのですね。

「その後も重要です。涼しい場所に移動して水も飲めた。これで大丈夫……ではないんですよね。少なくとも30分ほど、誰かがついていて様子を見ていることが大切です。30分休息をとって気分が良くなった、自分で立って歩ける、これでようやくOKです」(三宅医師)

●学校現場でもっとも熱中症に注意すべきシーンとは

学校現場で熱中症になりやすいのは、どのようなシーンでしょうか?

「やはり、全員が一斉に同じことをやっているときでしょう。運動会や体育祭の練習など、自分一人だけ抜けにくい雰囲気のときは、無理をしがちです。部活動などで、コーチも本人たちも熱が入って夢中で練習をしているときも気をつけるべきシーンですね」(三宅医師)

 

学校現場では特に、やはりお互いの様子を常に気を配ることが、熱中症対策で大切なのですね。

「あとは、本人の対策が一番です。朝食は必ずとることと、十分な睡眠は熱中症対策の基本です。熱中症は、悪条件が重なって起こることがほとんどできるだけその条件を少なくすることが、熱中症対策の最たるものでしょう。このことは夏休み向けのお知らせや三者懇談などで、積極的に保護者に伝えてもらうと良いですね」(三宅医師)

 

熱中症対策は学校現場だけではなく、家庭との連携が重要なんですね。ほかに学校から保護者の方に伝えておくと良い熱中症対策はありますか?

「子どもが出かけるときは、大きめの水筒に氷をたっぷり入れて持たせるようにしてもらいましょう。水よりも、ミネラルが多い麦茶がおすすめです。塩分に関しては、そこまで気にしすぎることはないですが、お味噌汁を少し濃く作ったり、塩気の多いものをおかずに加えたりすることは有効です。子どもの普段の食事量も気にかけてもらうと良いですね」(三宅医師)

学校と家庭の情報共有こそ、熱中症対策に欠かせないということがわかりました。部活動など夏休み期間中の活動時はもちろん、特に注意が必要な夏休み明けのタイミングで今一度子どもたちや保護者の方に、生活リズムを整え、しっかり熱中症対策をするよう伝えましょう!

(取材・文 水谷映美)

PAGETOP