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「プログラミング教育」のキホン――導入の狙いや実践事例を畿央大学・西端律子教授に聞く

「プログラミング教育」のキホン――導入の狙いや実践事例を畿央大学・西端律子教授に聞く

小学校で体験、中学校、そして高等学校で必修となった「プログラミング」。プログラミング教育の現状や、実践方法について、小学校や特別支援学校でのタブレット活用を早期から推進してきた、畿央大学教育学部の西端律子教授にうかがいました。

今回お話をうかがった方

畿央大学教育学部 西端 律子教授

畿央大学教育学部・教授 畿央大学大学院教育学研究科・教授 博士(人間科学・大阪大学) 文部科学省・情報ワーキンググループ委員、 文部科学省中央教育審議会「教育の情報化に関する手引」作成検討委員を歴任。

プログラミング必修化の目的と背景

文部科学省の新学習指導要領では、情報活用能力が、学習の基盤となる資質・能力の1つとして位置づけられ、小学校は2020年、中学校は2021年、高等学校では2022年からプログラミング教育が必修化となりました。プログラミング教育の目的とは、どのようなものなのでしょうか。

「小学校の学習指導要領には、“プログラミングを体験しながら、コンピュータに意図した処理を行わせるために必要な論理的思考力を身に付ける”とあります。論理的思考力を身に付けることは実は新しいものではなく、今までもいろいろな教科の中で教えられてきたことです。算数の問題を解くこと、国語で前後の文のつながりを考えることも、論理的思考です。これまでやってきたことのプラスアルファになるのが“プログラミング教育”なのです」(西端教授)

中学校の技術・家庭に「情報基礎」が入ったのは1993年、高等学校に「情報」の教科ができたのは2003年から。小学校ではこれまで、一部の先生が先駆的にプログラミングを教えているという状況でした。そんな中、小中高等学校と積み上げるためにも、小学校でもプログラミングを体験する流れができました。

背景には、技術が進化してAIをはじめとするさまざまなシステムが簡便になり、仕組みを理解しなくとも活用できるようになったこともあります。その仕組みを理解するために情報活用能力の育成の重要度が高まっているのです。

プログラミング教育の現状

プログラミングは教科ではないため、既存の教科の中で学ぶ機会をつくる必要があります。教科書では、算数と理科の中にプログラミングを扱う単元があるため、多くの先生はここでプログラミングを意識することになります。また、教育委員会の研修もプログラミングを扱う内容が多くなり、事例が示されたり、指導案を作成したりします。ただ、それ以外の教科や単元でも、教える取り組みがされていると西端教授は言います。

「さまざまなトライをされている先生方がいます。算数と理科以外にも、国語、社会、体育、音楽や図工など、各先生のアイデアや考え、ご自身の得意な分野、探究心に基づいた教材や指導案がつくられています」(西端教授)

指導案のアイデアとして、参考になるサイトについても、いくつかうかがいました。これまで、プログラミング教育の教材は海外のものが中心でしたが、最近では日本人が親しみやすい教材が増えているそうです。

<プログラミング教育の参考になるサイト>

NHK for School 「Why!?プログラミング」

文部科学省「小学校を中心としたプログラミング教育ポータル」

東京書籍「EduTown」

プログラミング教育の実践事例

プログラミング授業の研修会などを行うほか、共同事業としてプログラミング教育に関わっている西端教授。大学の近くにある小学校では、3年間かけて実践に取り組んだそうです。

「最初は、先生方も『何からすればいいの?』という状況でした。その中で、社会科の先生が、自身が興味をもっている“自動車”から発想し、自動運転のプログラムをつくりたいという話をしてくれました」(西端教授)

社会科には、5年生の社会科の学習指導要領には“工業生産に関わる人々の工夫や努力を捉え、その働きを考え、表現すること”とあります。。そこでこちらの先生は、将来子どもたちが運転する頃には実用化されているであろう自動運転のプログラムを子どもたちにつくらせたいと考えたそうです。

内容は、先生が大枠の道を描いて、そこから自動車がプログラミングで、そこからはみ出さないようにする工夫を考えさせるものです。ときどき飛び出す鹿にぶつからないようにする機能など、学校がある奈良県ならではの要素も盛り込まれました。

自動運転をテーマにしたプログラミング授業の様子。

「先生の発想力や探求力を引き出して、これをやってみようという気持ちになってもらうのが我々の仕事だと思います。プログラミングは難しい、怖いではそんな発想も出ないですからね。こちらの先生も、最初は得意ではないとおっしゃっていましたが、3年目には自分でもやってみようと思って、自動運転のアイデアを出してくれたのです」(西端教授)

もう1つの事例は、徳島県の海辺にある小学校です。各学年の児童数は5~6人と少ないですが、一人一端末だけでなく、“一人一ドローン”を実現しています。

「算数の教科書に掲載されている事例として、プログラミングで多角形を描くという授業があります。この小学校では、ドローンを制御して、空中に多角形を描く授業を実践していました」(西端教授)

ドローンを使った授業の様子。

体育館で実施された授業でしたが、窓から入る風の影響もあって、図形を描いた後に決められた位置に着地できないことがありました。すると子どもたちは、出発の場所を変えるなどの工夫をはじめたそうです。

「本来の多角形の授業とは違いますが、子どもたちは結果からフィードバックして、問題解決をはじめたんです。現実社会も、設計通りにいかないことのほうが多いですよね。子どもたちの試行錯誤を見ることができたのが興味深かったです。そうした考え方をできるのは、先生方のふだんからの授業の賜物だと思います」(西端教授)

“プログラミング教育のためのプログラミング”ではなく、生きる力、問題解決能力、学習の基盤となる資質能力と結びついたプログラミング。徳島の小学校が取り組んだ実践には、そのことがよく表れています。

特別支援学級とプログラミング教育

プログラミング教育の効果は、通常学級だけでなく、特別支援学級でも実感できるそうです。

「MINECRAFT(マインクラフト)のような、自分でワールドをつくる教材の場合、人と対面してしゃべるのが苦手な子どもも、自分の世界をつくり、友達をつくり、コミュニケーションを取ることができます。そこでリアルとは違う世界での生き方、居場所をつくることができるのです」(西端教授)

もう1つ、論理的思考力を育成する場面でも効果があります。特別に支援が必要な子どもは、認知的発達がゆっくりしている場合があります。アンプラグド教材のように、目で見て分かるものを組み合わせてその結果が出るものは、結果から類推して論理的な考え方を身につけるきっかけになります。また、発語が難しい子どもにとっても、教材を組み合わせて、できたものを見せることで、考えていることを表現できるようになります。

プログラミング教育のはじめの一歩

西端教授は、プログラミング教育に関する研修会などでは、最初に「先生方、泳げますか?」とよく問いかけるそうです。

教員採用試験には実技もあるため、どの先生も泳げるはずです。しかし、西端教授が「私はマスターズに出場して4種目全部を泳ぐことができて、個人メドレーもやります」という話をすると、自信を持って「泳げます」とは言いづらくなりますよね。

「“泳げますか?”といっても、“バタフライで”とは言っていません。クロールでも、犬かきでも、古式泳法でもいいんです。プログラミングも同じで、キーボードをカタカタとたたいて、プログラムをどんどんつくれるレベルかどうかは聞いていません。でも、プログラミングと聞くと、特別に難しく考えがちです。
文部科学省の文書には“慣れ親しむ”という言葉がよく出てきますが、日常生活の身近な問題解決にプログラミングが使われているんだっていうことを、先生方も子どもたちも理解することが基本なんですね」(西端教授)

関連リンク

さまざまなオンライン講座を無料で受講できる“先生の学び応援サイト”「IMETS Web」にて、本記事でお話をうかがった西端 律子教授の講座「小学校におけるプログラミング教育」が配信中! プログラミングに必要な考え方からさまざまなプログラミング教材まで、実践事例とともに紹介しています。

くわしく以下のリンクからご覧ください。

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