冬の晴れた日にはよく見えていた遠くの山が、春になると何だかいつもと違って見えにくいなと感じたことがありませんか? 晴れているのに、どことなく空気がぼんやりとして、空も白っぽくはっきりしない色…。これは気のせいではありません。じつは春は、冬に比べて、黄砂や花粉などといった空気中に漂う不純物の量が増え、それが原因で景色が白っぽくかすんでしまうのです。
空気中の大きな不純物で光がいっぺんに散乱
春のかすんだ空気のことを「春霞」と呼びますが、その美しい響きとは裏腹に、実体はキレイとはいえないものなのです。
1年の中でも春と秋は、気温は同じくらいですが、空の色は違います。秋は「天高く馬肥ゆる秋」と呼ばれ、空が真っ青で高いところまであるように感じます。これは、秋の空気が春に比べて空気がきれいで澄んでいるからです。
では、なぜ春は空が白っぽくかすむのでしょうか。それは、太陽の光が空気中で大きめの不純物とぶつかって散らばると白く見えるようになるからです。空気中に漂う不純物とは、土から舞い上がった土ぼこりやスギなどの花粉、そして大陸から偏西風に乗って運ばれてくる黄砂などです。
太陽光は、さまざまな色が集まって白く見えます。太陽光のさまざまな色は、それぞれ波長が違います。そのなかで、短い波長の青い色が空気を構成する窒素や酸素などの分子とぶつかると強く散らばってあちこちへ広がります。このような光の現象を「散乱」といい、散乱によって昼の空が青く見えたり、朝焼けや夕焼けの空が赤く見えたりします。この、空を青く見せたり赤く見せたりする散乱を「レイリー散乱」といいます。
そして、太陽の光はもっと大きな不純物にぶつかると、すべての波長がいっぺんに散らばります。すべての波長が散乱すると、目に入る光は白く見えます。これを「ミー散乱」といいます。春に空気中を漂う土ぼこりや砂粒、そして植物の花粉は、酸素や窒素の分子よりも大きいため、レイリー散乱ではなくミー散乱が起こります。そして空が白っぽくなるのです。
なお、雲が白く見えるのもミー散乱の仕組みです。雲の粒は水や氷の小さな粒です。これらは本来は無色透明ですが、太陽光がミー散乱を起こすことで白く見えるのです。身近なものでは牛乳の白さも挙げられます。牛乳の中の、水に溶けないタンパク質や、乳脂肪の粒が光に当たることでミー散乱を起こし、わたしたちの目には白く見えるのです。
実験してみよう
身近なものを使ってミー散乱とレイリー散乱を目にすることができる実験ができます。
準備するもの
・2Lペットボトル ※1.5LでもOK、光を照らす底の部分の凹凸が少ない方がきれいに見えます。
・牛乳5~8ml ※ペットボトルキャップ1杯程度
・床用ワックス5~8ml ※ペットボトルキャップ1杯程度
・スマートフォンのライト ※白色のLEDライトでもOK
実験手順
①ペットボトルに水と牛乳、水と床用ワックスを混ぜて入れます。
②ペットボトルを縦に持って、底から携帯電話のライトをつけて照らします。
③ペットボトルがどのように光って見えるか観察します。
牛乳を混ぜたものは全体的に白っぽく、床用ワックスを混ぜたものはライトに近いところが青っぽく、ライトから遠いところが赤っぽく光って見えませんか。これは、牛乳成分の粒子は大きくてミー散乱が起きていて、床用ワックスの粒子は小さくレイリー散乱が起こっているからです。