こたえ:分子間力がちがうからです。
サラダにドレッシングをかけるとき、びんを振ったり、スプーンなどでかき混ぜたりしてから使いますね。これは、ドレッシングにふくまれる油分と、それ以外の材料が溶けた酢が分離するため。油分と酢(水分)をよく混ぜてから使わないと、野菜にかかるのは油ばかりになってしまいます。また、せっかく混ぜ合わせた油分と水分も、すぐに油と水の層に分かれてしまうので、使うたびに混ぜなければなりません。
このように水と油が混ざりにくいのは、それぞれがちがう性質をもつからです。水も油も分子からできていて、水は水の分子どうしがおたがいに引き合って、油は油の分子どうしが引き合って集まっています。この分子どうしが引き合う力を「分子間力」といいます。分子間力が同じくらいの大きさの液体どうしは混ざりやすいのですが、分子間力がちがう液体どうしはなかなか混ざりません。水と油の場合、水の分子間力は、油の分子間力よりもかなり大きいため、このふたつは混ざりにくいというわけです。
では、水と油を混ぜ合わせることは絶対にできないのでしょうか。じつは、あるものを加えると、本来は混ざらない水と油を混ぜ合わせることができます。実験でたしかめてみましょう。
必要な材料は、水と油、コップ、わりばし、石けんです。まず、油を入れたコップに水を入れ、わりばしでかき混ぜます。これだけでは、水と油は混ざりませんね。次に、石けんを少しだけコップに入れて、同じようにかき混ぜます。すると、どんな変化があらわれるでしょうか。
コップの中身はだんだん白くにごっていき、やがて、とろみのある液体になるはずです。これは、石けんが水とも油ともなじみやすく、石けんと結びつくことで水と油の分子が引き合う性質が変化するからです。かき混ぜるうちに石けんが水や油と結びつき、その結果、水と油が均一に混ざり合うのです。
この実験の石けんのように、水と油の両方となじみやすい物質を「界面活性剤」といいます。そして、水と油のように本来は混ざらない物質が均一に混ざり合ってにごる現象を「乳化」とよびます。マヨネーズは、ドレッシングと同じように酢や油をふくみますが、もう1つの主な材料である卵の黄身にふくまれる成分「レシチン」が界面活性剤の役割をはたして乳化しているので、酢と油は分離しません(関連記事「動画で工場見学 キユーピー」)1)。
界面活性剤を使わずに水と油を混ぜる方法を1つ、しょうかいします。それは、宇宙へ行くことです。
地球上で水を油を1つの容器に入れると、重い水が下にしずみ、その上に軽い油が浮かんで、それぞれの層ができます。けれども、無重力では重さにちがいがないため、水も油も移動しません。両方とも細かいつぶになったまま、均一に分散します2)。
このことは、1973年にスカイラブ宇宙船で行った実験でも確認されています。地上では10秒ほどで分離していた水と油が、宇宙では10時間たっても分離しなかったそうです。
記事公開:2022年1月
参考資料
監修者:大山光晴
1957年東京都生まれ。東京工業大学大学院修士課程修了。高等学校の物理教諭、千葉県教育委員会指導主事、千葉県立長生高等学校校長等を経て、現在、秀明大学学校教師学部教授として「理数探究」や「総合的な学習の時間」の指導方法について講義・演習を担当している。科学実験教室やテレビの実験番組等への出演も多数。千葉市科学館プロジェクト・アドバイザー、日本物理教育学会常務理事、日本科学教育学会及び日本理科教育学会会員、月刊『理科の教育』編集委員等も務める。