こたえ:「発電所から送れる電気が足りなくなるかもしれません」と伝えて、節電を呼びかける注意報です。
「でんりょくじゅきゅうひっぱく」という響きには、たとえ言葉の意味が分からなくても「もしかして緊急事態!?」と警戒させる雰囲気がありますね。実際のところ「電力需給ひっ迫注意報」は、わたしたちにどんなことを伝えているのでしょうか。
まず、「電力需給ひっ迫注意報」という言葉を分解してみましょう。「電力」は、電気による1秒間当たりの仕事(エネルギー)を指します。「需給」は、あるものを求めること(需要)・与えること(供給)を縮めた言葉ですから、電力需給とは、わたしたちが使いたいと思う電力と発電所から送ることができる電力を指します。そして「ひっ迫」は、ゆとりがない状態。つまり「電力需給ひっ迫」とは、電力の需要と供給のバランスがくずれて、供給できる電力量に余裕がなくなった状態ということになります。このような状態になったとき、資源エネルギー庁は「電力需給ひっ迫注意報」を出して、「需要に対して供給できる電力量が足りなくなるおそれがありますよ」と広く呼びかけます。
次に、「電力需給バランスがくずれる」とはどんな状態なのかを考えてみましょう。電力会社は、あらかじめ需要の最大値(ピーク)を予測して発電量を決めています1)。1年の中で最も電力需要が大きくなるのは、気温が高く冷房がたくさん使われる夏。特に昼間は、気温が高い上に工場の機械などもたくさん稼働しているので、需要が大きくなります。天候によっても電力需要は変わるため、電力会社は常に変動する需要に合わせて発電量を調整しています。けれども、需要が急激に増えたり、地震などの影響で発電所が急停止したりして、需給バランスが大きくくずれる場合があります。そんなとき電力会社は、一定量の送電を停止(停電)して対応します。
もちろん電力会社は、停電を起こさずに安定して電気を送るための対策を用意しています。それは、電力の「予備率」。予想した需要のピーク値にいくらかの余裕を足して、発電量を設定しているのです。電力の需要には、予想に対して3%程度の増減があることから、最低でも3%の予備率が必要とされています。
この予備率を加えても供給力が足りなくおそれがある場合に出されるのが「電力需給ひっ迫注意報」です。資源エネルギー庁は気象情報や電力会社のデータなどをもとにして、翌日の電力需要を予測。午後4時をめどに、予備率が5%を下回りそうなときは「電力需給ひっ迫注意報」を出します2)。それよりも見通しが厳しく、予備率が3%を下回りそうなときは「電力需給ひっ迫警報」を発令します。
「電力需給ひっ迫注意報」や「電力需給ひっ迫警報」が出されたときは、照明を消したりエアコンの設定温度を変えたりして、積極的に節電に協力しましょう。そして、注意報が出たときだけでなく、ふだんから節電のための行動を心がけることも大切ですね(関連記事「「電力需給ひっ迫注意報」が出たらどうすればいいの?」)。
※ 電力の需給バランスがくずれて発電機の出力量(供給)が足りなくなると、電線を流れる電気の周波数(東日本は50Hz、西日本は60Hz)が低下します。周波数が低下し続けると大規模な停電につながる危険性があるため、電力会社のシステムは、周波数が低下したのを検知すると自動で一定量の送電を停止するしくみになっています3)4)。
記事公開:2022年8月
参考資料
監修者:大山光晴
1957年東京都生まれ。東京工業大学大学院修士課程修了。高等学校の物理教諭、千葉県教育委員会指導主事、千葉県立長生高等学校校長等を経て、現在、秀明大学学校教師学部教授として「理数探究」や「総合的な学習の時間」の指導方法について講義・演習を担当している。科学実験教室やテレビの実験番組等への出演も多数。千葉市科学館プロジェクト・アドバイザー、日本物理教育学会常務理事、日本科学教育学会及び日本理科教育学会会員、月刊『理科の教育』編集委員等も務める。