こたえ:相手と仲良くしたいという気持ちがあるからだと考えられています。
友だちがあくびをしたら隣にいた自分もあくびをして笑ってしまった、物語の登場人物や飼い犬のあくびにつられてあくびが出た、といった経験はありませんか? あくびはかぜやインフルエンザのような病気ではないので、細菌やウイルスによって伝染することはありません(関連記事「何のためにあくびは出るの?」)。けれども実際、あくびには「うつる」性質があることが知られています。これは、なぜでしょうか。
その理由として有力なのは「共感性」です1)。共感性は心理学の用語で、かんたんにいえば、相手と「うれしい」「楽しい」「悲しい」などの感情を共有できるかどうか。いっしょにいる人と仲良くしたいなと感じていると、知らず知らずのうちにその人の行動をまねしてしまうのです。その証拠に、友だちや家族のように身近な人ほどあくびはうつりやすい、という研究結果が報告されています。また、ヒトだけではなくほかの動物、たとえばチンパンジーどうしでもあくびがうつる場合があるそうです2)。
一方で、あくびがうつらない動物もいます。そのことを研究した例を1つ、紹介しましょう。2011年にイグ・ノーベル賞の生理学賞を受賞した「あくびの伝染はアカアシガメには見られない」という研究です3)。カメがあくびをしているところを撮影したりカメにあくびのような動作をさせたりして、仲間のカメに見せる実験をしたところ、あくびはうつりませんでした。この結果は、だれかがあくびをするのを見たら反射的にあくびが出るのではなく、相手に共感できるときにだけ出るということの証明といえるでしょう。
もう1つ、ほかの動物にもあくびはうつるのかを研究した例を紹介します。2013年の東京大学の発表によると、ヒトとイヌの関係とあくびのうつりやすさを実験で調べたところ、イヌとヒトの間でもあくびはうつることや、見知らぬヒトのあくびよりも飼い主のあくびの方がイヌにうつりやすいことがわかりました4)。実験中のイヌの心拍などから、研究グループは、あくびのうつりやすさには飼い主とイヌのきずなの強さが関係している、とみています。
こうしたさまざまな研究が進められていることからも分かるように、あくびは複雑な現象で、その原因や役割はまだ解明されていません。こうやってあくびについて考えているだけでも、あくびが出てきそう。 やっぱり、あくびはふしぎですね。
記事公開:2022年12月
参考資料
1)大原貴弘「あくびの動作パタンの生理的・社会的機能」『いわき明星大学人文学部研究紀要』第28号(2015年).いわき明星大学(現・医療創生大学)
2)松沢哲郎「連載 ちびっこチンパンジー 第34回『あくびの伝染』」『科学』.2004年10月号.岩波書店
※以下の京都大学霊長類研究所のホームページで読むことができます。
https://www.pri.kyoto-u.ac.jp/sections/langint/ai/ja/k/034.html
3)松沢哲郎「カメのあくびうつらない」『チンパンジーと博士の知の探検』2015年9月27日.日本経済新聞
4)東京大学「人からイヌにうつるあくびには飼い主とイヌの絆が重要であることを証明」.2013年8月8日:
https://www.u-tokyo.ac.jp/focus/ja/press/p01_250808.html
監修者:大山光晴
1957年東京都生まれ。東京工業大学大学院修士課程修了。高等学校の物理教諭、千葉県教育委員会指導主事、千葉県立長生高等学校校長等を経て、現在、秀明大学学校教師学部教授として「理数探究」や「総合的な学習の時間」の指導方法について講義・演習を担当している。科学実験教室やテレビの実験番組等への出演も多数。千葉市科学館プロジェクト・アドバイザー、日本物理教育学会常務理事、日本科学教育学会及び日本理科教育学会会員、月刊『理科の教育』編集委員等も務める。