夏になると、カンカン照りの青空が急に暗くなり、大雨が降ったり雷が鳴ったりすることがあります。急な大雨が夕方によく降ることから「夕立」と呼ばれます。近年では雨の降り方が激しく、ときには災害を引き起こすことも。もしかしたら、夕立というよりゲリラ豪雨という言葉のほうが、みんなには馴染みがあるかもしれませんね。夕立が起きる仕組みや、夕立が起きるときに注意するべきことを解説していきます。
夕立? 局地的大雨? ゲリラ豪雨?
夕立もゲリラ豪雨も、雨量について〇mm以下とか〇mm以上といった、はっきりとした基準はありません。夕立は夏に限って使われることがある気象庁の予報用語です。一方で、ゲリラ豪雨という言葉は正式な予報用語ではなく、気象庁からの予報では「局地的大雨」という言葉が使われています。夕立、ゲリラ豪雨、局地的大雨の定義・使われ方の違いについて、表にまとめてみました。
夕立 | 突然降り出す大雨で、にわか雨や驟雨ともいう。そのなかでも夏の午後から夕方にかけて発生するものが夕立とよばれる。雨量についての基準はない。 |
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局地的大雨 | 時刻・季節に限らず、急に強く降り、数十分の短時間で狭い範囲に降る大雨。雨量についてのはっきりとした定義はないが、だいたい数十mm程度のものを指す。気象庁では「ゲリラ豪雨」ではなくこの言葉を使う。 |
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ゲリラ豪雨 | 局地的大雨のこと。おもにテレビや新聞、ネットニュースなどで最近使われている言葉。 |
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夕立を降らす積乱雲
夕立を降らすのは、ひとつの積乱雲です。積乱雲の直径はひとつが数km~十数kmと比較的小さいため、雨の範囲は狭く、「夕立は馬の背を分ける」(馬の背中の片側は雨で濡れ、もう片側は雨が振っていないほど狭い範囲で雨が降る意味)ということわざもあるほどです。また、積乱雲は30分~1時間程度で消えてしまうので、夕立もそれくらいの時間で終わることが多いです。
積乱雲は、強い上昇気流によってできる雲です。夏は強い日差しで地面が照りつけられ、午後になると地表付近の空気が温められます。温かい空気は軽いので上昇気流になります。そして上空で上昇が止まると、止まった場所が雲のてっぺんになります。夏は地上と上空の気温との差が大きいため強い上昇気流が発生しやすくなり、ソフトクリームのように背の高い入道雲(雄大積雲)ができます。
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ときには上昇気流は上空十数km付近、対流圏と成層圏の境目まで到達することもあります。すると空気がこれ以上は上昇できずに横に広がり、雲のてっぺんも平らになります。これが積乱雲です。てっぺんが平らな形で、金属加工などで使われる「金床」に似ていることから「かなとこ雲」と呼ばれることもあります。
上昇気流に逆らって落ちてくる重く大きな雨粒
雲の上の方では、水や氷でできた雲の粒が周囲の水蒸気を取り込んだり、雲の粒同士がくっついたりして次第に大きくなっていきます。すると、重くなった粒は雲の中の上昇気流では支えきれずに落下していきます。積乱雲の上の方は氷の粒でできていますが、夏は落下していくうちにとけて、これが雨になります。
特に積乱雲は雲の高さが高いため、雨粒は落下する距離も長くなって大きくなりやすいです。しかも、上昇気流が強いので、ある程度に重くなるまでは落ちてきません。そのために積乱雲からは急に大雨が降ってくるのです。なお、寒冷前線に伴う激しい雨や集中豪雨、台風など、大雨をもたらす雲はすべて積乱雲です。
積乱雲の中にある氷の粒は、とけて水になるとき周囲から熱を奪います。熱を奪われた空気は冷えて重くなり、下降します。さらに雨粒が落下するときに周囲の空気を一緒に引きずり下ろすことで下降気流が強まります。もともと積乱雲は強い上昇気流によって発達しましたが、この下降気流が上昇気流を打ち消すので、積乱雲は次第に弱っていき、ついに消えてしまいます。夕立が30分~1時間程度で終わってしまうのは、積乱雲がそれくらいで消えてしまうからです。
この下降気流が原因で、夕立の前にはひんやりとした風が吹きます。冷たい空気が吹き出ると、その影響でまた周囲で温かい空気の上昇気流が発生し、また積乱雲ができることがあります。同じ場所で長時間大雨が降り続く集中豪雨では、このように積乱雲が生まれては消えるという世代交代を繰り返しています。
急な大雨を避けるコツ
夏は、キャンプや釣り、山登り、花火など、外でのレジャーを楽しむことが多い季節です。しかし、夕立が発生したら、大雨で川が増水したり、雷が落ちたりするのでとても危険です。そのためにも、夕立が発生する兆しを見つけたら、すみやかに避難することが必要となります。しかし、夕立は狭い範囲で急に発生するため、今の天気予報の技術では「〇〇町に〇時〇分に夕立が発生します」と予測するのが非常に難しいです。ですから、下の3つのステップでうまく夕立を避けるようにしましょう。
- 朝のテレビの天気予報で「大気の状態が不安定」という言葉が出てくるかどうかをチェックしましょう。もし、この言葉が出てきたら、積乱雲が発生しやすいということなので、外にいるときはこまめに空を見上げてください。
- 空に入道雲が出てきたら黄色信号です。
- 「遠くでゴロゴロという音がする」「ひんやりとした風が吹く」「空が暗くなる」は、積乱雲が近づいてきたときのサインです。もし、大人が近くにいたら、スマートフォンで雨雲レーダーを見せてもらうと、いつ頃に雨雲がきそうかがわかります。
積乱雲は大雨だけでなく、雷も発生させます。特に海辺や草原などの高いもののない開けた場所にいると、落雷の危険が高まります。すぐに室内か車の中に避難してください。なお、雨宿りのために高い木の下に行くと、木に落ちた雷が人体を直撃しやすくなり、非常に危険なので絶対にやめましょう。
夕立は厄介ですが、安全に対処したあと、もし太陽が出ている間に雨が上がったら、ぜひ太陽とは反対側の東の空を見てみてください。空気中にうかんでいる多数の水滴に当たった太陽の光が水滴の中で屈折・反射することで、虹が見えるかもしれません。夕立のあとの涼しい空気も風情があってよいものです。
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