夏休みの大きな課題である「読書感想文」。中学生になると原稿用紙の枚数も増え、小学校のときの読書感想文とは少し違ったものを仕上げなくては……と戸惑っている人もいるのでは。これまで書いたことがなかったけれど、中学生になって初めて夏休みの宿題で出された! という人もいるかもしれません。そこで、司書教諭の経験を持ち、多数の書籍を監修している文章のプロ・塩谷京子先生に、中学生向けの読書感想文の書き方を教えてもらいました。
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中学生の読書感想文は小学生とココが違う!
中学生の読書感想文でポイントとなるのは、次の2点です。
1 本を読む前と後で、自分の視野がどう広がったかを考える
小学生の読書感想文では、本を読んだ感想を伝えることが大切でした。中学生ではそこから少し発展させて、本を読む前と読んだ後でどんな気づきがあったか、考えがどう深まったか、そして自分の気持ちがどう変化したかを比べてみましょう。
同じ物事を見ていても、AさんとBさんとでは見方が全然違うことがありますよね。本を読むことで、自分とは違ったものの見方や考え方を知ることができます。その違いを知るだけでも十分財産になりますが、さらに読書感想文としてアウトプット(発信)することで、新たな価値観として自分の中に刻むことができるのです。
私たちが普段触れている情報は、想像している以上に偏っています。たとえばインターネットで目にする情報やSNSの投稿は、自分と関係しているもの、興味関心があるものばかりが表示される傾向が強く、自分の視野を広げることは、なかなか難しいもの。だからこそ、読書を通じて自分の見方や考え方を広くすることは、これから先大人になって社会に出ていく中で必要とされる力でもあるのです。
2 心に残った「場面」や「言葉」を探す
中学生の読書感想文でもうひとつ大切にしたいのは、心に残った場面や印象的な言葉を見つけること。これまでも、もう一度読みたいページに付箋を貼ったりしていた人はいたと思いますが、中学生でカギとなるのは「その本ならではの言葉」や「著者が使っているオリジナルの表現」をピックアップすることです。
このあとのステップでも説明しますが、印象に残った場面を探し出し、それを自分の体験に引き寄せて考えることで、本を読むことを通して得た自分の考えや気づきがハッキリしてきます。このとき、その本ならではのオリジナルの言葉を使うことで、2つの関係性がより強調されるのです。
さらに、同じ構成の読書感想文でも、使われている言葉が違うだけで、読んでいる人への届き方はぐっと変わります。小学生のとき以上に、言葉にこだわってみてほしいのです。
そのためには、普段からたくさんの言葉に触れておくことが大切。そこで、昆虫採集をするように「言葉採集」をしてみましょう。辞書やインターネット検索を活用していろいろな言葉を調べることはもちろん、好きなマンガや小説、ドラマなどのセリフも参考になります。気に入った表現や心に残った言葉などは、ぜひ付箋やメモ帳、スマホなどに書き留めておくと良いですね。
この2つを意識して取り組むことで、小学生のときとは一味違った読書感想文になりますよ。
読書感想文を書くための3ステップ
いよいよ読書感想文に挑戦です。次の3つのステップ順に進めていけば、想像していたよりもスムーズに読書感想文が完成するはず。ぜひ楽しみながら取り組んでみてくださいね。
ステップ(1)読書感想文の本を選ぶ(作品選びのコツ)
自分の興味があるテーマの本を選ぶことが一番。すでに読んだことのある作品で、新しい発見があったもの、心が揺さぶられたものを選ぶと読書感想文を書きやすいでしょう。
これから探す場合は、学校や本屋さんで推薦されている本や、課題図書の「中学校の部」に選ばれているものから選ぶのがおすすめです。
小学生向きの本では、誰でもわかるような言葉でやさしく書かれています。それが中学生向きの本になると、その著者ならではの言葉や表現がたくさん盛り込まれるようになります。その著者の主張を見つけ出し、自分だったらこうする、と自分に引き寄せて考えることで、感想文が書きやすくなりますよ。
ステップ(2)読書感想文の骨組みを考える
本を選んで読み終わったら、次は読書感想文の骨組みに取り掛かりましょう。下記のピラミッドチャートに当てはめていくと、骨組みが作りやすいですよ。
- まずは、本を読んで自分が一番伝えたいことは何かをメモや付箋に書き出します。ここが、読書感想文の「まとめ」の内容になります。
- 次に、本の中で「心に残った場面・言葉」を見つけて書き出します。
- ②で抜き出した場面や言葉を自分や身の回りのことに引き寄せてみましょう。
- ②と③を比べて、自分なりの考えや気づきは何でしたか?
こうして書き出した②③④が読書感想文の「なか」になり、①の「まとめ」へと繋がります。なお、②③④は全部で2~3セットあると、より具体的で相手に伝わる読書感想文になりますよ。
<例>読書感想文の骨組み
【一番伝えたいこと】
嘘をつくのが悪いことだと決めつけることはできない。友だちの話に耳を傾けると、相手の本音や悩みを打ち明けてくれて、力になれることがある。
【場面・言葉】
主人公はすぐ嘘をつくことで有名。周りのみんなから嫌われている。
【自分に引き寄せる】
友だちに嘘をつかれて、傷ついた経験がある。
【自分の考え・気づき】
嘘は人を傷つけるから、嘘はつかない方がいい。
【場面・言葉】
嘘ばかりついていた主人公は、じつはある大きな悩みを抱えていた。その悩みを隠すために、嘘をついていたことがわかった。
【自分に引き寄せる】
自分にも、人に言いたくないことがある。打ち明ける相手がいなくて、つい嘘をついてしまう気持ちもわかる気がする。
【自分の考え・気づき】
嘘をつく裏側には、他人にはわからない悩みがあるかもしれない。
ステップ(3)「つかみ」「なか」「まとめ」の3パートにまとめる
骨組みが出来上がったら、あとは小学生のときと同じように、「つかみ」「なか」「まとめ」の3つのパートにわけて書き上げていきましょう。
「なか」と「まとめ」は、読書感想文の骨組みでメモしたものをまとめていけばOK。
「つかみ」は、「このあとの文章を読みたいな」と思ってもらうための部分です。どうしてこの本を選んだのか、本との出会い、本の中で一番心に残ったこと・伝えたいことなどを書きます。「まとめ」で書いた内容を「つかみ」にも持ってくるのもインパクトがあって面白いですね。
いきなり「つかみ」を書くのが難しければ、「なか」と「まとめ」を書いてから、最後に「つかみ」を書くのもおすすめです。
▶読書感想文の書き方3ステップ
さらにブラッシュアップしたい人は「言葉の言い換え」にチャレンジ!
ここまでで、読書感想文は完成!
もしも「もう少し頑張ってみたい!」という場合は、さらに一工夫してみましょう。今、読書感想文の中で使っている言葉を、別の言葉、違った表現で言い換えてみるのです。と言っても、難しい言葉に言い換える必要はありません。
たとえば「友だちは大切だ」とメモしたのであれば、「友だちとの間には、かけがえのない繋がりがある」「友だちは私を変えてくれる存在」のように、「友だちは大切だ」という一文をどんどん発展させていきます。
なかなか浮かばなければ、同義語辞典やインターネットのキーワード検索で「友だち」と調べてみましょう。いろいろな言い換えや名言などがたくさん出てくるはずです。
「一緒にいるとこのうえなく楽しい」「自分にとって大切な味方」といったものも、「友だち」の言い換えのひとつ。表現自体を変えてしまってもいいですね。たとえば、「友情のはじまりは笑顔だ」とか。「光の中を一人で歩くより、闇の中を友だちと歩きたいと思います。友がいれば、世界は日々生まれ変わります」というのは、ヘレンケラーの名言です。
こうした言い換えをどんどん進めていき、読書感想文の中に盛り込んでいきましょう。たくさんの言葉を用いることで、あなたならでは読書感想文に仕上がります。
もっと読書感想文をラクにするコツ
今回お伝えした手順通りに進めていけば、自分の考えや想いがしっかり盛り込まれた読書感想文が書けるはず。
ちなみに、下準備はあくまでもメモ程度と考え、最初からいきなり完成させようと思わないことがポイント。有名な作家さんも、最低5~6回書き直して推敲すると言います。ステップごとに書き留めていって、あとで繋げてもOKですよ。
メモとして書き出すのが大変であれば、スマートフォンなどの音声入力を使ってもいいですね。よりラクに、自分が進めやすい方法を選んで、今年の読書感想文にチャレンジしてみてくださいね。
お話を聞いた人:塩谷京子さん
放送大学客員准教授/関西大学・昭和女子大学非常勤講師、博士(情報学)。静岡県の公立小学校教諭、関西大学初等部教諭/中高等部兼務を経て現職。図書館教育、情報教育に取り組み、著書を多数執筆。教育用情報システムの開発・研究にも複数参加している。現在大学では「司書教諭資格取得科目」を担当。
取材・文/水谷映美