夏休みも気づけば残りわずかとなりました。「読書感想文」にはもう取り組みましたか? これまで学研キッズネットでは、文章のプロ・塩谷京子先生に読書感想文の書き方のコツを教えてもらってきました。今回はその実践編として、編集部の新人スタッフが書いた読書感想文の校正を塩谷先生に依頼。その結果をもとに、どのような点に注目するとより相手に思いが伝わる感想文になるかを一緒に見ていきましょう。
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読んだ本:『ふしぎな木の実の料理法』(岡田淳・著)
今回、編集Iさんが読書感想文の課題図書として選んだのは、『ふしぎな木の実の料理法』(岡田淳・著/理論社・刊)。謎に包まれた不思議な森に住む主人公・スキッパーと個性的な住人たちとの、ユニークで心がじんわり温かくなる物語です。小学4年生の国語の教科書に載っている作品なので、読んだことがある人もいるのではないでしょうか。
Iさんが本気で取り組んだ読書感想文はこちらです。まずは読んでみてください。
「自分の扉を開くこと」編集S・I
① 誰かと直接言葉を交わさなくても生きていける世の中になった。昼食のハンバーガーやシャンプーも、画面をタップするだけで誰かが玄関まで届けてくれる。とても便利だ。
② 二十年ほど前までは珍しい色のペンは遠くの店まで行かないと買えなかったし、レジではおしゃべり好きな店員のおばちゃんに捕まったりした。様々なことが不便で、少し面倒くさかった。
③ この本の主人公であるスキッパーは、同じ森に住む誰とも交流せず、家にこもって好きな化石や本ばかり眺めている。面倒な人付き合いを避けてスマホの世界に閉じこもる、現代の人たちに少し似ている。
④ ある日スキッパーは自宅に突然送られてきた木の実の料理法を探して、やむなく森の住人たちを訪ね歩くことになる。ある人は騒がしかったり、逆にとっても無口だったりと、会話に慣れていないスキッパーは振り回されて、どっと疲れてしまう。
⑤ しかし、そんな個性豊かな住人たちと交流するにつれて、少しずつスキッパーに変化が起きる。物書きのあの人は自分と好きな本が一緒で、ぶっきらぼうなあの人は実は誰よりも心優しい人だった。元々は名前しか知らなかった住人たちと言葉を交わすことで、段々と世界が広がっていく様子が描かれる。本の最後には思いもよらない形で料理法が分かるのだが、その喜びを共有する人ができたことが何よりの幸せだとスキッパーは気がつく。
⑥ 誰かと関わることは、とても厄介だ。時には悲しくて辛い思いをすることだってある。でも、偶然出会った誰かが、自分が想像もしない素敵な景色を見せてくれるかもしれない。(⑦)友人関係に悩み、人と関わることが怖かった小学生の私は、この本と出会って自分の扉を少しずつ開くことができた。今も扉の向こうには、面倒で心躍る世界が広がっている。
いかがでしょうか? まだ読んだことがない人も、思わず手に取りたくなる感想文ですよね。
構成と骨組みにあわせて感想文を組み立てよう
それではいよいよ、塩谷先生の赤字入り原稿を見ていきましょう。
塩谷先生のコメント
「Iさんが、この本と出合ってどう変わったか?」がしっかりと読み手に伝わる読書感想文ですね。タイトルもブラッシュアップされていると感じます。このままでも十分素晴らしいですが、さらに相手に思いが伝える文章にするために、2つの推敲案を考えてみました。
推敲案A
照らし合わせて見てほしいのは、読書感想文の3つのパートです。
段落①②③が「なか1」、④⑤⑥が「なか2」にあたると考えると、「つかみ」と「まとめ」を追加する必要があります。
たとえば、タイトルの「自分の扉を開くこと」へとつながるような、本と出合ったきっかけや、本の中にある印象的な言葉を使って「つかみ」を書いてみてはどうでしょうか。⑥の最後にある「面倒で心躍る世界が広がっている」の一文を核として、「まとめ」を加筆するのもいいですね。
▶【読書感想文の3ステップ】の詳しい説明はこちら
推敲案B
「まとめ」を⑥、「つかみ」をタイトル部分と考えると、①②③が「なか1」、④⑤が「なか2」となります。ただ、「なか②」は少し物足りない印象です。
ここで、「読書感想文の骨組み」に今回の感想文を当てはめてみます。
【一番伝えたいこと】
思い込みを捨てて新しいことにチャレンジすることの大切さ。
【場面・言葉】
人と接することが苦手な主人公は、誰とも交流せず家の中にこもっている。
【自分に引き寄せる】
インターネットで何でも手に入るようになり、人と接しなくても何でも手に入る便利な世の中になった。
【自分の考え・気づき】
人付き合いは不便で面倒だ。
【場面・言葉】
あることがきっかけで近所の人と交流するようになり、自分が知らなかった世界が広がっていった。
【自分に引き寄せる】
★この部分が書かれていない!
【自分の考え・気づき】
新しい一歩を踏み出せば、心躍る世界が広がる。
それぞれしっかりと盛り込まれているのですが、★部分の「自分に引き寄せる」内容がありません。だから、少し物足りなく感じたのですね。ここを追記すると、Iさんと本の関係がハッキリと見えてくるので、より相手に伝わる読書感想文になります。
自分の体験や見聞きしたことのなかから、「何かをきっかけにして、新しい世界が広がった」エピソードを盛り込むとよいでしょう。そのうえで、⑥の後半を⑦とすると、⑦が「まとめ」になり、読書感想文全体の構成がよりわかりやすくなりますよ。
▶【読書感想文の骨組み】の詳しい説明はこちら
文章を作るときに一番大切なのは「推敲」すること
読書感想文をはじめ、文章を書くときに大切なのは「推敲」です。つまり、一度書いた文章をもう一度読み、構成を練り直して、より良いものにすること。
というのも、読書感想文を読む相手は、あなたのことを何でも知っている大親友とは限りません。また、取り上げた本を読んだことがあるかもしれないし、まったく知らないかもしれないですよね。そんな相手に自分の言いたいことを伝えるためには、書き上げた読書感想文の文章構成をもう一度見直して推敲することがおすすめです。
自分の言いたいことがどの段落とつながっているか?という点を意識しながら再考することで、より相手に伝わる読書感想文になるでしょう。
すでに読書感想文を書いた人も、これから取り掛かるという人も、ぜひ塩谷先生に教えてもらった「3つのパート」と「骨組み」を意識しながら推敲してみてくださいね。
取材・文/水谷映美
お話を聞いた人:塩谷京子さん
放送大学客員准教授/関西大学・昭和女子大学非常勤講師、博士(情報学)。静岡県の公立小学校教諭、関西大学初等部教諭/中高等部兼務を経て現職。図書館教育、情報教育に取り組み、著書を多数執筆。教育用情報システムの開発・研究にも複数参加している。現在大学では「司書教諭資格取得科目」を担当。