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器用なのに、長く続かない/教えて! 陰山先生【第5回】

器用なのに、長く続かない/教えて! 陰山先生【第5回】

わたしには小6と中2の息子がいます。長男も次男も分け隔てなくどちらもがんばった時は誉めていますが、次男に「よくできたね」などと誉めても、素直に受け取れないようなのです。やればできるのに、なぜやらないのかと思ってしまいます。どうしたら、やる気にさせることができるのでしょうか。

質問

わたしには小6と中2の息子がいますが、今、小6の息子のことで悩んでいます。

小6の息子はもともと器用なのか、初めてやることが他の子よりも上手にできます。
たとえばサッカーチームに入ったばかりの頃、リフティングが上手にできたのですが、その後が続きません。

練習して自分より上手くなっていく友だちを見てもそれを悔しいと思わないようで

「そんなのできなくていいもん」

と言います。

勉強も同じで、最初はとてもよく理解しているのですが、その後が続かないのです。
先日も算数の成績が良くないので、問題集を見ながらアドバイスしたのですが、問題を解こうとしません。
仕方ないので放っておいたら、問題集を広げた状態のまま、30分くらいじっとしていました。

中2の兄は勉強ができるので、「がんばっても、どうせお兄ちゃんばかり……」と思っているようにも感じます。
親としては、長男も次男も分け隔てなく、どちらもがんばった時は誉めています。
しかし次男に「よくできたね」などと誉めても、素直に受け取れないようなのです。

兄に対するコンプレックスなのか、それとも反抗期なのか。
やればできるのに、なぜやらないのかと思ってしまいます。
どうしたら、やる気にさせることができるのでしょうか。

回答

子どものやる気が出ない場合、基本的な力不足が原因になっていることが考えられます。たとえば算数では、基礎的な計算力がなければ、そう簡単に成績が上がることはありません。

ですが、計算力をあらかじめ高めておけば、あとは算数の内容さえ理解できれば問題は解けるようになってきます。
このように基礎力があり、やれば意外とすんなりできてしまう状態は、子どもにとって意欲的になる理由となるのです。

しかし今回の場合は、はじめてやることがそれほど苦ではなく、上手にできるがゆえ、かえって課題を軽く見てしまい、結果的により向上していくための手立てをとろうとせず、そのことによって、意欲がなくなってきているように見えます。

まず、「そんなのできなくていい」と言うのがはたして本音なのか。もしかしたら何か別の理由があるのでしょうか。
たとえ最初上手であったとしてみても、本当に上手くなるためにはしっかりと練習しなければなりません。その練習のために、自分のしたいことができないと思えば、子どもにとって意欲的になれというは無理でしょう。
気になるのは、このお子さんが一番やりたいことは何なのか。そこがはっきりしないことです。

仮に、「Jリーガーになり、ワールドカップに出たい」と子どもが本気で思ったなら、サッカーの練習というのはそのためのものであり、自分にとってそれは「努力」とか「苦労」というより、上手くなるために好きなことをしているという「楽しみ」になってきます。
つまり「苦労なのか」「楽しみなのか」の違いは、そのやっていることに対して、自分がどのような思い入れをもっているのかということに尽きてくるのです。そうしたことを考えれば、サッカーが本当にしたいことではないのかもしれません。

一方、器用な人は、いろいろなことにチャレンジができ、自分が本当に好きなものは一体何なのかをいろいろと探せるという利点があります。「そんなのできなくていい」というのは、「レベルが低くてもいい」というより、「もっと自分が全力を尽くして取り組んでみたいものが他にあるから、だからそんなのはできなくていい」と言っているようにも思えます。

ただ、本当にやる気がないのか、自分自身のやりたいことが見つかっていないのかは、この文章では十分推し量ることは困難です。

算数のこともアドバイスを受け入れないのは、自信がないのか、あるいは兄に負けてしまうことを恐れているからか。何かしらの障害が心の中にあるのかもしれません。
大切なのは、算数の学習を大切なものと理解し、苦手なものをひとつひとつはっきりさせながら順に克服していくことです。

問題集を広げても何も書こうとしないのは、どうすればよくなるかがわかっていない証です。もし真面目に努力しても問題が解けなければ、自分の力のなさを思い知らされるしかありません。そこを避けるために、問題を解くことをしないようにしているとも思えます。

兄弟でくらべるのではなく、自分自身がその問題が解けないことに対して向き合い、何とかそれを解こうとする構えを持っておかなければいけません。そのためには自分自身に何ができ、何が足りないのかを自覚することです。

勉強は、ひたすら努力すればできるわけではなく、自分のレベルを知り、自分の足りていないところを埋める努力をし、そして必ずよくなるという見通しをもって学習するものです。

自分の課題を克服し、達成するには何が必要なのかを見定め、それを着実にこなしていくプロセスが求められていると思います。そこを子どもが理解すれば、兄とくらべられるという感覚ではなく、自分自身のやるべきことを自覚するようになってくるでしょう。

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陰山英男(かげやまひでお)

陰山英男(かげやまひでお)

陰山英男(かげやまひでお)

1958年兵庫県生まれ。岡山大学法学部卒。
兵庫県朝来町立(現朝来市立)山口小学校教師時代から、反復学習や規則正しい生活習慣の定着で基礎学力の向上を目指す「隂山メソッド」を確立し、脚光を浴びる。
2003年4月尾道市立土堂小学校校長に全国公募により就任。百ます計算や漢字練習の反復学習を続け基礎学力の向上に取り組む一方、そろばん指導やICT機器の活用など新旧を問わず積極的に導入する教育法によって子どもたちの学力向上を実現している。近年は、ネットなどを使った個別の小学生英語など、グローバル人材の育成に向けて提案や実践などに取り組んでいる。
2006年4月から立命館大学 教授(立命館小学校副校長 兼任)に就任。現在は、立命館大学 教育開発推進機構 教授(立命館小学校校長顧問 兼任) 。全国各地で学力向上アドバイザーなどにも就任し、学力向上で成果をあげている。また、北は北海道,南は沖縄まで、全国各地で講演会を実施している。
過去には、文部科学省 中央教育審議会教育課程部会委員,内閣官房 教育再生会議委員,大阪府教育委員会委員長などを歴任。
著書多数。
Webサイト http://kageyamahideo.com/

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