伝記が人生を考えるきっかけになる/子どもが伸びる親力【第14回】
伝記を読むと、子どもは「自分はどう生きるべきか」「自分は何をやりたいのか」「自分は将来何をしようか」などについて考えるようになります。伝記が自分の人生について考えるきっかけになってくれることは確かです。
ナイチンゲールの伝記を読んで看護師を目指す
これは私の講演を開いてくれた団体の女性スタッフから聞いた話です。
彼女の娘さんは、医学部の学生で医師になるために勉強しているそうです。
娘さんは小学6年生の時に学習マンガでナイチンゲールの伝記を読みました。
傷ついた人は誰でも、それがたとえ敵国の兵士でも分け隔てなく看病するナイチンゲール…。
その姿にいたく感動した彼女は、それから他の出版社のナイチンゲールの学習マンガも何冊か読み、その後、学習マンガ以外の本も何冊か読みました。
そして、自分もナイチンゲールのような看護師になりたいと思うようになり、学校の委員会活動で保健委員会に入りました。
保健室で保健の先生のお手伝いをしたり、ケガをした子の傷口を消毒したりする仕事を喜んでやっていたそうです。
ターシャ・テューダーの伝記を読んでスローライフを目指す
ところが、中学生の時に学習マンガでターシャ・テューダーの伝記を読み、大いに感銘を受けました。
ターシャ・テューダーは絵本作家であり、同時に園芸家としてもたいへん有名な人です。自宅で草花を育てつつスローライフを実践し、その生活スタイルは全世界に影響を与えました。
それから、テレビで放送されたターシャ・テューダーの特集番組も見ました。
また、その頃から、NHKの「猫のしっぽ カエルの手」という番組も熱心に見るようになりました。
これは、京都大原でスローライフを実践するベニシアさんの日常生活を描く番組です。
そして、娘さんは、庭で季節の花々を育てたり果物でジャムを作ったりするようになり、ターシャ・テューダーやベニシアさんのような人生を送りたいと思うようになりました。
エリザベス・ブラックウェルの伝記を読んで医師を目指す
ところが、高校生の時に、学習マンガでエリザベス・ブラックウェルの伝記を読み、これまた大いに感銘を受けました。
エリザベス・ブラックウェルは、世界で初めての女性の医師です。
19世紀半ばのアメリカは、まだ女性が職業を持つことすら珍しい時代でしたが、彼女はいろいろな偏見や差別を乗り越えて医師になりました。
南北戦争のときに敵と味方の区別なく治療に邁進する姿はナイチンゲールと重なります。
実際、ブラックウェルとナイチンゲールは同じ志を持つものとして意気投合した仲でした。
また、ブラックウェルは自分が医師として治療に励むだけでなく、アメリカやイギリスに女性のための医学学校も開きました。
娘さんは、このエリザベス・ブラックウェルの生き方に興味を持ち、ネットでもいろいろ調べたり読んだりしました。
以前、ナイチンゲールに引かれて医療の道に進みたいと思っていた頃のことも思い出し、徐々に医師になりたいという気持ちが強くなりました。
そして、医学部への進学を決意して、それから猛勉強するようになりました。
伝記が人生について考えるきっかけになる
このお話を聞き、私は伝記が子どもに与える影響について、あらためて考えさせられました。
娘さんは、特にナイチンゲール、ターシャ・テューダー、エリザベス・ブラックウェルの3人に引かれたのですが、それ以外にも小学校の高学年頃からいろいろな伝記を読んでいたそうです。
伝記を読むと、子どもは「自分はどう生きるべきか」「自分は何をやりたいのか」「自分は将来何をしようか」などについて考えるようになります。
もちろん、どの子もオリジナルなペースで成長していて、早熟な子もいればそうでない子もいますので、人生について考える真剣さの度合いについてもいろいろです。
でも、伝記が自分の人生について考えるきっかけになってくれることは確かです。
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