何気ないひと言が子どもを傷つける/子どもが伸びる親力【第15回】
一度口から出た言葉は戻せません。「綸言汗の如し」や「病は口より入り禍は口より出ず」などのことわざを、頭に入れておきましょう。
あんたみたいなぶきっちょな人は見たことない
1970年から1990年にかけてNHKの子ども番組「できるかな」に出演していた高見のっぽさんは、4歳くらいのころお母さんに言われた言葉が忘れられないそうです。
それは、竹ひごで模型の飛行機を作っていたときのことです。
竹ひごを曲げるのがうまくいかず、たくさんの竹ひごをムダにしたそうです。
それを見ていたお母さんが、笑いながら「あんたみたいなぶきっちょな人は見たことない」と言いました。
のっぽさんは、「この一言で、手先の器用さに対する希望を全て失ったんです」と振り返っています。
○○さん、絵が下手ね
私の妻は、小学校1年生のころ、担任の先生に「○○さん、絵が下手ね」と言われたそうです。
そのとき、「あ、自分は絵が下手なんだ」と思い、大人になってからもその思いから抜け出せなかったと言っています。
お前はだらしがない
私の同級生のM君は、小学6年生のときの担任の先生からいつも「お前はだらしがない」と言われていました。
それで国語の授業中にミニ作文で次のように書きました。「ぼくが欲しいのはダラシです。いつもだらしがないと言われているからです。」
笑い話のようですが、M君はけっこう悩んでいたらしく、「だらしがない」と言われるのが本当に苦痛でイヤでイヤでたまらなかったそうです。
お前は底意地が悪いんだよ
ある懇親会で知り合ったEさんは、子どものころ親に言われたある言葉を未だに忘れられないそうです。
それは、新幹線に乗っていたときのことで、3つ下の弟と席の取り合いになって、弟を泣かせました。
そのとき、父親が「お前は底意地が悪いんだよ」と言いました。
Eさんは、父親が自分のことをそのように思っているんだと知って、深く傷つきました。
そのときの父親の表情や声の調子まではっきり覚えているそうです。
こういう人格否定の言葉は、絶対に言ってはいけませんね。
男のくせに赤いナップサックだって
コンビニを経営しているSさんの話です。
Sさんは、子どものころ、遠足用のナップサックを買ってもらうために母親と一緒に店に行きました。
店にはカラフルなナップサックがたくさんあって、かなり迷いましたが、赤い色のナップサックがとてもきれいだったので、それにしました。
家に帰ってから、ワクワクしながらさっそくそのナップサックを背負ってみました。
すると、そこにいた親戚のおじさんが「男のくせに赤いナップサックだって!」と言って大笑いしました。
それから、Sさんは赤い色が大嫌いになってしまいました。
そして、何を買うにも黒っぽい色の物を選ぶようになりました。
「黒なら絶対に男らしいはずだ」と考えたからです。
「緑色や黄色でも男らしくないと思われるかも知れない」と恐れる気持ちがあったそうです。
人格否定と存在否定は絶対に言ってはいけない
これらの例のように、大人の何気ないひと言が子どもを傷つけることがよくあります。
特にいけないのが人格否定と存在否定の言葉です。
人格否定の言葉とは、「だらしがない」や「底意地が悪い」のように、相手の人格や能力を丸ごと否定する言葉です。
存在否定の言葉とは、「お前なんかいない方がよかった。生むんじゃなかった」「もう子どもは欲しくなかったけど、お前ができちゃったから仕方なく生んだ」「消えて欲しい」「お前さえいなければ…」など、相手の存在自体を否定する言葉です。
これらの言葉を言われると、子どもは深く傷つきます。
トラウマになることもあります。
普段は気をつけている人でも、ストレスが溜まってイライラしていると、うっかり言ってしまうことがあります。
子どもが思春期・反抗期のときは要注意
特に危ないのは、思春期・反抗期の子どもが生意気なことを言って、それを聞いた親が切れて感情的になったときです。
こういうときは、絶対に言ってはいけないことを言ってしまうことがありますから、気をつけましょう。
普通なら、思春期・反抗期が終われば子どもの心がまた親のもとに戻ってきてよい関係を築けるようになります。
でも、一度でもこういう言葉をぶつけてしまった場合、子どもの心が離れたままになって、思春期・反抗期が終わっても二度と戻ってこないということもあり得ます。
一度口から出た言葉は戻せません。
「綸言汗の如し」や「病は口より入り禍は口より出ず」などのことわざを、頭に入れておきましょう。
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