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【震災に備える①】  防災のプロが語る・地震が起こったときに「命を守ることができた人」とは

【震災に備える①】  防災のプロが語る・地震が起こったときに「命を守ることができた人」とは

地震大国である日本では、阪神・淡路大震災、東日本大震災、熊本地震、大阪府北部地震など、数年おきに大きな震災が起こっています。また、南海トラフ巨大地震も危惧されているなかで、いつ地震が起こっても命を守れるように、しっかりとした準備と心構えをしておかなくてはいけません。

そこで、国内外の被災地でレスキュー活動を行っている国際災害レスキューナースの辻直美さんに、防災に関する貴重なお話を聞いてきました。第一回目となる今回は、地震が起こったときに「命を守ることができた人」にはどんな特徴があったのか、被災者のリアルな声と共にお伝えします。

maroke/Shutterstock.com

被災者のリアルな声が、明日の自分を救う

辻さんは、さまざまな被災地でレスキュー活動をされています。多くの被災者の方と接してきたなかで、印象的だった声はありますか?

 

「誰もが必ず口にするのは、『どうしてもっと前から(防災について)準備しておかなかったんだろう』です。いつか大きな地震が来ることはわかっているけれど、どうしても対岸の火事というか、他人事になってしまっているのだと思います。でも、そうじゃないんですよね。いつ自分の身に降り注ぐかわからない。

 

一番印象的だったのは、『被災時に、こんなに決断を強いられると思わなかった』という被災者の方の言葉。今から避難所に行くのか、家にとどまるのか。避難所に行くなら、どこの避難所か。何を持っていくか。どの経路で行くか。家族との連絡はどうするか。それこそ秒単位で決断していかないといけない。誰も助言や誘導をしてくれないし、相談にも乗ってくれません。みんな、自分のことで精一杯だから。そして、即座に決断していかないと、どんどん置いていかれてしまうんです。その感覚が怖かったと話されていました。

 

あとは、『右を見て、左を見ているうちに、“被災者”と呼ばれていた』という言葉も忘れられません。つまり、ほんの一瞬で自分が被災者になっていた、というんですよ。その方は東京から熊本に出張に来ていたときに、熊本地震に遭ったそうです。荷物を置いていたホテルもぐちゃぐちゃで持ち物が何もないまま、呆然と避難所にいた方でした。まさか自分が、しかもこんな一瞬で被災者になるなんて、夢にも思わなかったと……」(辻さん)

 

これらの言葉からわかるのは、みんないつかはやらなくちゃと思っていながらも、どうしても自分事として防災を捉えられていない現実があるということですね。でも、いつ自分が被災するかわからない。辻さんご自身も、阪神・淡路大震災、大阪府北部地震と2度被災されています。そのうえで、確信したことがあるそうです。それは、「他人は何もしてくれない、助けてくれない」ということ。

 

「防災って、面倒だしお金がかかりそうだし、地震はいつ起こるかわからないし、何より、誰かが助けてくれるから大丈夫だと思っていませんか? ニュースなどの映像で、炊き出しや給水を受け取っている避難所の様子を見た記憶があるからかもしれません。でも、これだけは伝えたい。地震発生から72時間は、私たちレスキューは人命救助に走ります。避難できた人たちのことを助けてはあげられないんです。

 

もちろん行政も動きますが、被災している地域が広範囲であるほど、救援に時間がかかります。今はコロナで、都道府県をまたいだ行き来も難しい。避難所は、屋根と床だけ貸してもらえる程度だと思っておいた方がいいですね。避難所に入れるかすら、わからないですから」(辻さん)

 

だからこそ、自分で準備をしておいた人だけが避難生活を送れるし、日常生活に戻るのも早いのだそうです。まずはこの事実を、肝に銘じておきたいですね。

被災しても生き延びられた人の特徴8つ

many wisteria/Shutterstock.com

以前Twitterでアンケートをとった際に多く寄せられたのは、「被災して助かった人の特徴を知りたい」という声でした。この点に、大きな地震が起こったときに自分の命を守るヒントがありそうです。たくさんの被災地に赴いている辻さんとして、どのようにお考えでしょうか。

 

「正直、被災して助かるかどうかは、その瞬間にどこにいたかによって危険度が変わるので、ある程度『運』もあります。でも、被災後にどんな生活を送るかは、運だけではどうにもなりません。大切なのは被災した後。被災してもお腹は空くし、トイレにも行く、睡眠もとらないと生きていけませんよね。つまり、どんな状況下であっても、生活をしていかなくてはいけない。

 

私がこれまで幾多の被災地を見てきて、被災しても生き延びられた人には、次のような特徴がありました。

・事前に災害や防災についてしっかり調べている人

・被災時のシミュレーションを何度もしている人

・怖がりな人(不安になり、すぐにリサーチや準備をするため)

・普段から情報に敏感な人

・得た情報を積極的に使っている人

・地震が起きたら、恥ずかしがらずに行動に移せる人

・自分で決断できる人

・人のせいにしない人

 

つまり、普段からいかに準備をしていたか。そして、たとえ震度3程度の地震だったとしても、命を守るポーズをとり、防災リュックを手に取って避難できる人は、もっと大きな地震が起きても行動に移せます。

 

反対に、被災した後に苦しい生活を強いられる人は、いろいろな防災グッズを収集して満足してしまっている人、昔の情報からバージョンアップ出来ていない人、そして自分が知っている災害が一番ひどいものだと思い込んでいる人です。

 

どんなに素晴らしい防災グッズを持っていても、実際に使ったことがない、使いこなせなければ意味がありません。また、かつての安全神話……地震が起きたらお風呂に水を溜めたり、トイレに逃げ込んだりすることは、今は逆に危ないと言われています。常に新しい情報を持っておくことが重要です。

 

一番危険なのは、自分が体験した災害以上のことは起きないと思って安心している人。でも、先日のトンガの海底火山の噴火なんて、きっと想像したこともなかったんじゃないかな。あんなに遠い場所で起こった噴火によって、日本で津波の危険性が高まるんですよ。まだまだ想像もつかない災害はあるはず。だからこそ、しっかり備えておかないといけないんです」(辻さん)

 

命を守るためには、防災を”日常“にしておくこと

辻さんのお話から、いかに普段から防災に取り組んでいるかが大切だと改めて感じました。でも、正直防災はちょっと億劫だと思っている人も多いと思うのですが……。

 

「防災に取り組もう!と思うと、何か特別なことをしなくてはいけないと構えてしまいますよね。それで面倒になってしまい、後回しにしてしまいがち。でも、もっと身近なものとして捉えてほしいんですよ。

 

お子さんがいるご家庭は特に、防災を楽しいイベントにしてしまうのが一番。たとえば、家族みんながリビングに揃っているとき、10分間タイマーをかけて片付けをする。避難所まで、お散歩がてら歩いてみる。家の中を真っ暗にして、誰が最初に懐中電灯を探し出せるか試してみる。ほんの些細なことでも、防災に繋がります。普段から防災を意識していれば、特別なことではなく日常の一部になりますので、いざ地震が起こったときでも、実行に移せる。つまり、命を守ることができるんです」(辻さん)

 

次回の記事では、いざ地震が起こったときのために準備すべきこと、行動すべきこと、第三回では、本当に使える防災リュックの中身について、具体的にご紹介します。

 

(取材・文 水谷映美)

【震災に備える②】  防災のプロが語る・そのとき何をする? どう動く?

【震災に備える③】  防災のプロに聞いた・「本当に使える防災リュック」の中身

お話を聞いた人:国際災害レスキューナース/一般社団法人 育母塾 代表理事 辻直美さん

お話を聞いた人:国際災害レスキューナース/一般社団法人 育母塾 代表理事 辻直美さん

お話を聞いた人:国際災害レスキューナース/一般社団法人 育母塾 代表理事 辻直美さん

阪神・淡路大震災で実家が全壊したことを機に災害医療に目覚め、JMTDR(国際緊急援助隊医療チーム)にて救命救急災害レスキューナースとして活動。現在は講演会と防災教育をメインに、要請があれば被災地で活動を行っている。近著は『保存版防災ハンドメイド100均グッズで作れちゃう!』(KADOKAWA)。

※辻直美さんの「辻」は「二点しんにょう」です

 

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