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困難を乗り越える力を育てるために、大切なこととは/くやまない、悩まない、自分を責めない――心がラクになるアドラー流子育て【第3回】

困難を乗り越える力を育てるために、大切なこととは/くやまない、悩まない、自分を責めない――心がラクになるアドラー流子育て【第3回】

子どもが「存在している」という、極めて当たり前と思えるようなことにも目を向け、感謝することが、何よりの「勇気づけ」になるとアドラーは語っています。

壮絶だった、わたしの双子出産

6月が近づく度、思い出すことがあります。19年前の6月10日。それは自分にとって、一生忘れることのできない特別なできごとがあった日。双子の息子(次男と三男)を出産した日です。

当時、わたしは2歳2カ月の長男を育てながら、出産前の大きなお腹を抱え、苦しい日々を過ごしていました。もともと、わたしはどちらかと言うと小さな体。二人分の胎児の重みは、今、思い起こしてもとても辛いものでした。昼は走り回る長男の相手をして、家事もこなし、すっかりクタクタになります。

疲れた体を休めるはずの夜は、重たいお腹のせいで思うように寝返りもできず、熟睡ができない状態。出産直前の疲れは、既にピークに達していました。

双子の出産にはリスクも高く、管理入院といって、早めに入院するお母さんたちもいるくらい大変なもの。幸いなことに、わたしは小柄ながらも健康で、多くの双子のお母さんがよくかかってしまう妊娠中毒症や切迫早産にもならずに済んだので、38週まで自宅で普通に生活できました。お腹の二人も順調に育ってくれていたため、計画的に出産。それがこの日だったのです。

長男の時は自然分娩でしたが、二回目は帝王切開。分娩自体は、それほど難しくなく、逆にリスクを回避できたので良かったのですが、その直後、わたしは今まで生きてきた中で、一度も経験したことのない痛みと戦うことになりました。この時、自分はもうこれで死んでしまうのだろうかと思ってしまうほどの激痛を経験したのです。

それは後産や後陣痛といわれるもので、特にわたしは、分娩終了後しばらくしてから続く陣痛のような痛みが人一倍強く、快復までに数日かかりました。双子だったことで、子宮が大きくなり過ぎ、元の大きさに戻すのに、体にとてつもなく大きな負担がかかったのが原因ということをあとで知りました。このような壮絶な痛みを乗り越えたことを思うと、現在の日々の悩みや苦しみは、大したことがないようにも思えてきます。

子どもがここにいてくれる、それだけで十分幸せ

子育てに悩みはつきものですよね。悩みが全くないという方はきっと稀で、いつも子どものことを気にかけ、自分のことよりも子どもを優先しているお母さんが、世の中にはとても多いと思うんです。お腹を痛めて産んだという経験がそうさせるのでしょうか、母性愛というものは本当に尊いものだと思います。「見返りを求めない純粋な愛」を、わたしは、子どもをもったことで、はじめて感じた気がします。

長男の出産の時の感激も忘れられないものでしたが、二度目のこのような壮絶な出産の経験も、わたしにとっては、必要な学びだったのかもしれません。子どもたちがここにいてくれる、それだけで「ありがとう」という感謝の気持ちがこみ上げてきます。

当たり前と思うことにも感謝の気持ちを忘れずに

わたしたち親は、子どもに伸びてほしい、成長してほしいと願うばかりに、特別に何かができたときにだけ褒めたり、ご褒美を与えたり、注目したりしがちです。そして、できなかったときには叱ったり、罰を与えたりということを、ついしてしまうことがあると思います。それでうまくいくケースもあるかもしれません。

しかし、アドラーはそのことに対して否定的な立場をとっています。その方法では「困難に立ち向かう勇気ある人に育てることはできない」としています。それよりも、子どもが「存在している」という、極めて当たり前と思えるようなことにも目を向け、感謝することが、何よりの「勇気づけ」になると語っています。

「生まれてきてくれてありがとう!」
「ここにあなたがいてくれて、お母さんはとっても嬉しい。」
「どんなあなたでも大好きよ。」

そんなふうに言ってあげられたら素晴らしいですね。子どもたちは、年齢によっては少々照れるかもしれませんが、きっと喜ぶと思います。わたしも、ちょっと恥ずかしいけれど、今度の彼らの誕生日に思い切って言ってみようかな。子どもたち、一体どんな顔をするでしょうか。今から楽しみです。

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松井美香(まついみか)

松井美香(まついみか)

松井美香(まついみか)

東京音楽大学ピアノ専攻卒業。「勇気づけの音楽家」。大学卒業後約10年間公立中学校に勤務。その頃偶然、教員研修でアドラー心理学に出会い、岩井俊憲氏の元で学び約25年が経過。自身のピアノ教室や子育てにおいてアドラー心理学を実践する中、子どもたちが音楽や部活動を続けながらも有名大学に続々と合格し夢を叶えている。長男(21歳)と双子(18歳)三人の男子の母。現在、保護者や音楽指導者に向け、執筆やセミナーを通して「勇気づけの指導法」を広める活動をしている。
 
*学研「おんがく通信」にて、コラム「勇気づけのピアノレッスン」連載中。
 
*学研プラス出版「あなたの想いが届く愛のピアノレッスン」にて、手記「ある教室のささやかなサクセスストーリー」を執筆。
 
松井美香公式ホームページ:

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