「叱る」「怒る」より効果的な子どもとのコミュニケーション/くやまない、悩まない、自分を責めない――心がラクになるアドラー流子育て【第5回】
アドラー流コミュニケーションでは、「怒り」は人を操作する目的で使われると考えます。子ども自身が過ちに気づき、これからの行動を考えるように導いていくために、感情「で」伝えるのではなく、感情「を」伝える。最初は難しく感じられるかもしれませんが、ぜひ心がけてみてください。
ある夏に起こったできごと
わが家は、夏の観光スポットのひとつともいわれる湘南地区にあります。30分くらい歩けば海水浴場。電車なら海岸まで15分程度で行ける距離です。でも、わが子たちは幼いころから、海にはあまり興味がなくサッカー三昧でしたので、こんなに近くても、あまり海に行ったことがありません。ですが、友だちの中には泳ぎが得意な子も大勢います。
さて、長男が中学生だった数年前の夏休みにその事故は起こりました。直接の友だちではなかったのですが、隣の中学校の生徒が数名で海水浴に行き、一人だけが波にのまれて亡くなってしまったのです。その生徒は、泳ぎに自信があったようで、幼いころから海には何度も行っていたと、あとで知りました。
それが過信となってしまったのでしょうか。取り返しのつかない結果となってしまったことに、わたしは今でも心が痛みます。
ところで、この事故の1、2年後の夏休みだったと記憶しているのですが、中学3年になった長男が「友だちと海に遊びに行く」と言って、朝出かけて行ったきり、約束した時間になっても帰って来ない日がありました。
事故のこともあったので、自分で気をつけるだろうと思ってはいたものの、長男は当時まだ携帯電話を持っていなくて、彼と連絡を取ることができませんでした。
わたしはこのとき仕事中でしたが、長男やいっしょに行った友だちのことが心配になり、気が気ではなくなったことを、昨日のことのようにはっきりと覚えています。
日ごろから、そして出かける直前にも「事故が起こらないよう、十分気をつけて」と伝えていながら、結局は子どもを心から信じることができていない自分を、情けなく感じました。また「子どもを信じる」ことは、なんて難しいことなんだろうとも思ったのです。
怒りで子どもを支配するより、心配していた気持ちを伝える
その後、彼はわたしの心配をよそに、外が暗くなる前には無事帰宅。約束した時間より2時間近く遅くはなりましたが、何事もなかったかのように平然と帰ってきました。
わたしは彼に「遅れるならなぜ電話しないの?」と怒り、問いただしたい衝動に一瞬かられましたが、それをぐっとこらえ、平静をよそおってこう言いました。
「遅かったね。約束の帰宅時間を2時間も過ぎてるよ。心配してたんだよ。」
すると、彼は
「ごめん! 友だちが海岸で財布を落としちゃって、いっしょに探してたら、遅くなっちゃったんだよ。」
「そっか。そうだったんだね。でも、お母さんも心配してたんだから、今度、そういうことがあったら電話してね。」と、わたし。
その後、彼は「心配をかけて本当に悪かった」と反省し、それ以降二度と同じようなことはしませんでした。
子どもとともに成長し、信頼と自立を目標に
アドラー流コミュニケーションでは、「怒り」は人を操作する目的で使われると考えます。親が感情的になると、子どもはそれ以上怒られたくないので、一時的に謝るかもしれません。でも、それではその場しのぎになってしまい、本当の意味でその後の行動を改善することにはつながらなくなる可能性があります。
そうではなく、子ども自身が過ちに気づき、これからの行動を考えるように導いていく必要があると思うのです。
感情「で」伝えるのではなく、感情「を」伝える。
最初は難しく感じられるかもしれませんが、ぜひ心がけてみてほしいことです。
この一件、「親の心、子知らず」ではあったのですが、「子の心、親知らず」でもあることに気づかされたできごとでした。子どもを信頼することについても、深く考えるきっかけとなったのです。
これから夏休みに入る学校も多いと思います。今年も、子どもを取り巻く事故や事件に巻き込まれないよう、親として細心の注意を払いたいもの。そして同時に「子どもの自立」についても考えていきたいですね。かけがえのない今この時を大切に。親子そろって素晴らしい夏休みをお過ごしください。
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