がっかりしないで! 夢や目標を持てない子どもでも大丈夫/くやまない、悩まない、自分を責めない――心がラクになるアドラー流子育て【第24回】
経験がないものはイメージすることが難しいので、子どもの可能性を広げるためにさまざまなことに触れる環境を与えることも大事です。人は環境によって左右されるものです。そしてわたしたち保護者が、子どもたちといっしょに体験を楽しむこともとても大事です。
夢や目標を持てないわが子を残念に思う
前回のコラムで、「子どもの夢を応援するドリームサポーターになりませんか?」と書いたところ、あるひとりのお母さんから、こんな感想をもらいました。
「わたしも、子どものドリームサポーターになりたいんです。でも、残念ながらうちの子には夢や目標がありません。」
さらに、話は続きます。
「わたしは、子どもの夢を応援する気持ちでいるのに、肝心の子ども本人に夢や目標がないんです。」
「今まで、子どもに勇気をくじくような言葉かけもしていません。コラムを読んで、その通り! わたしもそうなりたい! と思っているのですが・・・」
「夢を持って、目標に取り組んでいるお子さんは素晴らしいと思います。ぜひともわが子にもそうなってほしいんです。こんなとき、親はどうすれば良いのでしょうか?」
コラムを読んでくださり、そして共感していただき、本当にありがとうございます。確かに、そのようなお子さんもいることでしょう。でも、どうか、心配しないでください。
夢や目標を持つことは素晴らしいことですし、そのことに向かって成長していく子どもたちの姿は美しくたくましいと思います。
では、夢や目標を持っていない子どもは、残念でありダメなのでしょうか?
……違いますよね。
どんな子どもも、必ず素晴らしい資質と可能性を持っています。
夢や目標があってもなくても、頑張っていても、頑張っていなくても、どの子も素晴らしい存在。なかなかそう思えないという方もいますが、アドラー心理学ではそう考えます。
仮に今は夢や目標を持てていないとしても、将来、夢や目標を持ち、成長する可能性がないとは言えません。親が気づかないうちに、いつの間にかそうなっていることもあるのです。
子どもの夢や目標は、子ども自身が決めていくもの
子どもの頃のわたしには、具体的な夢はありませんでした。4歳からピアノを習っていたので、「ピアニストになりたい」と、おぼろげながら考えていた時期があったような気もしますが、ほとんど憶えていません。
でも、逆に、くっきりと記憶に残っていることがあります。同じクラスに、成績優秀かつピアノも毎日バリバリ練習していて、とても上手に弾ける女の子がいました。
彼女はいつもクラスの人気者。かたや、わたしの成績は普通。ピアノも練習嫌いでしたから、ちょっと弾ける程度で、そんなに上手ではありませんでした。この時点で、もしかしたら「自分は負けている。」と、自分の限界を決めてしまっていたのかもしれませんが、「わたしの夢はこれ!」と、はっきりは言えなかった小学校高学年の頃。
中学3年で公立高校(普通科)を受験し合格しましたが、この頃も特に夢や目標もなく、なんとなく日々を過ごしていました。そしてそれは、高校2年まで続きます。
そんなわたしが、夢を持ち始めたのは、大学受験先を決めなければならない時期。自分がどんな道を進めば良いのか本当に悩みましたが、このときようやく、「音楽を志そう!」と決め、音楽大学(ピアノ専攻)を目指しました。ただそのときも「ピアニストになろう」という気持ちは、ほとんどありませんでした。
今までまともにピアノの練習をしてこなかったわたしは、必死で練習しました。音大受験に必要な「楽典」「聴音」「ソルフェージュ」などの科目も、合格のために頑張りました。
その結果、なんとか滑り込みで合格。今でも信じられないほど、ラッキーなできごとだったと思っています。
その後の大学時代は、本当に中身の濃い4年間でした。今までのわたしの人生で、これほど深く学び、練習したことはありません。そして卒業を目前にした4年生のはじめに、ようやく、「ピアニスト」と名乗れるほどではなくとも、ピアノの演奏を生業(なりわい)にできないものか…と考え始めたわけです。
結局は、もろもろの事情で進学や留学をあきらめ、教員をすることになるのですが……。
でも、今思えば、これらの挫折もとても貴重な経験になっています。
決してメジャーではなく規模も小さく、かつて思い描いていた夢と形は違っていても、現在、音楽を生業としているということは、ある意味では自分の夢を叶えられたといえるでしょうか。
少し話が長くなりました。ここでわたしが伝えたいのは、「子どもの夢や目標は子ども自身が決めていくもの」ということ。親があせる必要もなければ、無理矢理、夢や目標を持たせる必要もありません。
子どもは自分自身で決めたことには夢中になって取り組むものですし、親はそれほど心配せずとも、なんとかやっていけるのです。親が思っている以上に、子どもたちはちゃんと自分の道を選んでいくものです。ですからやはり、「この子はできる!」と信じて見守ることが一番大切なのではないかと思うのです。
わたしの両親も、子どもの道を決めつけず、わたしが自分の道を決めたときにも、最終的には応援してくれました。そして、それがあったから今の自分がいます。
夢や目標がない子どもへの接し方
夢は職業でなくても良いのです。「やってみたいことは何か、どのようなことをしたら楽しいか、どんな人になりたいか」などを思い描くことでも良いのです。
重要なのは、わたしたち親が
「子どもの力を信じて見守ること」
「子どもが自分自身で決めたことを支援すること」です。
そして、夢や目標が持てない子どもたちには「きっかけづくり」をしてあげましょう。
子どもたちはもともと、だれもが好奇心を持っています。まずは、お子さんがどんなことに興味があるのかに関心を持ってください。よくわからないときは質問してみてください。その場で答えられない場合もありますが、がっかりせずに、いつも気にかけてみてください。
興味があることがわかったら、興味のあることに接する機会や体験する場をできる限り与えてください。例えば、スポーツに興味がある子どもなら、いっしょに観戦する。好きなチームがあれば、いっしょに応援する。絵が好きならば、美術館に行く。恐竜が好きなら博物館に行く。音楽であれば、コンサートやライブに足を運ぶ。
リアルに体験させるのが難しいのであれば、本を読んだり、映画やYouTubeなどの動画を見るのも良いでしょう。既に体験している人に会って話を聞くのも良いと思います。
「興味があるものがない」という話も耳にしますが、親の意向にそぐわないだけで、実は何かしら興味を持っているものがあるという場合もあります。
経験がないものはイメージすることが難しいので、子どもの可能性を広げるためにさまざまなことに触れる環境を与えることも大事です。人は環境によって左右されるものです。
そしてわたしたち保護者が、子どもたちといっしょに体験を楽しむこともとても大事です。
子育ての時期は、想像しているよりはるかに短いもの。未知のワクワクした体験は、子どもだけでなく、きっと家族全員の財産となり、一生の宝となることでしょう。
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