算数ができる子ってどんな子?/「賢い子ども」の育て方【第4回】
「成績が上がって、志望校に受かりさえすればいいんだ。」という人もきっといるでしょうが、大切なことにはきちんと時間をかけましょう。算数を真に愛する者だけが算数から愛される資格があるのです。
算数ができる子をイメージしてみてください。
「算数ができる子は生まれつきそれはもう頭がよくて、どんなに難しい問題でもすらすら解ける! だから、算数の問題を解くことが楽しくてしょうがない!」
そんなふうに思っている人が少なからずいるはずです。
でも、はじめて見る本当に難しい問題をすらすら解ける人間は世の中に一人も存在しません。わたしが作る算数パズルはすべて小3用の教材から派生したものですが、最上級レベルのものはIQが200ある人でもノーベル賞を受賞するような人でもすらすらとは解けません。
本当に難しい問題は誰にとっても難しいのです。
だから、算数の問題をすらすら解ける子を目指してはいけません。
先行逃げ切りで、最高レベルの算数を乗り越えることは不可能だと断言します。
わたしは30年以上、中学入試問題を解いていますが、男子の最上位校の問題には毎年手こずります。つまり、膨大な時間とエネルギーを使って今までに出されたすべての算数の問題を徹底的に反復演習し、すべての問題の解き方を覚えても、来年出される問題には通用しません。
大事なのは速く解けることではなく、深く考えることです。
そもそも算数の問題をすらすら解く必要なんてないのです。
算数の問題が速く解けるというのは、ごはんを速く食べることができるのと同じ程度の意味と意義しかありません。
ごはんは速く食べるべきでしょうか?
ごはんはよく噛んで味わって食べた方が楽しいですよね。
算数の問題もじっくりと味わいながら解いた方が楽しいですよ。
今までに算数ができる子をたくさん見てきました。
算数オリンピック、ジュニア算数オリンピック、広中杯、ジュニア広中杯、キッズBEEで入賞した子、金メダルを取った子も何人もいます。
国際数学オリンピック日本代表になった子もいます。
彼らは決して解き急ぎません。
実によく考えるし、答えが出てもすぐには手を挙げず、必ず納得のいくまで見直しをします。
このシリーズの第1回で手順暗記型学習と試行錯誤型学習についてお話ししました。
手順暗記型学習は多量速解型学習と言い換えることもできます。
考えないので、短時間でたくさんの問題を解くことができます。
学校の宿題や復習テスト(中学、高校の定期テストも含みます。)はこれで通用します。
でも、多量速解型学習は楽しくないし、学力も身につきません。
問題の答えを出すためのただの作業です。
試行錯誤型学習は少量熟考型学習と言い換えることもできます。
深く考え、納得しながら進むので、時間がかかります。
でも、時間をかけた分だけ考えが深まり、新しい発見もあり、自分の成長を実感することができます。
本当の学力が身につき、それは間違いなく人生の役に立ちます。
自分にとって大切なことを手っ取り早く片づけようとしてはいけません。
子どもを産むのには10カ月かかりましたよね。
「わたしは10カ月も不自由な生活をしたくない! 絶対に3カ月で産んでみせる!」――人間には不可能です。
むかし、エジプトのプトレマイオス王が数学者のユークリッドに
「幾何学をもっと簡単に習得する方法はないのか?」
とたずねました。
それに対してユークリッドは
「幾何学に王道なし。」
と答えました。
時間をかけないと身につかないものはたくさんあります。
大切なことにはきちんと時間をかけましょう。
「自分にとって算数なんて大切じゃない。ただ、成績が上がって、志望校に受かりさえすればいいんだ。」という人もきっといるでしょうね。
そういう人にわたしから最後に一言。
「算数を真に愛する者だけが算数から愛される資格がある。」
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