子どもの学力差はここでつく!/「賢い子ども」の育て方【第6回】
進学教室で駆け出しのころ、一所懸命、授業をやっていました。大きな声でていねいに説明し、よそ見をしている子がいると
「黒板を見ろ!」
と注意しました。
「同じ授業を受けて、同じ教材を持って帰るのだから、授業中に差がつくはずがない。学力差は家庭学習でつく。」と思っていました。(進学教室では授業終了時に1回分の教材を配布していました。)
二十代後半から自分の授業スタイルに疑問を持ち始め、説明の時間を減らし、子どもをじっと観察するようになりました。集中して考える子、消しゴムで遊んでいる子、ノートに落書きをしている子など、授業中にものすごい差がついていることに気づきました。
「授業中、集中して考えない子が家で真剣に頭を使うはずがない。学力差は授業中についている。」そう確信しました。
でも、2009年にこれも誤りであることに気づきました。宮本算数教室は1993年5月、横浜駅西口で誕生し、2009年2月、東京駅日本橋口に移転しました。このタイミングで「賢くなる算数 全96冊」の制作が決定しました。
特定分野に偏ることなく、バランスよく作るため、文章題、数と操作、図形の3つの単元をこの順番に繰り返すことにしました。もちろん、問題のレベルはどんどん上がっていきます。1冊目の文章題は簡単に作れました。宮本算数教室小4の1回目の内容と同じにしたからです。(もちろん、数値は変えました。)
でも、2冊目で大きくつまずきました。ここで、四捨五入を入れなければならないのですが、何をどうしても面白くならないのです。算数の問題には4種類あります。やさしくて面白い問題、やさしくて面白くない問題、難しくて面白い問題、難しくて面白くない問題です。
子どもにとって最も不快な指導方法は、やさしくて面白くない問題を大量にやらされ、ミスをすると叱られる、というものです。
「どうしてこんな簡単な問題を間違えるの?!」
「つまらないからだよ!」
と子どもに代わって抗議したいです。
わたしは面白い問題しか作りません。でも、四捨五入の問題はどうしたって面白くならないのです。わたしは集中して仕事をするときは教室から外に出ません。このときは丸4日間、日本橋の教室にこもりました。でも、1文字も書けませんでした。
「だめだ!」
とあきらめて自宅に帰り、久しぶりに湯船につかりました。その後、飲んで、食べて、好きなだけ寝ました。翌日、教室に向かい、執筆再開です。
「あれ? 4日間で一文字も出て来なかったのに、すらすら出てくる! なにこれ?! 楽しい!」
3時間くらいで四捨五入の面白いテキストが完成しました。何が起こったのか冷静に考えました。4日間、頭を抱えながら四捨五入と向き合いましたが、全く何も出て来ませんでした。あきらめて自宅に帰り、たくさん寝たら、そのあとすらすら出て来ました。
つまり、眠っている間に完成したのです。
「物を考えるのに最適な時間は睡眠時である。」
これが今の時点でのわたしの結論です。それ以降、眠ることが楽しくなりました。教室には寝袋があります。原稿に行き詰まるたびに寝袋に入ります。そんなときはすぐに眠りに入ることができます。目が覚めるといつも問題が解決しています。
「こうやればよかったのか! どうして気づかなかったんだろう!」
人間の脳には意識の領域と無意識の領域があります。無意識の領域の方が圧倒的に大きく、ここの部分は昔は働いていないと言われていましたが、ちゃんと働いていることがわかりました。意識の領域は氷山の一角の雪玉くらいしかないそうです。
起きている間は無意識の領域にアクセスすることはできず、この雪玉みたいな領域で作業するしかありません。起きている間にどんなに頑張ったって大した仕事ができるとは思えません。起きている時間は寝ている間に作業する内容を収集する時間と考えた方がよさそうです。
面白い学習の一例を挙げます。毎晩9時に寝る子にはその30分くらい前に簡単には解けない難しくて面白い問題を与え、
「ここのところがどうしてもわからない!」
という状態で寝かせて下さい。
「これが解けるまで寝たくない!」
と最初のうちは抵抗します。寝るとふりだしに戻ると思うからです。でも、寝ているうちに考えがどんどん進むことがわかれば睡眠学習が楽しくなるはずです。このことは医学的には証明されていませんが、わたしは自分の経験からこれが真実であることを知っています。
学力差は睡眠時につく。
嫌いな勉強をいくら押しつけても無駄なんです。面白くてやめられないことに全力を注ぎましょう。
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