子どものころの読書は生きる力を養う/データで読み解く、子どもとスマホ【第46回】
プライベートな時間がネットのコミュニケーションへとシフトすることで、子どもたちにはどんな影響がでているのでしょうか。
読書量は論理的思考力と関係がある
今回は、文部科学省の「子供の読書活動の推進等に関する調査研究」(※1)および総務省の「平成28年 情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査」(※2)から、読書量が小学生にどう影響するのか、みていきます。
読書の習慣が薄れていくことで、子どもたちに影響はあるのでしょうか。
文科省では、読書時間の長さと論理的思考など、意識や行動に関する指標の得点の相関についても調べています。その結果をみてみましょう。
読書時間と意識・行動などに関する得点との間には、正の関連性があることがわかりました。
ことに小学生においては、ほとんどのグラフ項目が階段状になっています。この調査で把握した、論理的思考、意欲・関心、意思伝達、状況把握・動揺対処、視点獲得、他者理解、人間関係、現在の充実感、将来展望のすべての項目で、読書を30分以上する小学生のほうが得点が高くなっています。
小学生で読書をまったくしない子と30分以上読書をする子との間で、差が大きいのは次の3つの項目です。
[読書をしない子と30分以上する子で差が大きい項目 上位3つ]
- 論理的思考 30分以上読書をする子が、0.59ポイント高い
- 意欲・関心 30分以上読書をする子が、0.48ポイント高い
- 他者理解 30分以上読書をする子が、0.43ポイント高い
どの力も21世紀型能力の根本をなす力で、子どもたちがこれからの時代を生きていくのに必要不可欠なものばかりです。
とくに論理的思考に関しては、中学生・高校生をみても、読書時間の長い子の方が得点が高くなっています。
さらに、過去に読書習慣があったかどうかも、意識・行動などに関する得点に関係しています。小学生のときに本をよく読んでいた中学生、中学生のときに本をよく読んでいた高校生は、論理的思考、意欲・関心、人間関係などの項目で得点が高いのです。
年齢が低いころからの継続的な読書習慣が、子どもが生きていくにあたって基礎となる力を伸ばす要因となっていることがうかがえます。
テキストメディアの利用時間は長いが……
とはいえ、10代が「文字」から離れているのかといえばそうではありません。
総務省の「情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査」では、コミュニケーション系メディアを通話系と文字系に大きく分けていますが、利用時間の中心はソーシャルメディアやメールを利用する「文字系」です。また、平日・休日ともに、10代のソーシャルメディア利用は20代と並んで圧倒的に長く、利用時間も増加傾向です。
スマホをつかって、ぼう大な量の「文字」を読んでいるというわけです。
文字自体に拒否反応があるわけではない、というのは少し耳に心地良いことかもしれませんが、ここで注意しておきたいことがあります。それは、語い力の問題です。
言語学者の金田一秀穂氏は、語いをデジカメの画素数にたとえて、より多くの語いをもっているほうが、精密かつ正確に言わんとすることを伝えられると説いています。一方で、教育学者の齋藤 孝氏は著書『語彙力こそが教養である』のなかで、オンラインで使われる語いの数は約7000語で、語いを増やすのには向かないと指摘しています。
仲間うちでの会話が中心のソーシャルメディアだけでは十分な語いは得にくいので、意識してまとまったものを読む「読書」の経験を積むことは、子どもの心の成長に欠かせないといえます。
紙の本でなくても、青空文庫など、著作権が消滅した作品を無料で読めるスマホ用アプリもあります。手軽に読書を記録し、感想を共有できるソーシャルサービスもたくさんあります。そんなアプリやサービスを家族で使ってみるなどして、子どもが「本」に親しみやすいような工夫と環境づくりを保護者のみなさんは心がけてほしいと思います。
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