学校教育で生成AIを利用するメリット/デメリットとは?
生成AIが大きな話題になっています。さまざまなメリットが考えられる一方で、懸念の声も聞かれる中、学校現場においてはどのように活用していくべきでしょうか。
本記事では、情報モラル教育の専門家で、文部科学省による「生成AIの利用について」のガイドライン策定では有識者としてヒアリングに参加された静岡大学教育学部の塩田真吾准教授に、子どもたちはAIをどのように活用するべきか、教員は何に気を付けて指導したらよいかなど、学校・教員としてのAIとの向き合い方についてお聞きします。
<この方に聞きました!>
塩田 真吾 (しおた しんご)
静岡大学教育学部 准教授
早稲田大学大学院修了後,千葉大学特任研究員,静岡大学教育学部助教,講師を経て現職。
専門は教育工学,情報教育。
生成AI活用の現状と文部科学省ガイドラインの注目ポイント
--ChatGPTなどの生成AIが話題ですが、学校現場での活用は始まっているのでしょうか?
小中学校ではまだまだだと思います。生成AIの各サービスには年齢制限が設定されているので、あまり積極的に使うことにはなっていません。一方で、高校では授業の中で使おうという動きが出ています。総合的な探究の時間などが活用の場面です。もちろん、保護者の同意を得るという前提で使っています。
小中学生の場合にも、家庭で使っているという話は聞きます。保護者の方が積極的に新しい技術に関わらせている場合もありますね。
--年齢制限についてはどのように考えるべきでしょうか? たとえば、ChatGPTでは「13歳以上、18歳未満は保護者の同意が必要」と規定されていますよね。
サービスによっても違いますが、それぞれに設定された年齢制限に従って、必要であれば保護者の同意も得るべきだと思います。このあたりは、7月4日に発表された文部科学省のガイドラインにも書かれています。
自治体などでも独自に考えられていると思います。たとえば学校の端末であれば、フィルタリング設定で、アクセスの遮断もできます。どのように設定するかは、これから議論が始まってくるでしょうね。個人的には、目的が明確であれば使ってみるのはありじゃないかと、割とポジティブに捉えています。
たとえば英語の学習で、スピーキングの生成AIを使うこともありますし、そのような利用方法なら考えられると思います。
--文部科学省のガイドラインの注目ポイントはどんなところでしょうか?
ガイドラインで着目したいのは、生成AIの仕組みがちゃんと書かれているところですね。簡略化した説明ですが、ブラックボックスにするのではなく、Web上の文書などから大量に学習して文章などを生成していることを理解できます。これにより、著作権や個人情報の問題が起こりえることもわかります。
それから、「各学校で⽣成AIを利⽤する際のチェックリスト」が載っているのもすごくいいですね。学校現場での利用を考えるとき、まずはこのチェックリストを使っていただくのがいいと思います。
生成AIの適切な活用シーン/不適切な活用シーン
--子どもたちが生成AIに触れる機会は増えてくると思います。適切な活用が考えられるのは、どのような場面でしょうか。
テキスト系の生成AIなら、わからないことを調べたり、壁打ち的に考えをまとめていったりという使い方がまずはありますね。AIに問いかけながら、考えを下処理して、整理していく使い方です。
今まではキーワードを入れてWeb検索していましたが、ChatGPTなどでは質問文で聞くことができるようになりました。従来の検索よりも、こちらが意図した質問に沿った結果が返ってくるところが、学習において有意なところです。検索と違って、聞けば何かしら答えてくれますからね。その内容が正しいかどうかは、また別問題ですけれども。
高校の授業では、探究学習でテーマ決めしたり、アイデアを出したりするような場面で、ChatGPTに質問してみるといいですね。どういう事例があるか聞くことができるので、探究とはすごく相性がいいですよ。
画像生成AIでは、PowerPointのプレゼンテーション資料に貼るための画像をつくるような使い方も出てきています。
--逆に、教育現場で不適切と考えられるのは、どのような使い方でしょうか?
いくつかありますが、作業のすべての工程を生成AIにやらせるのは良くないですね。たとえば作文やレポートを書くときに、情報集めなどの下処理として使うのは良いですが、生成されたものをそのまま“自分が書きました”と提出するようなことは良くない例です。それから、元の情報がどこから引用されて生成されたのか、著作権に関するところが今のところグレーです。特に、画像に関してはそうですね。
また、生成AIが出した情報が正しくない場合もあります。結果を鵜呑みにせず、基本的には複数のソースに当たることも必要ですね。たとえば1回検索してみるとか、違うサイトを見てみるという作業も必要になってきます。
--作文やレポートがまる写しみたいなことになったときに先生は気づくものですか?
私は、ある程度気づくんじゃないかという気がします。Wikipediaの内容をまる写しにしちゃうといった話も以前には聞きましたが、読んでみれば文体などから気づくものです。そのこととほぼ同じだと思います。
子どもが普段書いている文章との違いでも、ある程度見分けられます。そこに関しては私はあまり心配していないですね。まる写しへの対応は、従来のインターネットと同じ考え方でいいんじゃないでしょうか。
--子どもが明らかにAIを使った作文を提出したときには、どのように指導すればいいでしょう?
これは難しいんですけど、AIの文章をまる写ししたことを責めるよりは、この作文や読書感想文を何のために書くのか、ということを子どもたちにちゃんと伝える姿勢が大切だと思います。どんな学習効果を狙ったもので、どんな力をつけて欲しいかということ、そのためにやっているということを伝えて指導したほうがよいと思います。
--家庭学習や長期休暇の利用で気をつけることはありますか?
作文やレポートと同じで、家庭学習で何かをつくるときにも、すべての工程をそのまま使うのは良くないですね。
また長期休暇などで時間があると、生成AIとダラダラと会話してしまうこともあるみたいです。私の研究室の学生は、ChatGPTを結構使っています。なかには、1人でいるときの話し相手として使っているという学生もいました。そうなると、無限に時間を使われてしまう可能性がありますね。話し相手として考えたとき、丁寧に何でも返してくれるのでおもしろいとは思うんです。けれども、だから無限に会話できるっていうのは、逆に私は心配です。
そこで会話できることが、居場所のようになっているのかもしれません。けれども、何を言っても怒られないわけですし、コミュニケーション能力が磨かれるかわけでもないと思います。寂しいときに依存してしまうのは良くない気がしますね。
--教員の立場としては、どんなところに注意して指導すればいいでしょうか?
まず生成AIが悪いものではないと考えることが必要です。上手に活用していくことが大切ということに意識を向けさせることが、指導ポイントの1番目だと思います。最初から危険性ばかりを言っちゃうのは、良くないですね。それでは技術が発展していかないし、使いこなせなくなってしまいます。
あくまで1つのツールとして使いこなすということが大切だと指導して、あとは気をつけるべきポイントを知ってもらうことですね。間違った情報が表示されるかもしれないとか、著作権や個人情報についてのことなどです。
インターネットの発達と同じだと思います。登場した当時はさまざまな問題点が指摘されていましたが、いまやインターネットがない社会はもう成り立たないですよね。Web検索は、普段から当たり前のように、勉強でも、仕事でも、趣味でも使っています。生成AIも、同じようになると考えています。実際、私の研究室でも、Web検索の前に生成AIで調べることがよくあります。
うまく使いつつ、学校現場で使う場合には、ガイドラインの内容をしっかりチェックしておくことも大切です。
--保護者気をつけるべきことはありますか?
子どもたちと一緒に使ってみるぐらいの考えで、いろいろ試してみるのがいいんじゃないでしょうか。
年齢制限があって、規約で決まっていることは知っておくべきですし、情報の著作権についても、ある程度知っておくべきだと思います。それ以上に、これからの社会で必要になってくるかもしれないということは、覚えておいてほしいですね。これは教員の場合と同じです。
教員向けの便利な活用法
--教員の方自身が授業や公務などで便利に使う方法はありますか?
我々も研究の途中なのですが、ものすごく可能性があるところだと思います。
たとえば授業の下準備をするときに、生成AIを使って情報を得るとか、ある分野の先行研究を調べるとかできます。公務であれば、「てにをは」をチェックしてもらって、提出する文章をきれいに整えることもできます。
また、私たちが教材をつくるときには、子どもにわかりやすい言葉に言い換えることがあります。難しい言葉を言い換えるための類語を10個出して、リスト化するような使い方もあります。
それから今は、ChatGPTで模擬授業する試みをしています。生成AIはただ質問をするだけでなく、「あなたは小学6年生です」のように役割を設定することもできます。その上で、どのような回答が返ってくるかを調べたりします。返ってくる内容が正しいとは限りませんが、手がかりがつかめることがあります。
--教員の使い方として不適切なことはありますか?
不適切な使い方として注意するべきなのは、個人情報の問題ですね。使うときには、個人情報を出さない、学習させないということが鍵だと思います。
たとえば生徒指導の文書を整えたいと思ったときに、そのまま文書を読み込ませてしまうのは良くないですね。AIがそれをデータベースに学習して、別のタイミングで別のところで、使ってしまう可能性があります。
ChatGPTでは、使用するデータに対する機械学習をオン/オフすることができます。学校や先生方、子どもたちが使うときには、オフにしておくべきですね。個人情報は収集されないようにしておくことが前提だと思います。
AIと学校と学び、今後の展望
--忙しくてなかなか生成AIにまで手がまわらないという先生もいるかと思います。
インターネットの発達を見てみると、子どもたちはいろいろなサービスを当たり前に使うようになってきました。それと同じことが、この生成AIでも起きると思っています。少なくとも大学では、学生たちが生成AIを普通に扱うようになっているので、そう遠くないうちに小学生、中学生も、自分で使うようになってくると思います。そうなったとき、先生方もそれに対応できるように準備しておいてほしいですね。ただ使うだけじゃなくて、上手に使うための対応です。
先生方が、何かわからないと思ったときに、一度生成AIを体験してみるといいと思います。何かの作業がラクになる経験があれば、もっと使いたくなるかもしれないですね。
過去にTikTokが出てきたときに、子どものほうが早く触れたました。そうすると不適切なことが起きて、学校が後追いでルールつくるようなことが起きました。今後も子どもたちのほうが情報が早くて、ルールが後追いということはあると思います。そこできちんと振る舞えるかどうかは、先生にとって結構重要な能力だと思うんです。
--AIによって子どもの学びはどうなるのでしょう?
今後も、AIにできることは学ぶ必要がなくなるということはなく、子どもの学びはこれまでどおり必要だと思います。電卓で計算できるから算数はいらない、となっていないのと同じですね。
たとえAIにできることでも、学びはまた別の話で、そこの大きな要素は変わらないと思うんです。基本的な計算の知識とか計算のスキルは身に付けていくべきことで、それはAIの発展や情報技術の発展とは別に、学びとしてあると思います。
でも一方で、効率よく学んだりもっと深く学んだりするときに、AIの力を活用するのは当然ありだと思います。
たとえば生成AIを使って、独力で学びを深めていくとか、自分の学びに対してうまくAIを使っていくようになっていくと思います。
--これから子どもが身に付けるべき能力はどんなものでしょう?
文部科学省のガイドラインにもありますが、AIを上手に活用するために身に付けておくべきことは、モラルを含む情報活用能力です。
決められたルールを守ることはもちろん大切ですが、これから新しい技術が出てくれば、良いか悪いかわからない状態で使っていくことも増えてくると思います。
新しい技術ができて、悪用できる可能性があるときに、悪いからすべて禁止とするのではなく、自ら不正な使い方はせずに正しく使えることが、これからの情報モラルだと思うんです。
たとえば、使い方によっては、誰かを傷つけてしまうとか、不正にお金を集められるような技術ができたときに、それをいかに止められるかということが大切です。
ルールがある中で生活するんじゃなくて、ルールがまだ追いつかない状態の中でどう判断するかですね。そういった、新しい技術との付き合い方が、これから必要になってくると思います。
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