日本銀行が利上げ 物価は本当に上がらないの?
国内企業物価指数は高い水準
日本銀行は6月16日の金融政策決定会合で政策金利を0.75%程度から1.0%程度に引き上げることを決めました。これから物価が一段と上がることが予想されるため、金利を上げてできるだけ物価上昇(インフレ)を抑えようという狙いです。
でも、金利を上げると、どうして物価上昇が抑えられるのでしょうか。また、これから本当に物価は上がらなくなるのでしょうか。
まず、物価の現状からみましょう。食料品などの値上げは続いていますが、統計的にみると全体的には少し前より落ち着いています。わたしたちが買うモノやサービスの値段である消費者物価の上がり下がりを示す消費者物価指数(2020年=100)は、値動きの大きい生鮮食品を除いた5月の総合指数が113.0となり、前年同月より1.4%上昇しました。政府や日銀の物価目標は「2%の上昇」なので、それを下回っており、もっと上がってもいいという水準です。政府による補助によってガソリン価格が抑えられていること、高校授業料の無償化が拡大したこと、コメ価格が下落していることなどが影響しています。
ただ、企業の間で取引されるモノの価格水準を示す国内企業物価指数は5月分で前年比6.3%上昇しています。4月に続いて市場予想を上回り、23年3月以来3年2カ月ぶりの高い水準になっています。企業の間で取引される価格は、少し時間がたってから消費者が買うモノやサービスの値段に反映されるため、消費者物価指数の先行指標とされています。つまり、これから消費者物価がかなりの勢いで上がるということを示しているのです。
この先の物価上昇が見込まれる理由はふたつあります。ひとつは、アメリカ・イスラエルとイランの間での戦闘の影響です。ペルシャ湾の出口にあたるホルムズ海峡がイランによって封鎖されたため、ペルシャ湾岸の産油国の原油、液化天然ガス(LNG)、石油製品であるナフサなどの輸出ができなくなりました。日本はこれらのかなりの部分をペルシャ湾岸の国からの輸入に頼っていました。日本は備蓄していた原油を放出したり別の国や別のルートでの輸入を進めたりして量の確保に動いていますが、原油やナフサの輸入コストは確実に上がっています。特にナフサはプラスチック、ビニール、繊維、塗料など幅広く使われているモノの原料であり、不足や価格高騰が長引けば、多くのモノの値上がりにつながります。
現在、アメリカとイランの間で停戦交渉がおこなわれていますが、ホルムズ海峡が以前のように自由に通航できるようになるかどうかはわかりません。また、湾岸諸国にある製油所や積み出し港などがイランによる攻撃で損傷しており、元通りになるには時間がかかる見通しです。こうしたことから、原油やナフサの供給不足や価格高騰は、まだ当分の間、続く可能性が大きくなっています。中東情勢による物価への影響は時間がたつにつれて大きくなりそうで、これからが本番といってもいいようです。
円安を止めるための利上げ
理由のもうひとつは、止まらない円安です。6月下旬の為替レートは1ドル=160円台前半です。高市政権が発足した25年10月時点では1ドル=150円程度だったので、10円以上の円安になっています。政府はドルを売って円を買う為替介入をたびたびおこなっていますが、円安の流れは止まりません。
1ドルのモノを輸入するのに150円でよかったのに今は160円払わないといけないとなると、その分輸入品の価格が上がるわけで、それは販売価格につながります。日本では石油などのエネルギーの大半を輸入に頼っており、食料もカロリーベースで6割以上を輸入に頼っています。幅広い品目の値上がりにつながっていきます。
日銀が利上げをしたのは、この円安の流れを止めるためです。お金は基本的に金利の低い国から金利の高い国に流れます。金利の高い国で運用するほうが得になるためです。アメリカは日本より金利が高いので、お金は日本からアメリカに流れる傾向があり、円が売られてドルが買われる円安傾向が長く続いています。日本とアメリカの金利差が縮まれば、こうしたお金の流れは緩やかになり、円安傾向に歯止めがかかることが期待されます。
ただ、この日銀の決断も空振りに終わる可能性が出てきました。日銀が利上げを決めた直後に、ウォーシュ新議長が就任したアメリカの中央銀行である連邦準備制度理事会(FRB)は、年内の政策金利の見通しをこれまでの「一回利下げ」から「一回利上げ」に転換したのです。トランプ大統領は景気をよくするために利下げを求めてきましたが、ここにきてFRBが政権の意向と反対の姿勢を見せました。それは、イランとの戦闘の影響でアメリカ人の関心事であるガソリン価格が上がるなどして、インフレへの警戒感が大きくなっていることを示しています。
アメリカも遠くないうちに金利を上げるとなると、日本とアメリカの金利差が縮まるのはわずかな間で、その後は元に戻るか金利差は逆に広がるか、という局面になります。そうなると、円安が一段と進むことさえ考えられます。そして、日本の物価上昇は止まらないということになります。
物価上昇で困るのは、一般国民です。国の財政は税収が増えたり、借金が相対的に軽くなったりするので、困りません。というより、大きな借金に苦しむ財政にとっては歓迎すべきことと言えるかもしれません。今回の利上げで物価上昇を抑えられなかった場合にはさらなる利上げが必要になりますが、政府から独立しているとされる日銀が適切な時期に適切な利上げができるかどうか、国民は注視する必要があります。


