公正取引委員会がビール4社を捜索 公取委って何?

公正取引委員会がビール4社を捜索 公取委って何?
※写真は、ビール大手4社の幹部が価格を協議していた疑いがあるビル。報道関係者が集まった=2026年10月7日午後2時17分、東京都中央区銀座1丁目、長妻昭明撮影
日々のニュースの中に「学び」のきっかけがあります。新聞を読みながら、テレビを見ながら、食卓やリビングでどう話しかけたら、わが子の知的好奇心にスイッチが入るでしょうか。ジャーナリストの一色清さんがヒントを教えます。

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ビール大手4社にカルテルの疑い

公正取引委員会が10月、ビール大手4社を独占禁止法違反の疑いで家宅捜索しました。独占禁止法は企業に公正で自由な競争をうながし、一般消費者の利益を守るための法律です。ビール大手4社はこの法律の3条にある「不当な取引制限」であるカルテルの疑いがあるとされました。公取委は刑事事件とすることを前提に家宅捜索しており、重大事案と考えていることがわかります。今後検察に告発し、かかわった人たちは刑事罰を受ける可能性があります。

公取委はこのように独占禁止法を使って大企業をも摘発する権限を持っています。ただ、一般の人にとっては身近にある警察などに比べてなじみが薄く、どういうことをする組織なのかよく知らない人が多いのではないでしょうか。今回は公取委について解説しようと思います。

日本に公取委ができたのは、アジア太平洋戦争後の1947年です。戦前にはありませんでした。戦前の日本経済を支配していたのは、財閥でした。三井、三菱、住友、安田などの特定の一族や同族が持ち株会社を通じて多くの会社や銀行を支配し、巨大な企業集団を作っていました。そうした巨大企業集団が財閥です。財閥は自由で公正な競争をしているとはとても言えませんでした。軍や政府と結びつき、軍需産業などで大きな利益を得て、日本の軍国主義を支えました。

敗戦後、連合国軍総司令部(GHQ)は戦争責任の一端は財閥にもあるとみて、財閥解体に乗り出しました。「経済の民主化」です。アメリカには19世紀末にできたシャーマン法という独占禁止法があり、市場は消費者の利益を最優先にするべきだという考え方が定着していました。日本でもそうした考え方をもとに、一部の企業が市場を独占したり不当な取引制限を行ったりして消費者の利益を損なうことのないような仕組みを作ろうとしたのです。


カルテルは大手が市場を占有している場合に起きやすい

そうして誕生したのが、公正取引委員会です。委員会という名称の通り、委員長と4人の委員で構成される合議体ですが、その下には約千人の実務者がいる組織があります。実態は、強い権限を持つ経済官庁です。

公正取引委員会の仕事の軸になる法律が独占禁止法です。中でも重要なのが独禁法3条にある「不当な取引制限」です。これが多くの摘発事例の根拠になっています。「不当な取引制限」には大きく分けて、カルテルと入札談合のふたつの類型があります。

今回、ビール4社が家宅捜索を受けたのは、カルテルの疑いです。カルテルとは、事業者が連絡をとりあって本来事業者が自主的に決めるべき商品の価格や販売数量、生産数量などを共同でとり決める行為のことです。ビール4社の場合だと、加盟するビール酒造組合の定例会の後に、4社の課長以上の管理職が集まり、出荷価格の値上げ幅や値上げの時期などを話し合って決め、協議内容を上司も含めて共有していた疑いがあります。

ビール業界はアサヒビール、キリンビール、サントリー、サッポロビールの大手4社が国内のほとんどのシェアを持っています。地域ごとのクラフトビールもありますが、量的には比べものになりません。また、4社のビールの味の違いがわかる消費者はあまりいないでしょう。4社は価格競争にさえならなければ、なじみの得意先が変わらない安定した経営をすることができるのです。4社が自由な競争のもとで自由に価格を決めていれば、消費者は安いビールを選ぶという選択肢があったのに、カルテルがあったために損をしたことになります。

カルテルは、大手が市場を占有していて商品性に差がない場合に起こりやすくなります。少数の大手だけで話し合えば市場をコントロールすることができるからです。2026年9月には、石油販売5社が軽油販売で価格カルテルを結んだとした独占禁止法違反事件の初公判が東京地裁でありました。軽油の販売も大手が大きなシェアを持っていますし、商品の質に違いはありません。石油製品もビールと同じようにカルテルが発生しやすい条件が整っているのです。


談合は刑法でも罪に

もうひとつの類型である入札談合の摘発もしばしばあり、大きなニュースになります。入札談合はカルテルと同じように業者が集まって話し合うことです。ただカルテルと違うのは、公共事業や民間事業において競争入札が行われる際に業者が事前に話し合う場合に適用されるところです。

最近では、26年9月にマンションの大規模修繕工事で設計コンサルタント会社2社と工事業者40社の入札談合が摘発されました。公取委が独占禁止法違反を認定したのです。住民にアドバイスするコンサルが工事業者と一緒になって談合し、落札業者があらかじめ決められているため工事費用が高くなり、コンサルも利益を得ていたという悪質な事例です。修繕のために住民がコツコツと積み立ててきたお金が不当に業者とコンサルに奪われていたことになります。

また、公共事業の入札で談合が行われた場合は、自由な競争があった場合よりも高い価格で落札されたと考えられ、税金が不当に奪われたことになります。

談合は刑法でも罪になります。刑法96条の談合罪です。公共事業の入札で談合が行われた場合は、警察や検察が摘発に乗り出す場合もあります。税金をかすめ取ろうという行為は悪質で、刑法と独占禁止法の両方がにらみを利かす形になっています。

公取委にはこのほか、企業が合併などによって1社の市場占有率が極めて高くなることを阻止したり、市場を占有する目的などのために圧倒的に安い価格で販売することを禁じたり、下請けいじめをしたりすることを取り締まったりする役目もあります。市場経済が機能するための自由で公正な市場づくりをしている大切な組織だということを覚えておきましょう。

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一色清(いっしき・きよし)さん

一色清(いっしき・きよし)さん

一色清(いっしき・きよし)さん

朝日新聞社に勤めていた時には、経済部記者、アエラ編集長、テレビ朝日 「報道ステーション」コメンテーターなどの立場でニュースと向き合ってきた。アイスホッケーと高校野球と囲碁と料理が好き。

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