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アメリカがICC赤根所長に制裁 ICCって何?

アメリカがICC赤根所長に制裁 ICCって何?
日々のニュースの中に「学び」のきっかけがあります。新聞を読みながら、テレビを見ながら、食卓やリビングでどう話しかけたら、わが子の知的好奇心にスイッチが入るでしょうか。ジャーナリストの一色清さんがヒントを教えます。※写真は、オランダ・ハーグにある国際刑事裁判所(ICC)=2025年10月10日、森岡みづほ撮影

「法の支配」に基づく国際秩序の大きな危機

アメリカのトランプ政権が8月18日、国際刑事裁判所(ICC)の赤根智子所長らを制裁対象にすると発表しました。アメリカ国内の資産を凍結し、アメリカ企業や個人との取引を禁じる措置です。具体的には、赤根所長らはアメリカの銀行口座からの預金引き出しやアメリカ企業からの物品やサービスの受領ができなくなります。赤根所長はすでにクレジットカードやGmailが使えなくなっていることを明かしています。通販サイトのアマゾンなども使えなくなる可能性があり、本人や家族のアメリカへの入国も禁止される恐れがあります。

赤根所長らへの制裁の背後には、トランプ政権がICC自体の解体をめざしていることがあります。もともと、アメリカは戦争の際にその地域で残虐な犯罪行為があった場合、アメリカの指導者や軍人が責任を問われることがないようにしたいということから、ICCの存在を快く思っていませんでした。加えて、「力の支配」を好むトランプ政権は、パレスチナ自治区ガザでイスラエルがおこなった民間人への攻撃などに対して、ICCがネタニヤフ首相らに逮捕状を発行したことに強い不満を持っています。

赤根所長は日本で検察官を務め、2018年にICCの判事となり、24年にICCのトップである所長に就任しました。赤根所長は8月26日、日本記者クラブ主催のオンライン会見で、「制裁を受けるような理由はまったくない」と断言し、「法の支配の危機だ」と述べました。

アメリカから制裁を受けているICCの裁判官や検察官は赤根所長を含めて13人に上っており、トランプ政権対ICCという対立の構図が深まっています。わたしたちは、「法の支配」に基づいた国際秩序が崩れるかもしれない大きな危機に直面しているわけですが、そもそもICCがどういう組織なのかを知らない人も少なくないと思います。今回はICCについて解説します。


アメリカ、中国などが参加せず

ICCが設立されたのは、02年です。国際連合(国連)創設が1945年ですから、国際機関としては新しいといえます。国連創設当初から集団殺戮(ジェノサイド)などの国際犯罪を裁く必要性は指摘されていましたが、アメリカとソ連の冷戦が続き、議論が進みませんでした。冷戦が終わると、民族が争う戦争があちこちで起こりました。旧ユーゴスラビアやアフリカのルワンダでの戦争犯罪を裁く特別法廷が国連の安全保障理事会の中に設置されました。これが契機となり、国連から独立した常設のICCを設立することになります。98年にローマ規程と呼ばれるICC設立のための条約が採択され、その5年後にオランダのハーグに開設されたのです。現在は日本を含む125か国・地域が加盟しています。

ただ、ICCには懸念されることがありました。アメリカ、中国、ロシア、インドなどの大国が参加しなかったことです。アメリカは海外に派遣した兵士らが罪に問われるおそれがあることを理由にしていました。中国、ロシア、インドなども周辺国や地域との紛争の種を抱えており、自国の指導者や兵士が罪に問われる可能性を恐れたものと思われます。

ICCは、条件を満たせば非加盟国の個人であっても裁くことができます。23年にはウクライナから子どもたちを連れ去ったことなどが戦争犯罪にあたるとして、ロシアのプーチン大統領に逮捕状を出しています。

ここで問題になるのは、ICC自体に強制力を持った警察のような組織がないことです。プーチン大統領は自国内や非加盟国内にいる限りは、逮捕されることはありません。

トランプ政権に批判的なマムダニ・ニューヨーク市長は、「ネタニヤフ首相であれICCから逮捕状が出ている人物がニューヨークに入れば逮捕する」と発言しましたが、アメリカが非加盟国である限り、現実的には不可能とみられています。

では、逮捕状が出ている人物が加盟国に入れば、その国の警察が必ず逮捕するのでしょうか。24年にプーチン大統領は加盟国であるモンゴルを訪問しました。しかし、モンゴルの警察はプーチン大統領を逮捕しませんでした。モンゴルはエネルギーをロシアからの輸入に頼っているため、事前にプーチン大統領に逮捕しないことを約束していたとみられています。


「力の支配」を好む権力者たち

ICCにはアフリカ偏向という批判もありました。最近まで起訴された事例の多くがアフリカで起こった事件であるためでした。09年にはスーダンのバシル大統領(当時)、11年にはリビアの最高指導者のカダフィ大佐(当時)などに逮捕状をとり、12年にはコンゴ民主共和国の元武装勢力指導者のルバンガ被告に有罪判決を言い渡し、起訴するなどしました。その後、23年にはプーチン大統領、24年にはネタニヤフ首相などに逮捕状をとり、26年にはフィリピンのドゥテルテ前大統領を起訴しています。今はアフリカ偏向という批判はあたらなくなっています。

それでも最近アフリカの国がICCから脱退する動きが相次いでいます。7月末にはチャドがICCから脱退すると発表しました。直前にアメリカが脱退を働きかけていたため、その働きかけに応じたとみられています。25年にはブルキナファソ、マリ、ニジェールの3カ国がICCから脱退しました。こちらは経済的結びつきの強いロシアからの働きかけがあったとみられています。

世界は「法の支配」より「力の支配」を好む権力者が増え、ICCの危機は深まっています。特にアメリカのトランプ政権の圧力は露骨です。トランプ大統領の残された任期はあと2年半になります。後任者はトランプ大統領ほどの圧力をかけるとは考えにくく、ICCはこの2年半を持ちこたえることが肝要です。赤根所長は記者会見で「ICCは決して負けない」と述べました。その言葉を実現させるためにも、日本政府は「法の支配」を重んじる世界の国とともにICCへの支援を強めなければなりません。

一色清(いっしき・きよし)さん

一色清(いっしき・きよし)さん

一色清(いっしき きよし)

朝日新聞社に勤めていた時には、経済部記者、アエラ編集長、テレビ朝日 「報道ステーション」コメンテーターなどの立場でニュースと向き合ってきた。アイスホッケーと高校野球と囲碁と料理が好き。

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