夏休みは「何もしない」くらいがちょうどいい 沼田晶弘先生に聞く「親が笑顔の夏休み」
夏休みは、予定を埋めるほど充実する――。そんな思い込みに、親も子どもも縛られていませんか。ユニークな授業で知られる小学校教諭・沼田晶弘さんが勧めるのは、「リビンピング」と「プチ停電」。リビングにテントを張り、夜は照明を消すだけの"小さな冒険"です。少しの「暇」と、ちょっとした「非日常」が子どもの「考える力」を育み、大人も自然と笑顔になる――。そんな夏休みの過ごし方を、「ぬまっち」に聞きました。
(ぬまた・あきひろ)1975年東京生まれ。学校図書生活科教科書著者。東京学芸大学教育学部卒業後、インディアナ州立ボールステイト大学大学院でスポーツ経営学の修士を修了。同大学職員などを経て、2006年から東京学芸大学附属世田谷小、2025年より東京学芸大学附属大泉小の教諭。著書に『子どものやる気を引き出す「ほめる」よりすごい方法39』(高橋書店)、『ぬまっちのクラスが「世界一」の理由』(中央公論新社)など。
遊園地より大切な「何もしない時間」
――夏休みになると、「何を体験させよう」「学ばせよう」と、つい予定を詰め込んでしまいます。
気持ちはわかります。でも、私は逆に「何もしない時間」をもっと大事にしていいと思っています。
子どもたちと腹を割って話すと、「夏休みは楽しみ」と言います。でも、始まって数日すると「もう学校に行きたい」と言い始める子も少なくありません。最初は何もしない毎日が新鮮でも、ダラダラするだけでは飽きてしまうからです。
一方で、親はSNSで「夏休みの予定は今のうちに立てましょう」「何もしないと終わってしまいますよ」と言われるし、仕事があるから、子どもに習い事をたくさん入れる。あるいは「体験格差」という言葉に追い込まれて、無理やり遊園地や旅行の予定を入れる。
もちろん、そうした体験を否定はしません。でも、お金を払えば相手が全力で楽しませてくれる遊園地は、どうしても受け身になりがちです。遊園地へ行った子に「何が楽しかった?」と聞くと、「〇個乗れた」と答える子がいます。ファンタジーを楽しみに行ったはずなのに、超現実的な答えが返ってくる。それは、いつの間にか「いくつ達成したか」が目的になっているからです。
旅行も同じです。渋滞を避けて早起きし、次の目的地へ急ぐ。子どもは車で運ばれるだけで、どこへ行くかも何をするかも大人が決めています。「予定をこなすこと」が目的になれば、親子ともに疲れて夏休みが終わってしまいます。
今は情報があふれ、地図やガイドブックはいくらでも手に入ります。でも、自分が今どこにいて、本当は何をしたいのかが見えなくなっている人が多いように感じます。自分の現在地がわからなければ、どんな立派な地図があっても前には進めません。
——子どもにとって何が大切なのでしょうか。
暇です。クリエイティブな人って、「子どもの頃、何をしていましたか」と聞くと、「暇だったから、いろいろ考えて遊んでいました」という人が結構いるんですよ。ところが今の子どもは暇がない。塾、習い事、イベント、動画、ゲーム……。常に何かがあります。「どうやって遊ぼう」「何をしよう」と考える時間そのものが減っています。
家が一夜でキャンプ場に変わる「リビンピング」
——夏休みは、どんな過ごし方がお勧めですか。
わざわざ遠くのキャンプ場へ行かなくても、家の中で十分に非日常はつくれます。僕がお勧めしているのは、リビングにテントを張る「リビンピング」。ベランダでやる「ベランピング」でも構いません。そこに「プチ停電」を組み合わせるんです。
ルールは簡単。冷蔵庫とエアコンは命にかかわるので、そのまま。でも照明は全部消して、ランタンだけで過ごします。テレビもゲームもスマホもなし。それだけで、いつもの家がキャンプ場に変わります。
しかも家だから、お湯も使えるし、トイレにも行ける。親はビールを飲んでもいい(笑)。テントだって必須ではありません。眠くなったら、自分の部屋に戻って寝ればいい。
それでも、照明を消した家で過ごすだけで十分にワクワクします。ランタンを持って料理をしたり、お風呂に入ったりするだけで、子どものテンションは爆上がり。人間は真っ暗な中で過ごすと、ちょっとドキドキするものです。キャンプが盛り上がるのも、夜だからなんですよ。
――ゲームやテレビ、スマートフォンはどうしますか。
画面に集中して、受け身になってしまうからダメです。どうしても親がテレビを見たければ、子どもが寝てから見ればいい。スマホも同じです。「なんでお父さんやお母さんだけ使っているの?」となりますからね。子どもが寝たら終了だし、子どもが寝た後は、テレビを見てもスマホを触っても構いません。
——夜しか、やらないのですか?
夜だけです。昼間にリビングへテントを張っても、それほど面白くありません。暗くなるからこそ、いつもの家が特別な場所に変わるのです。
――ゲームがなくても退屈しませんか。
暇になったら、自分で考えます。トランプでもいいし、ボードゲームでもいい。最初はランタンをたくさん使うかもしれません。でも次は「今日は2個までにしよう」とルールを作り始める。遊びそのものを工夫するようになるんです。
親は手を出さない。子どもは驚くほど育つ
――親は何をすればいいのでしょうか。
「3日後にリビンピングをやるから、プランを考えてみて」と、子どもに企画を任せます。すると、「夕飯は何にする?」「何を買う?」「ランタンは何個使う?」と、自分で調べて考え始めます。大人は、カセットコンロを使う時の安全面に気を配るくらい。それだけで、子どもにとって「今日は特別な日」になるんです。
——それによって、何が育つのでしょうか。
工夫する力や想像力はもちろんですが、一番育つのは「PDCA(計画=Plan、実行=Do、評価=Check、改善=Act)」の「C(評価)」。「今日は何がうまくいかなかったんだろう」「次はこうしてみよう」と振り返る力です。
「リビンピング」は何度でも挑戦できるので、失敗しても工夫しながらやり直せます。その積み重ねが「やり抜く力」を育み、自己肯定感や非認知能力にもつながります。もちろん、家族の会話も自然と増えます。
――親にとっても続けやすそうです。
そこが一番大事なんです(笑)。移動時間も交通費もかからず、準備も最小限。終わりたくなったら電気をつければ終わりです。
夏なら19時ごろに始めても、子どもが寝るまでの2~3時間。家族で外食に行くくらいの感覚で楽しめます。だから、会社勤めでも無理なく続けられる。「キャンプ場から出社」ですよ。
親も気負わなくていいんです。子どもが作ったご飯を食べず、会社帰りに少し食べてきたり、子どもが寝てから食べてもいい。「子どもに任せる」と決めて見守れば、イライラも減ります。親が笑顔でいられることも、夏休みには大切だと思います。
親が笑顔なら、その夏休みは大成功
——親が笑顔だと、子どもにどんな効果があるのでしょうか。
親にゆとりがあると、子どものハプニングにも落ち着いて向き合えます。すると、子どもは親の顔色をうかがうのではなく、自分で考えて行動するようになります。子どもは本来、親を喜ばせたいと思っているもの。親が笑顔でいると、その気持ちは自然と行動につながります。余計な説教も減って、親子関係も良くなります。
――それでも、「もっと勉強させた方がいいのでは」と不安になる親も多いと思います。
親はどうしても周りと比べてしまいます。「あの子は英語」「この子はキャンプ」「体験学習」「自由研究」……。でも、自分だって、子どもの頃に全部経験したわけではありませんよね。それでも大人になり、親になっています。だから、焦らなくて大丈夫。
――最後に、夏休みを迎える保護者へメッセージをお願いします。
「今日は何して遊ぼう」
そんな会話が自然に生まれる夏休みなら、子どもは考え、工夫し、挑戦するようになります。予定を詰め込まなくても、親子で笑い合えた時間は、きっと子どもの心に残るはずです。










