カルビーが袋を白黒に 「ナフサショック」って何?
化学製品の原料として使われるナフサ
菓子メーカーのカルビーが主力製品のポテトチップスのパッケージをカラー印刷から白黒に変えるというニュースがありました。中東情勢の悪化によりナフサからつくられる印刷用インクの供給が不安定になっていることが原因だそうです。
だれもが知っているような食品の袋がカラーから白黒に変わるということは驚きで、ナフサ不足の深刻さをわたしたちに強く印象づけました。ナフサからつくられる製品はとても多く、さまざまなところでわたしたちの生活に影響が出はじめています。政府は「供給の偏り」や「流通の目詰まり」が原因として大きな問題ではないとの姿勢を示していますが、ナフサ不足はどんどん深刻になっているように感じます。
日本は20世紀後半に2度のオイルショック(石油危機)を経験しましたが、ここにきてメディアなどでは「ナフサショック」という言葉が使われるようになっています。中東発の今回の危機はオイルショックではなく、なぜナフサショックになっているのでしょうか。その理由を考えてみましょう。
まず、ナフサについて知らなければなりません。ナフサは原油からつくられます。原油は製油所に持ち込まれ、加熱されます。そして沸点の違いによっていろいろな石油製品に分けられます。これを精製といいます。精製すると、沸点が低い(比重が軽い)順に、LPガス、ナフサ・ガソリン、灯油・ジェット燃料、軽油、重油・アスファルトに分かれます。できる割合はだいたい決まっていて、ナフサは全体の10%くらいです。ナフサ以外の石油製品のほとんどは燃料として使われますが、ナフサは化学製品の原料として使われます。
ナフサはさらに分解されてエチレンやプロピレンといった基礎化学品になります。基礎化学品はさらにポリエチレンや塩化ビニール樹脂などの誘導品に加工され、そこからプラスチックやゴムなどになり、最終的に自動車部品、洗剤、ペットボトル、容器、タイヤ、衣料、接着剤、インク、建材、医療用チューブ、ポリ袋など、わたしたちの生活に欠かせないものになります。
ナフサには備蓄制度がない
では、今回はなぜナフサショックになっているのか、という点です。まず、2度のオイルショックと今回のショックとの違いをおさえておきましょう。オイルショックの場合は、原油価格が一気に何倍にも上がったことが引き金になりましたが、今回はホルムズ海峡の封鎖ということで原油の供給量自体が減ったことが引き金です。オイルショックの時は量の問題ではなく価格の問題が大きかったのですが、今回は量の問題が大きくなっています。つまり、今回は原油もナフサも量が足りないということが大きな問題なのです。
そうした状況の中で、原油には法律による備蓄制度があります。原油はオイルショックの教訓から備蓄制度が整えられ、ホルムズ海峡が封鎖された段階で日本の消費量の約8カ月分にあたる備蓄がありました。そのため、中東からの原油の輸入が激減しても、ほかの地域からの代替輸入を増やすなどしながら備蓄を放出していけば、相当長期間なくなることはないと考えられます。
しかし、ナフサには備蓄制度がありません。3月の時点で民間の在庫が約2カ月分あっただけだとされます。ナフサの供給量が減るにもかかわらず消費量が変わらなければ、在庫はあっという間になくなり、ナフサ不足になります。
ナフサ自体も中東からの輸入に頼っていたということも重要な点です。日本で必要とするナフサの量は、輸入した原油を日本で精製してつくるだけでは、まったく足りません。2024年のナフサの調達元を示した経済産業省の資料によれば、輸入原油からつくる国産ナフサは39%にすぎません。残りは輸入に頼っていて、アラブ首長国連邦(UAE)、クウェート、カタールなどの中東の国からの輸入が45%に上ります。残る16%は中東以外の国で、韓国、ペルー、アメリカなどからの輸入です。国産ナフサといわれるものも原料の多くは中東からの原油であることを考えあわせると、日本で使うナフサの大半は中東に依存していたという実態があるのです。
長引くと企業倒産が急増する恐れも
これまで国内のナフサの供給量をすべて国産でまかなっていたならば、国内に原油があるかぎり不足することはありません。しかし、実態は6割以上が外国産ナフサだったわけで、原油の調達とは別にナフサの代替輸入を急がなければ、すぐに不足することになります。
高市首相は4月末、中東以外からの代替調達を進めているとして、「ナフサ由来の化学製品の供給は、年を越えて継続できる見込みになった」と述べています。しかし、そうしたコメントと裏腹に、ナフサショックはおさまるどころか、大きくなっています。
カルビーの白黒印刷への変更だけではなく、カゴメはインク不足からトマトケチャップのパッケージのデザインを変更する方針を取引先に伝えました。日清製粉ウェルナは主力製品の「マ・マー スパゲティ」を一食分ずつ束ねるテープを無地のものに切り替えるとしています。また、ビスケットを入れる袋が調達できないため生産停止した菓子メーカーもあります。住宅断熱材やシンナーなど建築に使うさまざまな材料が不足しているため、工事がストップしている建築現場も出ています。医療現場では、医療用手袋などが不足して手術や診療に支障が出るという心配が大きくなっています。自動車整備工場ではエンジンオイルが不足して困っているといいます。
ナフサやナフサ由来製品の値段が高騰しているため、値上げをする会社も出ています。食品トレー大手のエフピコは6月1日出荷分から製品全般を20%以上値上げすると発表しました。これからナフサ不足を理由とした値上げが続々と出てくると思われます。
信用調査会社の東京商工リサーチは5月13日、1~4月の塗装工事業の倒産件数が前年同期比26.3%増の48件だったと発表しました。ナフサ不足によるシンナーなどの高騰や在庫不足が影響し始めているとしています。ナフサ不足が長引くと、企業倒産が急増するという見方が出ています。「ナフサショック」は歴史に残る言葉になる可能性があります。そうならないことを願いますが。
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