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質問を通して感じたこと「お母さんは心配しすぎ。子どもに対して心配しすぎず、笑顔でポジティブがちょうどいい!」/教えて! 陰山先生【第34回/最終回】

質問を通して感じたこと「お母さんは心配しすぎ。子どもに対して心配しすぎず、笑顔でポジティブがちょうどいい!」/教えて! 陰山先生【第34回/最終回】

人気連載「教えて! 陰山先生」で、数々の悩みを解決してくれる陰山先生。的確なアドバイスに力をもらっている読者も多いでしょう。みなさんから寄せられた質問を通して先生が感じたこと、子育てにがんばるお母さんたちへの思いを語ってもらいました。

母親が「わたしが守らなきゃ」と思いこみすぎている

――これまで連載に寄せられた質問から、どんなことを感じましたか。

陰山:ずっと気になっていたのは「母親が神経質になりすぎているのではないか」ということ。今の時代は情報過多であり様々なできごとが耳に入ります。一方、子どもの状況が事細かに見えすぎていて、「わたしが子どもを守らなきゃ」という思いが強すぎるように思います。心配するあまり、かえって問題を大きくしてしまっているところもあるのではないかと思っています。

――具体的には、どういうことでしょうか。

陰山:テレビや本、ネットなどのメディアは、不安や心配事を取り上げることが多い傾向があります。少しでも心配事がある人は、解決策を求めてそれを読みますよね。でも読むことで、余計に不安になってしまう人も多いんです。

たとえば、学校でいじめ問題が起きたとします。確かに、保護者が出ていかないといけない場面はあるのですが、決してすべてに関わる必要はないんです。相当レアなケースだからこそメディアに取り上げられている、すべてがそれと同じくらいの内容ではないと考えてほしいですね。自分たちの子ども時代を思い出してもらえばいいと思うのですが、子ども同士、考え方や意見の違いがあるのは当然のことで、トラブルは日常的に起きています。そこで、おたがい言いたいことを言い合ってケンカをしても、数日経てば仲直りするのが普通です。子どもはトラブルをくりかえして成長していくものですから。

心配性の保護者は、早い段階で子どもたちの問題に入っていく傾向があるのですが、そうなると子どもたちはどう対応したら良いのかわからずじまいで、戸惑ってしまいます。結果的に、その保護者の子が避けられてしまうこともあり、あまり良いことにはならないのです。

――保護者が関わる必要がある場合とそうでない場合とは、どうやって見極めればいいのでしょうか。

陰山:子どもの体に異常なあざがあるとか、そういうことを隠そうとするとかですね。あきらかに内緒ごとがあるときは、注意してみておく必要があります。子どもが「○○くんとケンカして、ああしてこうなった」と言っている分には、問題はないと思います。

――それでも不安になってしまうときは、どうすればいいですか。

陰山:母親が不安に思うと、その不安感は子どもの中で増幅されます。先ほどのいじめ問題のように、早い段階で母親が動いてしまうと、子どもは安心するのではなく、さらに不安になります。母親がどう思うかを基準に行動してしまうからです。そうすると、子どもの心は不安であふれ、自信がなくなり、自己肯定感が低くなってしまいます。それが不登校の原因のひとつにもなっていると、わたしは見ています。

――親が心配しすぎると、子どもが不安になってしまうんですね。

陰山:そうです。うまく育てていらっしゃるなと思うお母さんには、朗らかな方が多いですね。一切心配せず、動じないんですよ。毎日みている母親が「この子は大丈夫!」と思ったら、それが正しいんだと思います。

「母親が不安になると、子どもはもっと不安になってしまう」と陰山先生

心配しすぎると、子どもはどうしても自信が持てなくなるので、情緒不安定になり、お菓子をたくさん食べたり、夜中に目が覚めてしまうなど、生活習慣が不適正になってきます。またその逆で、不適正な生活習慣が原因となって、友だち同士のトラブルや成績不振など、子どものさまざまな問題が起きているケースも多いです。

たとえば、中学生が部活で疲れて帰ってきて、いったん眠る。夜に起き出して夕食をとり、12時ごろにまた眠る。こういう生活習慣は、ものすごく子どもの体力を奪うんです。不登校の生徒が多い、ある中学校を調べた結果、睡眠の不適正が原因であることが分かったという事例もあります。

――生活習慣って、本当に大事なんですね。

陰山:毎日、質の良い睡眠をとることと、食事をきちんととることはとても大事なことです。生活習慣がちゃんとしていれば、心配ごとは減ると思いますよ。

子育ては、方向性が明確になると楽になる

――たとえば優秀な同級生に対して、「なんでウチの子はできないの?」と劣等感を持つことが、親の心配の一因になっている場合もありますよね。

陰山: 誰かの価値観や、社会で用意された価値観にはまってしまうと、どこかで劣等感を持つことになります。でも、自分自身の価値観が定まっていれば、人と比較することが減り、親子ともに劣等感を感じることが少なくなります。ほかの人の価値観をわが子に持ってきてしまうのは、マイナス面が大きい。自分がしたい子育ての方向性がある程度明確になれば、必要以上に不安にならずにすむものです。

――方向性を決めるのはなかなか難しいので、とりあえず良い学校に入れたいという考えの人は多いと思うのですが。

陰山:それ自体は間違いではないと思いますが、ではいつの時点でその先の進路を決めるのかということですよね。子どもの学力は十分についた。いろいろな職業につく可能性は広がったけれど、何をしたいか分からないという状況は困りますよね。

――確かに、それは困りますね。なりたい職業を自分で決められる子に育てるには、どうしたらいいのでしょうか?

陰山:小さいころから、自分自身で考えさせる場面を多く持たせることが大事です。ベストな答えを出そうと思うと決められないので、どっちでもいいから、とりあえず決めさせること。正解を探すのではなく、自分自身の心に決めさせるのです。

そのためには、いろいろなところへ連れて行って、さまざまな体験をさせることです。博物館に行ったり、旅をしたり、ワクワクするような体験をさせると、やりたいことが増えていって、可能性が広がります。

――なかなか決めない子どもを見ていると、つい口を出したくなりますが、親もがまんが必要ですね。

陰山:そうですね。
子育ては、子どもがなりたい職業につけるようにサポートできたら、合格点だと思うんです。わたしの3人の子どもたちは、それぞれが小さいころの夢を実現させています。だから、自分自身の子育ては、100点満点中110点くらいの感覚を持っていますね。

たとえば次女は、就職活動で悩んだこともありましたが、最終的には、小さいころからの夢だった仕事を選びました。これは、自分の価値観がしっかりしていたからだと思います。自分なりの価値観をつくってあげることは、子どもの自己肯定感を高めることにもつながります。

子どもを信じることと、笑顔を忘れないこと!

――子育てで、大事にすべきポイントは何でしょうか。

陰山:この子はきっと良い方向にいく。最終的には絶対なんとかなると信じて、ポジティブでいること。わたし自身の子育てでは、激しく親子で対立したこともありました。でも、必要な場面では、こちらが絶対折れない。ここで子どもとの関係が壊れるんだったら、それもやむなしというくらいの気持ちで立ち向かったこともあります。子どもたちは、親の背中をよく見ていますから、親自身が自分を信じることも大事ですね。

もうひとつは、母親の笑顔です。子どもと対立したときも、わたしの妻は「お父さんは、あんなふうに言ってるけど、大丈夫だから」と笑顔で子どもをフォローしてくれていました。何があっても笑顔の妻には、いままで本当に救われてきました。それは妻の性格というより、「笑う努力」「まわりを笑わせる努力」をしていたんだと思うんです。

 

「父親の役割は母親に安心感を与えること」と語る陰山先生

――やはり子どもにとっては父親より、母親なんでしょうか。

陰山:一般的に、子どもと長く接しているのは母親なので、母親の影響を受けやすいものです。その場合父親の役割は、そんな母親に安心感を与えることだと思います。そして、母親もたまには独身時代のように、自分が楽しむ時間を持つといいですね。そのときには、父親はもちろん、まわりの人にフォローしてもらえる環境があるとベストです。

親だけで子どもは育ちません。子どもがいろんな人とふれ合って、仲良くなることも大事です。わたしの子どもたちが悩んでいたときには、祖父母や叔母、友人たちが的確なアドバイスをしてくれました。いろんなタイプの応援団が身近にいる環境にしておくことも大事です。

――身近な人たちの存在は、親にも子にも大切だということですね。最後に、子育て中のお母さんにエールをお願いします!

陰山: 「わたしがかんばらなきゃ!」と肩に力を入れないことです。「できないことがあるのは当たり前!」と、開き直るくらいでちょうどいいと思いますよ。子どものころの成績が悪くても、多少やんちゃでも、立派な社会人になっている人はたくさんいます。お母さんの笑顔でお子さんを包んであげてください。子育ての期間は思っているよりも短いのです。楽しみましょう。

――本当にそうですね! ありがとうございました。

子育てでは、他人からみたらなんでもないような小さな悩みもあれば、心が折れそうになるほど大きな悩みに向き合うこともあるでしょう。でも、「信じれば、きっとなんとかなる」という先生の言葉にパワーをもらいました。陰山先生の、子どもたちへのやさしいまなざしから生まれる言葉の一つひとつは、子育て中のわたしたちにとって、深く心に響くものでした。

「子どもが18歳になるまでにあと何年だろう?」と考えると、そんなに長くないことに改めて気づきます。実はそれほど長くない年月、子どもたちを見守りながら、子育てをいっしょに楽しみましょう。

 

(まとめ 永瀬紀子/亀井惠美子)

 

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 学研キッズネット編集部(がっけんきっずねっと)

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