没頭力を鍛える/「賢い子ども」の育て方【第11回】
子どもが何かに没頭している時間は自分の意志で生命力を磨いている宝の時間なので、どれほど親の趣味とかけ離れていても決して邪魔をしてはいけません。
子どもがお絵かきに没頭しているときに
「そんなことより計算練習しなさい!」
と邪魔をするとどうなるか?
しぶしぶ、計算練習をするかもしれません。
でも、それで算数が得意になることはないでしょう。
それ以上に問題なのは
「どうせ邪魔されるからいいや。」
とお絵かきに没頭しなくなることです。
そして、そのうちに
「何か言われたらやればいいや。」
と指示待ち人間になってしまうかもしれません。
わたしの教室にバイオリン少年がいました。
生活の柱はバイオリンで1日に2~4時間、弾いていました。
先生や親に指示されて弾いているのではなく、自分の意志で弾いているのです。
親も本人も中学受験を考えていましたが、塾に通う時間がなく、新小3の初日から、かつて日本橋にあったわたしの教室に週に1回、通い始めました。
わたしの教室では小3の間はパズルだけで、小4から算数の問題を解き始めます。
同じ学年にパズルや算数が大好きな子が2人いて、2人とも初日からとてもよくできました。
バイオリン少年はパズルにも算数にも興味を持ったことがないようで、あまりできませんでした。
そういう状態が2年半くらい続きましたが、親もわたしもまるで焦ることはなく、相変わらずバイオリンに没頭する少年を見守りました。
5年生の後半から授業中に問題が解けるようになり、6年生のとき、はじめて算数オリンピックの予選を通過しました。
第一志望校は1日校*の学校で、そこは合格すると確信しました。
*編集部注:首都圏の中学受験は2月1~3日を中心に行われるため、それぞれの日に受験が行われる中学校を1日校・2日校・3日校と呼ぶことがある。
バイオリン中心の生活は続きましたが、通塾日が1日増え、週2日になりました。
6年生の終盤の授業でバイオリン少年ははじめて授業でトップを取りました。
絶対に追いつくはずがないと思っていたトップの2人に勝ったのです。
「授業で1番になったのははじめてだよね?」
とたずねると、実にうれしそうに
「はい!」
という返事が返って来ました。
1日校に2日の時点で無事に合格し、
「3日校は記念受験でいいかな。」
と思っていましたが、ここにも合格し、トップの2人と同じ3日校に進学しました。
同じ学年にサッカー少年がいました。
週に5日はサッカーに没頭しているので、塾に通う時間が取れませんでしたが、中学受験はするつもりで家庭学習を続けていました。
はじめて通う塾がわたしの教室でした。
6年の4月にはじめてわたしの教室に来ましたが、算数はさっぱりできません。
第一志望校は1日の最難関校なので、
「受からないだろうな。」
と思いました。
3カ月経ってもまったく伸びは感じられませんでした。
夏休み前のある日、サッカー少年の母からメールが来ました。
「このサッカー漬けの生活をいつまで続けさせていいのでしょうか?」
こういう質問に対するわたしの返事はいつも同じです。
「そういう大切なことは本人に決めさせましょう。」
本人の出した結論は
「10月末まで週5のサッカー漬けの生活をし、11月から一時的にサッカーを休む。」
というものでした。
「間に合わないな。」
と思いましたが、親もわたしも反対しませんでした。
「落ちてもかまわない。大事なのは本人の意志で受験し、結果を受け入れ、次のステージに進むことだ。」
と思っていたからです。
サッカー少年は1日校には受かりませんでしたが、2日校の私立校と3日校の都立一貫校には受かりました。
通常、中学受験を考えると、新小4の時点で大手塾に入れる場合が多いです。
小4で週1~2日、小5で週2~4日、小6の後半になると週4~6日通塾します。
「それぐらい通塾しないと上位校に合格するのは不可能だ。」
と多くの親は思っているからです。
こういう大手塾に通う子に比べると学習時間の総量は、バイオリン少年は1/5くらい、サッカー少年は1/20くらいでしょう。
バイオリンとサッカーで培った没頭力が大きく役に立ったのです。
親が愚かだとこういうことにはなりません。
「バイオリンやサッカーで飯が食えるか! その時間とエネルギーをすべて中学受験のための勉強に向けなさい!」
と言うに決まっています。
何かに没頭できる子は強いのです。
冒頭のセリフを繰り返します。
子どもが何かに没頭している時間は自分の意志で生命力を磨いている宝の時間なので、どれほど親の趣味とかけ離れていても決して邪魔をしてはいけません。
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