こたえ:雲の中で氷のつぶが大きく成長して落ちてきます。
「関東では午後の早い時間から雷雨の所も。山沿いでは落雷やひょうに注意を」━━こんな気象情報を見たり聞いたりしたことはありませんか? 夏が近づくと、降ってきたひょうで畑の作物に穴が開いた、自動車がへこんだ、といった被害を伝えるニュースも増えてきますね。ひょうは、どこから、どのように降ってくるのでしょうか。
ひょうは、積乱雲から地上へ降ってくる直径5mm以上の氷のかたまりです1)。積乱雲とは、せまい範囲に激しい雨を降らせる背の高い雲で、「雷雲」ともよばれます(関連記事「入道雲はどうしてできるの?」)。ひょうと落雷の気象情報を一緒に聞くことが多いのは、どちらも積乱雲から落ちてくるからなのです。
積乱雲の中で、どのようにひょうができるのかを見てみましょう2)。積乱雲は、水蒸気からつくられた小さな水てきの「雲つぶ」や氷の結晶の「氷晶」でできていて、海や地面から蒸発した水分が上へ向かう大気の流れ「上昇気流」によって空に浮かんでいます(関連記事「雲は何からどのようにできるの?」)。地上付近から上空10km以上まで発達し、同じ雲の中でも高さによって気温が大きく変わります。たとえば標高0mの気温が+20℃のとき、高度1km付近では+10℃、高度3km付近では0℃、高度7km付近では-20℃以下、高度10kmを超えると-40℃以下に下がります。このように高度が上がって気温が低くなるにつれて、水蒸気の形態も「液体(雲つぶ)のみ」「液体と固体(雲つぶと氷晶)」「固体(氷晶)のみ」と変化していきます。ただし、雲の中では、0℃より低い気温の中でも液体のままの雲つぶ「過冷却雲粒」も存在します。
氷晶に周りの水蒸気がくっつくと雪の結晶ができます(関連記事「雪はどうして降るの?」)。そこに過冷却雲粒がくっつくと、雪の結晶は重くなって雲の低い場所まで落ちてきます。これが「あられ」です。あられが0℃(高度3km付近)より暖かい場所まで落下すると、表面がとけて水の膜ができます。そして、上昇気流で再び高い場所へ運ばれると、今度は表面がこおります。
このように上下へ行ったり来たりするのをくり返すうちに、結晶は大きくなっていきます。そして、ある程度の大きさになると、落ちる速度が速いため上昇気流では上へ運べなくなり、雲の下へ向かって落ち始めます。それが地上に届くまでに溶ければ雨になりますが、溶けずに直径5mmの大きさを保ったまま地上に到達すると、ひょうとよばれることになります。
降ってきたひょうを輪切りにすると、断面に木の年輪のようなしま模様を観察することができます3)。このしま模様が、結晶が積乱雲の中で上下運動をくり返した証拠。過冷却雲粒がこおってできた層は粒と粒の間にすきまがあるため不透明になりますが、表面がとけて水の膜になった層はすきまがないため透明になるそうです。ひょうを漢字で書くと「雹」。まるで、雪の結晶を水の膜で何重にも包むようにできる様子を表したようですね。
ひょうというと球形をイメージしますが、実際は表面にトゲトゲが生えた「こんぺいとう」のような形になることもあります。大きさもいろいろで、1917年の『気象要覧』には、熊谷測候所(現在の熊谷地方気象台)で直径が約29.5cmのひょうを観測したという記録が残っています4)。ひょうの落下速度は、直径5mmでも36m/h、直径70mmでは140km/h5)。大きさによっては大けがにつながる、危険なものであることがわかります。
記事公開:2022年7月
参考資料
監修者:大山光晴
1957年東京都生まれ。東京工業大学大学院修士課程修了。高等学校の物理教諭、千葉県教育委員会指導主事、千葉県立長生高等学校校長等を経て、現在、秀明大学学校教師学部教授として「理数探究」や「総合的な学習の時間」の指導方法について講義・演習を担当している。科学実験教室やテレビの実験番組等への出演も多数。千葉市科学館プロジェクト・アドバイザー、日本物理教育学会常務理事、日本科学教育学会及び日本理科教育学会会員、月刊『理科の教育』編集委員等も務める。