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子どもの可能性を広げるために、親ができること/くやまない、悩まない、自分を責めない――心がラクになるアドラー流子育て【第8回】

子どもの可能性を広げるために、親ができること/くやまない、悩まない、自分を責めない――心がラクになるアドラー流子育て【第8回】

親のなにげない一言が子どもの心に残り、それが苦手意識につながってしまうこともあります。アドラー流の子育てで重要なことは、子どもへの「勇気づけ」です。そして同時に心がけたいのが、「勇気くじき」をしないことなのです。

苦手意識は些細なことから

わたしは手芸が苦手です。
三人のわが子たちが幼稚園や小学校に入る前、手作りの手さげや給食袋などを本当に苦労して作ったおぼえがあります。
当時、同じマンションに手芸が得意なママ友さんがいたので、彼女に教えてもらいながら必死に作り上げました。
いま思えば、苦くも懐かしい思い出です。

でも、実はその後、あることがきっかけで、わたしは手芸が嫌いではなくなったのです。むしろ積極的にいろんな「ものづくり」を楽しめるまでになりました。

そもそも、わたしの「手芸嫌い」は、母の口癖から始まったのではないかと思うんです。

その口癖とは…「不器用ね。」でした。
(いま思うと、これは「決めつけ」ですね。)

母の言葉の影響で…

母は手芸など細かいことが得意。編み物や刺繍など、プロ並みの腕前だったんです。それに比べて、わたしは何をするにも作業が遅く、手先が不器用。母はそんなわたしを見て、思わずそんなことを口走ってしまったのだと思います。

幸いにも、わたしはそれを聞いて、特に傷ついたというわけではなく、母の言うことを「確かにそうだ!」と鵜呑みにしていました。そして、疑うこともなくおとなになりました。

でも、その「先入観」を取り除いてくれた人たちがいました。それが、ママ友さんや同じマンションに住む先輩ママさんでした。「手作りなんて、無理無理!」と言っていたわたしを、「とにかくやってみて」と誘い、手芸を手取り足取り教えてくれたんです。いっしょにアクセサリー作りをしたり、ときには子どもたちも巻き込んでリースなどを作ったりと、様々なことを体験させてもらいました。

そして、何度もそういう体験をするうちに、わたしは新たな自分を発見したのです。

「わたしにもできる!」という感覚

確かに人より作業は遅いかもしれません。それでも、ちゃんと工程を理解し、少しずつでも取り組んでいけば、こんなわたしでも作品が作れる――そう思えたのです。

こうして、わたしが持っていた手芸やものづくりに対する苦手意識は、取り除かれていったのでした。

わたしにとって、これは本当に貴重な体験でした。母はわたしをけなしたわけではなく、ましてや、傷つけたかったわけでもなかったはずです。でも、何も考えずに「ぽろっ」と出てしまったその一言が、わたしの可能性をせばめていたのではないかと、わたしははじめて気づきました。

子どもの可能性を広げたいなら

この経験を通して、わたしは、自分に対しての思い込みが強かったこと。そして、苦手と思い込んでいたのは、親の言葉の影響が大きかったことを知りました。

アドラー流の子育てで重要なことは、前回も書いたように、子どもへの「勇気づけ」です。そして同時に心がけたいのが、「勇気くじき」をしないことなのです。

「勇気くじき」とは、勇気(困難に立ち向かおうとする力)を失わせるような言葉かけや態度、行為を行うことです。

だれでも、失敗を責められたり、叱られたり、否定的な言葉をかけられたら、「二度とやりたくない」と思ってしまうのではないでしょうか?

親のなにげない一言が子どもの心に残り、それが苦手意識につながってしまうこともあります。また、それによって「自分像=セルフイメージ」が作り上げられてしまうことだって、十分に考えられます。

「勇気づけ」の言葉かけも、もちろんとても大事ですが、それと同じくらい、「勇気くじき」をしないことがアドラー流の子育てでは大切なことなのです。

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 松井美香(まついみか)

 松井美香(まついみか)

松井美香(まついみか)

東京音楽大学ピアノ専攻卒業。「勇気づけの音楽家」。大学卒業後約10年間公立中学校に勤務。その頃偶然、教員研修でアドラー心理学に出会い、岩井俊憲氏の元で学び約25年が経過。自身のピアノ教室や子育てにおいてアドラー心理学を実践する中、子どもたちが音楽や部活動を続けながらも有名大学に続々と合格し夢を叶えている。長男(21歳)と双子(18歳)三人の男子の母。現在、保護者や音楽指導者に向け、執筆やセミナーを通して「勇気づけの指導法」を広める活動をしている。

*学研「おんがく通信」にて、コラム「勇気づけのピアノレッスン」連載中

*学研プラス出版「あなたの想いが届く愛のピアノレッスン」にて、手記「ある教室のささやかなサクセスストーリー」を執筆

松井美香公式ホームページ:

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