ロシアが2022年2月24日(現地時間)、西隣にあるウクライナを相手に戦争を始めました。ウクライナの街はミサイルで壊され、一般市民が犠牲になっています。犠牲者には子どももいます。たくさんのウクライナの人々が、外国へ避難しています。どうしてこんな悲しいことが起こっているのか。みんなに分かるように、ウクライナ研究の専門家、岡部芳彦さんに教えてもらいました。(2022年3月4日配信、2024年2月22日更新)
写真で見るキーウ 戦争のある日常 ロシアのウクライナ侵攻から2年
日本の「隣の隣の国」でおきる身近な危機
いつ、どこで、なにがあった?
2022年2月24日(現地時間)、ロシアが、その西側で隣り合っているウクライナに、軍隊のミサイルや戦車を使って攻め込みました。最初はウクライナの首都キーウの近くまで攻めましたが、その後、ロシアと接する東部と南部に攻撃を集中して占領しました。ロシアは2022年9月30日、占領したウクライナ東南部4州(ルガンスク、ドネツク、ザポリージャ、ヘルソン)をロシアへ併合すると宣言しました。ロシア軍の圧力がある中で行われた住民投票を根拠として主張しています。
ウクライナは2023年6月以降、占領された地域を取り返すために反撃を強めました。自国でつくった無人機(ドローン)を使って、ロシア本土への攻撃も始めました。ただ、占領地を取り返すことはできず、その後、ロシアが占領地を広げるのを防ぐという姿勢に戻っています。そのため、ロシアの占領地も広がってはいません。
ロシアとウクライナの間では、捕虜の交換というやり取りはあるものの、和平につながるような交渉の場もなく、この戦争がいつ終わるのか、見通しもまったく立たない状態です。
2024年は、ロシア、ウクライナともにこの戦争をどうするのか、次の作戦を考える時間になると考えられます。特に、ロシアが、今の状態を維持していく方針にするのか、ウクライナ全土を占領する方針にするのかが注目されます。
侵攻による被害と犠牲者は、ウクライナ、ロシア、欧米の研究機関などそれぞれの間で見解が分かれています。国連の人権監視団によると、ウクライナの一般市民の犠牲者は、少なくとも1万人を超えています。
どうして攻め込んだ?
理由は大きく2つ。
①ロシアと仲が良くないグループに、ウクライナが入るのをじゃまするため。そのグループは、アメリカやヨーロッパの国々でつくる北大西洋条約機構(NATO、ナトー)です。ロシアがまだソビエト連邦だったころに、敵対するグループとしてできました。今は30か国が、お互いの国を協力して守り合っています。
②ロシア政権が「ロシア人とウクライナ人は一体である」という自分たちの考えだけで、ウクライナに言うことを聞かせたいから。ロシアにとっては、ウクライナは「ロシア発祥の地」ともいえる場所です。ロシアは、ウクライナ領土のうちクリミア半島を2014年3月に自国に取り込み、今回の攻撃直前には東部の2地域を「別の国」と勝手に認めて支配下に入れています。
どうして今?
ウクライナに言うことを聞かせる方法として、軍事力しかなくなったから。ロシアは毎年冬になると、暖房に必要な「天然ガスをやらないぞ」とウクライナに圧力をかけていました。ただ、ウクライナが、天然ガスをロシア以外からも手に入れるようになり、脅しの効果がなくなってきていたのです。
日本と世界の反応は?
日本も、多くの国々も、軍事力を使って無理やり言うことを聞かせようとすることは国際ルールを破っているといって、ロシアを責めています。第二次世界大戦以来の大きな戦争になるかもしれず、世界の自由と平和の危機であると心配しています。ロシアによるウクライナ東南部4州の併合も認めていません。
日本と欧米の国々は協力して、ロシアとの輸出・輸入、お金のやりとりをやめて、経済的に孤立させることで、攻撃をやめさせようとしています。
欧米の国々は、ウクライナがロシアの攻撃に負けないように武器やミサイル、戦闘機もわたしています。
ロシアと接する北欧のフィンランドとスウェーデンは、これまでNATOにもロシアにも味方しない「中立化政策」を取っていましたが、今回の侵攻でロシアに不信感を持ったため、NATOへ加盟することにしました。そしてフィンランドは2023年4月、正式にNATOへ加盟しました。
NATOは、これまでロシアと「協力関係」を望む立場でしたが、ロシアを「敵国」としてみなすよう考えを変えました。
わたしたちの生活への影響は?
石油や天然ガスがたくさん取れるロシアからエネルギー資源が手に入りにくくなり、世界的に石油や天然ガスの値段が上がっています。石油を使う製品や、火力発電などの費用が高くなり、ヨーロッパの国々などでは、モノの値段や電気代が大きく上がりました。
ロシアとウクライナは穀物をたくさんつくって、輸出していた国です。この2か国から小麦やトウモロコシが手に入らなくなり、アフリカの国々などでは食糧不足がおきています。また、エネルギー資源と同じように、小麦粉やパン、麺などは値上がりしています。穀物をエサにしている豚や牛などの畜産業にも影響が出ています。
学校で、家庭で考えよう
日本は、ロシアの東隣の国です。実は、ウクライナは遠い国のようで、ロシアを挟んで、日本の「隣の隣の国」です。そんな身近な国が、いま、どういう状況に置かれているのか。報道やSNSなどで発信されている、ウクライナ現地の人たちの言葉に耳を傾けてみましょう。
ウクライナってどんな国?
旧ソビエト連邦の国で、ロシアとNATOの国々に挟まれた位置にあります。首都はキーウ(キエフ)です。ルーツが同じロシアとは「兄弟国」といわれ、人口の2割ほどがロシア人です。伝統料理ボルシチやコサックダンスなど、ロシアのものと思われている文化も、元々はウクライナの文化です。
「黒土」という栄養がたくさんある土地で、小麦やトウモロコシ生産など農業が盛んです。またIT産業も盛んで「東欧のシリコンバレー」とも呼ばれます。経済的にまだ貧しいですが、豊かになっていく可能性を大きく持っています。
旧ソビエト連邦時代に原子力発電所の爆発事故がおきたチョルノービリ(チェルノブイリ)があり、日本と同じで原子力発電事故を経験している国です。
ロシアってどんな国?
旧ソビエト連邦の中心国。首都はモスクワです。国際連合で最も権限を持っている安全保障理事会の5つの常任理事国の1つ。反対すれば、すべての議案を不成立にできる「拒否権」を持っています。世界で公式に認められている核保有国でもあります。
世界で一番面積が広く、エネルギー資源もたくさん取れます。
日本も天然ガスなどの多くのエネルギー資源を輸入しています。一方で、北方領土をめぐる領土問題をかかえています。
この記事では、みんなから、ロシアのウクライナ侵攻についての岡部さんへの質問を募集していました。たくさんの「なぜ」「どうして」が寄よせられ、その主な質問と岡部さんからの回答を、下したのリンクで紹介しています。
質問への岡部さんからの回答その1
質問への岡部さんからの回答その2
ロシアのウクライナ侵攻1年「岡部さんからキミへの手紙」はこちら
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監修:岡部芳彦
1973年生まれ。
神戸学院大学経済学部教授、ウクライナ研究会(国際ウクライナ学会日本支部)会長。
日本人初のウクライナ国立農業科学アカデミー外国人会員。