「子育てが楽しくなる小さなヒント」⑮ 「あるがまま」のしつけの落とし穴
学研キッズネット編集部と、元保育園園長で現在「花まる子育てカレッジ」のディレクターである井坂敦子さんがタッグを組んで、月・水・金の朝6時に配信している、音声プラットフォーム『Voicy』の番組「コソダテ・ラジオ」。月曜日配信のトークテーマ「子育てが楽しくなる小さなヒント」の内容を、いつでもお読みいただけるように記事化しています。さて、今回は「しつけ」に関するお話です。
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「ありのまま」と言うけれど……
最近よく見聞きする、「子どものありのまま、あるがままの姿を受け入れてあげましょう」という言葉。
たしかに、親の意図で子どもに何かをさせたり、親の希望に沿ったことをして欲しいと願うのは親のエゴで、「良くないこと」というのはわかります。ただ、親をやっていると、「○○をやって欲しい」、「こうなって欲しい」といった希望を持つこともありますよね。
たとえば、活躍されているスポーツ選手や音楽家など。親御さんがスポーツや音楽をされていたり、親御さん自身の夢だったりして、子どもが小さい頃から親子二人三脚で練習して、大きな舞台に立つ方は多いように思います。
そういう話をメディアを通して見ると、「やっぱり小さい頃から取り組んでいると、成功したり、大きな結果を残す人になるのかな」と、自分の子どもにも「スポーツが向いているかも」、「音楽が好きだから、この才能を伸ばしてあげたい」などと考えるのではないでしょうか?
スポーツや音楽、勉強でも、親がそう考えて、一緒に寄り添ってやるというのは、悪いことではないと思います。「もっとやってみようか」とか、どこかに出かけた際、「こういうものを見ると、もっと伸びるんじゃない?」などと会話しながら、子どもの力を伸ばしていく。それはとても楽しい時間になるでしょう。
しつけはしなくても生きていける?
しつけも同じだと思います。日常の中に転がっている生活習慣。挨拶や食事のマナー、「脱いだ靴を揃える」など……。挨拶ができなくても、靴を揃えなくても、生きていくことはできますから、こうした習慣を身につけさせるかどうかは、親が決めることです。それに、子ども自身が選択できるようになるまで待っていると、身につける時期を逃してしまいます。
先ほどのスポーツ選手や音楽家のように、小さい頃から親子で二人三脚でやっている方は、おそらく、毎日たくさん練習をするのが当たり前になっている。「やらないと気持ち悪い」というくらいの状態になっていたからこそ、選手や演奏家、はたまたすごい研究者になれたのではないでしょうか。
人間ですから、疲れて休みたい日もあるとは思いますが、やることが当たり前になっていて、自然に身についている状態。これが、挨拶や食事のマナー、人や物に対してどう振る舞うかという礼儀作法に通じているように思います。親御さんの思いも含め、小さいときから「そういうふうにするのが当たり前」という環境にいることで、子どもにはそれが普通になっていくのです。
「あるがまま」には年齢制限あり!
冒頭の「あるがままを受け入れてあげましょう」という話に戻ると、これは、ある程度年齢がいったお子さんに対してのことだと思っています。
生まれたての赤ちゃんの頃から「あるがまま」で、その子のやりたいことを100%認めてしまうと、食べたいものばかり食べたりして、栄養が偏ってしまいます。無理矢理食べさせることはできませんが、身体を作るものですから、栄養があるもの、身体にいいものを食べさせたいですよね。
ほかにも、「顔を洗いたくない」とか「歯磨きが面倒くさい」、「着替えたくない」など……。子どもは、“本人の欲求”と“本人の身体にとって良いこと”がずれていることがたくさんあります。
それを、なるべく本人に理解させながら、より良いものや良いことを選べるように、いい生活習慣や建設的な生き方を身につけさせていくことが「しつけ」ではないでしょうか。
しつけは、人生の“道案内”
以前、東京大学名誉教授で教育学者の汐見稔幸(しおみとしゆき)先生とお話しさせていただく機会がありました。
汐見先生に、「しつけって本当に大変ですよね。生まれたての何も知らない赤ちゃんに、人間の社会の中で独り立ちして生活していけるように、基礎を教えるんですもんね。色々教えることがあって大変ですが、どうしたらいいでしょうか」というようなことを伺いました。
すると、こんなお話をしてくださいました。
「着物を縫うとき、本縫いをする前にしつけ糸で仮縫いをすることを『しつけ』って言うでしょ。仮縫いだから抜くものなんだよ。しつけをしてあるから、本縫いがずれないで、いい着物に仕上がるんだ。とても大事なものだけど、最終的にはなくなるものだよね。つまり、幼児期に親が『こういうふうにしましょうね』としつけ糸で縫っておくことが『しつけ』。本縫いは、本人が縫う。『自分はこういう人間になりたい』、『こういう人間である』というふうに縫っていくのは子ども自身なんだよ」
子どもたちが、自分自身でちゃんと縫っていけるように、道筋をつけてあげるのがしつけ。経験のない子どもに最初から本縫いをさせたら、ずれてしまったり、そもそも正解の形がわからないので仕上がらなかったり……。子どもにとって、とても怖いことだと思います。だから親としては、「こういうふうにやるといいですよ」としつけ糸を縫ってあげるのは、やはり必要なことだと感じました。
ですので、「ありのまま、あるがままでいい」ということを、「小さい子どもにしつけをしなくてもいいんだ」、というように誤解しないでいただきたいと思います。
大事に扱ってもらえる子どもに
マナーや礼儀正しさがきちんと身についている小・中学生くらいのお子さんに会うと、とても嬉しくなります。
そのお子さんの後ろには、そう育てた親御さんの覚悟みたいなものも見えますし、「どんな日々を積み重ねて、こんなお子さんになったんだろう」と、お子さんを通して、その親御さんに尊敬の念を抱くこともあります。
相手は子どもですが、こちらもいろいろなものを学ばせてもらったり……。人と人が出会ったとき、年齢に関係なく「素敵だな」と思いますから、おそらくそれは、そのお子さんにも伝わって、「自分のことを大事に思っているな。大事に扱ってもらっているな」と感じ、最初からお互い良い関係が築けていける気がします。
こうした第一印象は、日本国内だけでなく、海外の人と付き合うときにもとても大事なものだと思います。これを機会に、「あるがままでいい」とはどういうことか、もう一度考えてみていただけたら嬉しいです。
話し手/井坂敦子 構成/清野 直
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▼井坂敦子 プロフィール
慶應義塾大学→ 雑誌『オレンジページ』編集部 →公式サイト『オレンジページnet』編集長 →小学校受験対応型保育園園長 →年間約100本の子育てや教育に関する講演会や対談を企画運営 英国留学中高校生女子とボーダーコリー3頭の母
中学校高等学校教諭一種免許状(国語) 保育士 食育カウンセラー 表千家師範
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