思いやりのある優しい子に育てるために/くやまない、悩まない、自分を責めない――心がラクになるアドラー流子育て【第20回】
「将来、お子さんにどんな人になってほしいですか?」という質問について、保護者の多くに「人に対して思いやりのある優しい人になってほしい」という回答が見られました。子どもの共同体感覚や思いやりの気持ちは、保護者の心がけ次第ですくすくと育っていくものです。
多くの保護者の子どもに対する共通の思い
今年の2月、都内のある公立中学校でアドラー流子育てについての講演をしました。その際、参加してくださる保護者の方々に、事前にアンケートを取らせてもらいました。その中で、「将来、お子さんにどんな人になってほしいですか?」という質問について、保護者の多くに同じ回答が見られました。
それは、
「人に対して思いやりのある優しい人になってほしい」でした。
講演をするにあたって、保護者の方々が日頃どんな思いや願いを持って子育てをしているのかが、とても気になっていたのですが、学力よりも思いやりが上位になったことは、ちょっと予想外でした。同時に、とてもうれしい結果でもありました。
他者に関心を持つことの大切さ
アドラーは、子育てや教育の目標は共同体感覚の育成であると言っています。では、共同体感覚とは、一体どんなことなのでしょうか。日本語で「共同体感覚」と訳されるこの言葉は、英語では、「social interest」つまり、「他者への関心」という意味です。
ありのままの自分を大切にする一方で、他者に関心を持つということが幸せに生きていく上でとても大切であると、アドラーは考えます。
自分にしか関心のない人は、常にスポットライトを自分に当てていて、他者への関心が薄れています。他者が自分に何をしてくれるかに関心があり、自分が他者に何ができるかに関心を持てないのです。けれども、それでは人に思いやりを持つことなどできません。
では、わたしたち親が子どもたちにどのように関われば、共同体感覚が育ち、思いやりのある人になれるのでしょうか?
一番身近な、お母さんお父さんの役に立つという経験から
関心を持つためには まず、所属する共同体(家庭、学校、地域など)の中で、自分が他者の役に立っていると感じる必要があります。なぜなら、自分が人の役に立てるという感覚が持てなければ、人は思いやりをもって行動 しないものだからです。
一番身近な例をあげてみましょう。
夜、家事や仕事でクタクタになっているお母さん(お父さん)。果たして、子どもの目にはどううつっているのでしょうか?
「今日は、お母さん(お父さん)、疲れているんだな。わたし(ぼく)は、どうすればいいんだろう。少しお手伝いしたいけど・・・」
もしかしたら、子どもはそんなふうに思っているかもしれません。そして、中には、その気持ちを行動に移す(お手伝いをする)子どももいるでしょう。
そんなとき、もし子どもが慣れないことで失敗したら、
「もう! 余計なことしないで! かえって仕事が増えて大変になっちゃうんだから。」
疲れてヘトヘトになっているときには特に、このように言ってしまいがちですが、これを言われた子どもはどう感じるでしょうか。
「せっかく手伝おうと思ったけど、もうゼッタイやらない!」
「わたし(ぼく)はお母さん(お父さん)の役に立てないんだ」と悲しい気持ちになることでしょう。これは、わたしたちの目指す「勇気づけ」ではなく、真逆の「勇気くじき」です。
せっかく、お母さん(お父さん)のために言ったこと、やったことが、お母さん(お父さん)にとっては迷惑なんだ、と思ったら、二度とやる気が起きなくなるでしょう。
思いやりの気持ちを育む「勇気づけの言葉かけ」
では、このような場合親はどんな行動をとり、どんな声かけをすれば良いのでしょう。
まずは子どもの優しい気持ちをくみ取って、
「ありがとう! 本当に助かる。」と、言ってみてください。
確かに、子どものする家事は完成度が低く、満足のいくものではないかもしれません。それでも、最初にぜひ感謝の言葉を言って、少しは家事をやらせてあげてください。
その言葉を言ったあとに、「今日はこれとこれだけやってくれればいいからね。」
などの言葉を付け足せば良いと思います。
とても簡単な言葉かけではありますが、子どもの優しい気持ちを大切にしたいのなら、手伝おうとしてくれたことに注目し、感謝すれば良いのです。
人は注目されたところが伸びる
「人は、良いところも悪いところも、注目されたところが強化する」と、アドラーは指摘しています。
日ごろからあらゆる場面で、子どもを頼りにすることも良いと思います。
「○○ちゃんが、これをやってくれたおかげで、本当に助かったわ。いつもありがとう!」
また、時間の余裕があるときには、
「今度は、違うこともお願いできたら、お母さん(お父さん)とても助かるし、うれしいんだけど。」
このように言ってみましょう。
きっと子どもは、「わたし(ぼく)は、お母さん(お父さん)の役に立っている」とうれしい気持ちになり、また、手伝ってくれるようになります。そして、その経験がたくさんあれば、親以外の他者にもきっと関心を向けられるようになります。
子どもの共同体感覚や思いやりの気持ちは、保護者の心がけ次第ですくすくと育っていくものです。
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