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アドラー流子育てで考える「中学受験」/くやまない、悩まない、自分を責めない――心がラクになるアドラー流子育て【番外編】

アドラー流子育てで考える「中学受験」/くやまない、悩まない、自分を責めない――心がラクになるアドラー流子育て【番外編】

日本の受験に関しては、まだまだ多くの課題があると思いますが、これを「困難を乗り越えるチャンス」としてうまく活かすのもひとつの方法ではないかと思います。「受ける・受けない」どちらも「メリット・デメリット」があります。それを親子で、公平にしっかりと話し合った上で受験を決めて欲しいものです。

早期受験に対する保護者の関心

「お受験」という言葉が一般的に使われるようになって久しくなりました。

この言葉は、有名幼稚園や小学校に入学するための受験のことを指すと思っていたのですが、中学受験について使うこともあるようです。いずれにしても、受験に対する保護者の関心の高さを感じます。

中学受験について、親はどう考え、行動すれば良いかをアドラー心理学的な立場から考えてみましょう。

「お受験」という言葉に象徴されるように、子どもの教育に対する保護者の関心は、少子化の影響もあり、ますます加熱しているような気がします。書店では、子どもの教育に関する書籍がたくさん並び、専門雑誌に「受験特集」が組まれたりしていますね。

実際、わたしの周りでも幼少期からの習い事は当たり前になっていますし、小学生の塾通いも特別なことではなくなりました。わたしが音楽教室を主宰していることもあり、保護者から子どもの早期教育についての相談をよく受けるようになりました。

「経済的にゆとりがあれば(場合によっては、ゆとりがなくても)うちの子も受験させたいと思っている」という話もよく耳にします。

その理由は様々だと思いますが、やはり「わが子には、早いうちから良い教育を受けさせたい。」「早めに受験させておけば、将来失敗するリスクが少なくて済むのではないか。」といった思いが要因になっているようです。

「わが子が生涯幸せに生きていって欲しい」というのは、親の切なる願いです。子どもには、将来できるだけ苦労をさせたくないと思うから、早期受験に期待する気持ちが高まっていくのでしょう。

わが子への愛情は、どんな時代になっても変わりませんし、とても尊いものですね。

でも、本当に子どもの幸せを願うのであれば、子どもに受験をさせる前にしっかりと考えておいて欲しいことがいくつかあります。

その受験は本当に子ども自身が望んでいることか?

早い時期から良い教育を受けるのは、決して悪いことではありませんし、中学受験や早期からの受験を一概に否定するつもりはありません。けれども、「受験をするのは子ども本人である」という、ごく当たり前のことをもう一度確認してほしいのです。

「受験するかどうかを決めるのはあくまでも本人」であって欲しいと、アドラー心理学を長く実践してきたわたしは強く思います。

子どもの人生を親が決めてはならないのです。親の価値観を押しつけることも避けなくてはなりません。なぜならそれは、子どもを「自立」から遠ざけることになるからです。

「受験をするのは本人。成功しても失敗しても、それを請け負うのは本人。」

そう思いませんか?

人生経験を積んできたわたしたち親が、子どもから受験についてアドバイスを求められた時には、それに答えたり、相談に乗ることはできます。

でも「受験はあなたのためなのよ。受けなさい。」というような命令や指示では、自分で自分の道を決めることや、その結果に対して責任を負うことを学ぶ機会を逃してしまうことになります。

それでは自分の人生を親に操作されているも同然です。

子どもは、親の期待や希望にこたえようとして、本人の意思とは関係なく親の思い通りに行動してしまうものです。

「子どもにそんな力はないでしょう?」
「子どものうちは親の言うことを聞いていれば良い。」
と思うかもしれません。

しかし、どんな小さな子どもでも、自分で選ぶこと、決めることはできます。

アドラー流子育てでは、支配的な縦の親子関係ではなく、横の関係を築くことを目的にします。つまり、親からの命令や指示で動くように子どもを育てるのではなく、親子で共に考え共に成長するという対等の関係になることを目指します。

受験を子ども自身が決めたなら

親が一方的に受験を決めるのではなく、話し合いの上で本人が決めたのであれば、あとは子どもを全面的に信じ、何も手を出さないことです。

例えばその後、受験勉強をまったくしなかったとしても、口を出してはいけません。時にイライラするでしょう。怒りたくもなるでしょう。

でも、そんな時でも、ひたすら信じて見守って欲しいのです。

「自分で決めたのに、なんで勉強しないの?」

と、言いたい気持ちをぐっとこらえてください。なぜなら、失敗も経験だからです。受験は親の課題ではなく、本人の課題です。自分で決めたことに失敗したら、それが学びとなって、あとで実となり返ってきます。それが自立への大きな一歩となるのです。

子どもが受験勉強をしっかりしなかった結果、もし不合格だったとしても何も恐れることはありません。失敗を恐れずに挑戦したことは素晴らしいことです。むしろ、その勇気をたたえて「よくチャレンジしたね。今回は残念だったけど、また、チャンスは巡ってくるよ。」と言ってあげてほしいのです。

親は、そこまでの覚悟をして子どもを支える必要があります。

日本の受験に関しては、まだまだ多くの課題があると思います。けれども、これを「困難を乗り越えるチャンス」としてうまく活かすのも一つの方法ではないかと思います。

「受ける・受けない」どちらも「メリット・デメリット」があります。それを親子で、公平にしっかりと話し合った上で受験を決めて欲しいものです。世の中のすべての子どもたちが、困難に立ち向かう勇気ある子どもに育ってくれたらと願うばかりです。

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松井美香(まついみか)

松井美香(まついみか)

松井美香(まついみか)

東京音楽大学ピアノ専攻卒業。「勇気づけの音楽家」。大学卒業後約10年間公立中学校に勤務。その頃偶然、教員研修でアドラー心理学に出会い、岩井俊憲氏の元で学び約25年が経過。自身のピアノ教室や子育てにおいてアドラー心理学を実践する中、子どもたちが音楽や部活動を続けながらも有名大学に続々と合格し夢を叶えている。長男(21歳)と双子(18歳)三人の男子の母。現在、保護者や音楽指導者に向け、執筆やセミナーを通して「勇気づけの指導法」を広める活動をしている。

*学研「おんがく通信」にて、コラム「勇気づけのピアノレッスン」連載中

*学研プラス出版「あなたの想いが届く愛のピアノレッスン」にて、手記「ある教室のささやかなサクセスストーリー」を執筆

松井美香公式ホームページ:

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