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Case 30 役にたたない「帰るLINE」/わが家のSNSトラブル ~ユカの事件簿~

Case 30 役にたたない「帰るLINE」/わが家のSNSトラブル ~ユカの事件簿~

ユカから「帰るね」とLINE。さて、どこから帰ってくるのやら……。5W1Hのない連絡に振り回される日々で、ユカの文章力が心配になりました。

ユカから「帰るね」とLINE。さて、どこから帰ってくるのやら……。5W1Hのない連絡に振り回される日々で、ユカの文章力が心配になりました。

「帰るね」って、どこから?

娘のユカは大学生。行動範囲が広がって帰宅時間も遅くなりましたが、家で夕食を食べる日にはかならず帰るコールをしてくれます。この「帰るコール」は、いつからか「帰るLINE」になりました。電車に乗っていても連絡できるので、おたがい便利です。

ところが最近、ユカの帰るLINEに困ったクセが出てきました。「どこから」の情報がすっぽり抜けるのです。

「帰るね」だけのLINEが来ても、わかるのは帰ることだけ、「いまどこ?」とこちらから返すと、

「いま(家に近い)駅!」

「いま大学出たとこ」

「もう家の前~」

近かったり遠かったり、まったく一定していません。こちらから聞き返しても、ユカの既読がつく前に本人が家に着いてしまうこともたびたびです。

LINEは書くおしゃべり

そういえば、「どこ」にかぎらず、LINEでは5W1H(When いつ、Where どこで、Who だれが、What なにを、Why なぜ、How どのように)を明記しないことが多いように思います。

まず主語はたいてい「わたし」、いつは「いま」ということが多い。伝える内容は、「なにをどうした」だけですみます。

「わたしは、いま電車に乗っていて、○○駅から帰ります」ではなく「帰るね」。

WもHも入っていません。まあ、わたしが返した「いまどこ?」だって、「あなたはいまどこにいますか」が正しいので偉そうにはできませんが……。

こう考えるとLINEのコミュニケーションは、文章でなく会話に近いようです。

会話の命はタイミングのいいやりとりです。もし目の前の人や電話の相手が、きちんとした文法で話すために、あなたがしゃべったあと返事をするまで1分黙っていたら、会話が成り立っているとはとても思えないでしょう。

LINEも会話と同じように、相手との共同作業です。不完全な文章や断片的な単語で、双方があいづちやリアクション(スタンプもその一種)や質問で補完しあい、返事までのタイムラグが短くてやりとりが途切れないことに重きがあるように思えます。そこでは整った文章や効率よく内容を伝えることに大きな価値はありません。

ユカの「帰るね」は、時間がかかっても必要な情報を全部入れて1回で連絡をすませず、わたしの「いまどこ?」でやりとりが続くようにと、自然に身についたテクニックかもしれません。

書くおしゃべりがもたらすもの

ただ、会話とLINEでは決定的に違うところがあります。LINEはそれを、しゃべるのではなくて、書くことで行なうのです。

文を書くという行為は、いままでは「話し言葉」「書き言葉」のどちらで書くにしても、主語・述語がある文章を書くことがほとんどでした。書く方は5W1Hを盛り込んで、読み手が情報不足にならないようにするのがあたりまえでした。

でも、これからは、しゃべるように書くことがあたりまえで育った子どもたちの時代です。書き言葉の変化に加速がつくのはまちがいないでしょう。

そして、LINEは会話が終わったのか、続きがあるのかが、なかなかわかりません。電話なら切る、対面なら去る、と会話の終わりがはっきりしているのに対して、LINEでのやりとりははっきりと終わらず、ゆるやかにつながったままです。

おしゃべりするように単語や短いフレーズ、5W1Hを省略した断片を次々重ねて、終わりを明示しないLINEの文が、子どもたちの文章をつくる力にどんな影響を与えるのか、次回も考えてみたいと思います。

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マリ(まり)

マリ(まり)

マリ(まり)

サラリーマンの夫・大学生の娘(ユカ)との3人暮らし。
大学の恩師の「あなたは一生文章を書きつづけなさい」という言葉を真に受けて、今も日々ものを書いている。
現在はIT系の会社で、セミナー関連の仕事に携わっている。
趣味は映画鑑賞。年に100本みることがひそかな目標。

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