「子育てが楽しくなる小さなヒント」⑳ 自己主張とワガママの境界線
学研キッズネット編集部と、元保育園園長で現在「花まる子育てカレッジ」のディレクターである井坂敦子さんがタッグを組んで、月・水・金の朝6時に配信している、音声プラットフォーム『Voicy』の番組「コソダテ・ラジオ」。月曜日配信のトークテーマ「子育てが楽しくなる小さなヒント」の内容を、いつでもお読みいただけるように記事化しています。さて、今回は「自己主張」に関するお話です。
日本では否定的な「自己主張」
「自己主張」というと、日本ではネガティブな意味で使われる機会が多いように思います。その場の空気を読まずに自分の言いたいことを言うと、周りに流されず意見を言えたことを評価されるよりも、「自己主張が強い」などと言われてしまいます。
保育園の園長をしていたときも、多くの保護者の方から、「うちの子、自分の言いたいことを言っていますが、大丈夫でしょうか?」「園でうまくやっていけるでしょうか?」「お友達とぶつからないでしょうか?」という相談をよく受けました。
「大人しく周りに合わせられる協調性のあるタイプのほうが、自分の意見をはっきり言うタイプよりも安心だ」というふうに、親御さんたちは思っている印象でした。
ですが本来、保育園・幼稚園から小学校低学年の頃というのは、周りを気にできる時期ではないはずです。脳の発達から言っても、周りの状況を気にして、友だちや自分、物事を客観的に見られるようになるのは小学校4年生くらい。そのくらいの年齢になって初めてそういうことができるようになるわけです。
主張を聞いて貰えない環境が……
保育園・幼稚園や小学校低学年の頃は、「自分がどう思うか」をアウトプットしていく時期。「自分はこうしたい」と言えるようになる時期だと思いますが、日本の保育園や幼稚園は1クラスの人数が多いので、自己主張をされてしまうと先生たちも大変です。
一概には言えませんが、平均値だと、日本よりも海外のほうが、一人の先生に対する生徒の数が少ないようです。子どもが自己主張をしても聞いて貰える、子どもも安心して言いたいことを言うことができる、というような環境があるように思います。
日本の環境だと、自己主張をすると先生や親御さんがあまりいい顔をしないため、それを感じ取ったいわゆるいい子は、「周りに合わせているほうがみんなが褒めてくれるな」「大人しくしていると褒めてもらえるな」と学習していくわけです。
そうなると、子どもは「やっぱり大人しくしてよう」「ここは主張しないで黙っていよう」というふうになっていってしまいますし、自分自身もそうだった節があります。
けれど、小学校高学年や中学生、高校生になると、途端に「自分の意見を言いましょう」「何を考えているか述べなさい」と自分の意見や考えを求められる場が増えます。一番自己主張をしたかった時期に大人しくすることを学んでしまったあとで、今度は逆のことを要求されてしまうんですね。
それって、わがまま?
「自己主張」には、「自分の意見を主張する。わかりやすく相手に伝える。論理的に伝える」というような意味があると思います。つまり、自分で考えて「これがいい」と思ったことをはっきりと明確に伝えること。
似たように捉えられがちな「わがまま」ですが、こちらは「論理的ではなく感情的に相手に気持ちをぶつける。周りへの迷惑も顧みずに駄々をこねる」というような意味合いが強いかと思います。
この「自己主張」と「わがまま」を区別しないで同じような意味で捉え、子どもと接してしまうと、間違いが起きてしまう可能性があります。
小さい子どもはまだ言葉が達者ではないので、一見すると「わがまま」を言っているように見えてしまうことがあります。ですが、自分でちゃんと考えて「こうしたほうがいい」「自分はこういうことがしてみたいんだ」と主張している場合もあるんですよね。
この境界線がとても難しいのですが、例えばお店で「これ買って」と子どもが言って、親が「買いません」と言う場面、よくありますよね。その子がチョコレートを買って欲しかったとします。普段その家では、「チョコレートはまだ食べてはいけないもの」だったとすると、子どもにしてみると、興味もあるし、食べてもみたい。こうした気持ちは、わがままでしょうか? 自己主張でしょうか?
おうちで「チョコレートは〇才になったら食べていい」という明確なルールがあり、ルールに従って「もう少し待とうね」という話ならわかりますが、なんとなくダメというのは、子どもも納得しづらいですよね。
大人に引いてほしい“境界線”
チョコレートなら、例えば「記念日や誕生日、クリスマス、お客様が来たときは食べてもいい」というようなルールを決めて、食べる機会を作ってあげるなど、「わがまま」と「自己主張」の区別をつけられるようにしてあげるのは、大人の役目だと思います。
どちらも一緒くたにしてしまうと、子どもが本当に心からやりたいと思っていることも「わがまま」と捉えてしまう危険があります。「わがまま」と思い込むことで、その子の中にある、大事な「好きの種」「興味・関心の種」が見えなくなってしまうのです。
ひょっとしたら将来、チョコレートが大好きでショコラティエなどチョコレートの仕事をするようになるかもしれません。砂糖が多いものは良くない、という気持ちもわかりますが、子ども自身の興味や関心を大切にして、ルールを作りながら見守るということも大事な気がします。
子どもの言葉はつたないので、ただ駄々をこねているように見えてしまうことも多いと思いますが、言葉の表面に惑わされず、「どうしてそう思うの?」「なんで食べたいの?」というような会話を通して、子どもの気持ちに近づいていっていただけたら嬉しいです。
しつけも大切ですし、人に迷惑をかけるようなことは抑えていく必要がありますが、本人の「やりたい」「知りたい」という気持ちは、何物にも代えがたい大切なもの。大人はそれを、できる限り聞いてあげる姿勢、かなえてあげる工夫ができたらいいなと思います。
話し手/井坂敦子 構成/清野 直
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▼井坂敦子 プロフィール
慶應義塾大学→ 雑誌『オレンジページ』編集部 →公式サイト『オレンジページnet』編集長 →小学校受験対応型保育園園長 →年間約100本の子育てや教育に関する講演会や対談を企画運営 英国留学中高校生女子とボーダーコリー3頭の母
中学校高等学校教諭一種免許状(国語) 保育士 食育カウンセラー 表千家師範
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