「子育てが楽しくなる小さなヒント」㉑ 「早くして」が口癖になっていませんか?
学研キッズネット編集部と、元保育園園長で現在「花まる子育てカレッジ」のディレクターである井坂敦子さんがタッグを組んで、月・水・金の朝6時に配信している、音声プラットフォーム『Voicy』の番組「コソダテ・ラジオ」。月曜日配信のトークテーマ「子育てが楽しくなる小さなヒント」の内容を、いつでもお読みいただけるように記事化しています。さて、今回は「子どもをせかすこと」に関するお話です。
せかし過ぎは間違い?
お子さんに、つい「早くして」と言っていませんか?
私も、子どもが小さい頃はよく言っていました。どうしてかというと、寝る時間を遅くしたくなかったから。夜20時に寝るようにしていたのですが、それまでに宿題やバイオリンの練習、夕飯、お風呂、歯磨きなど、やるべきことを済ませて欲しかったので、せかしていました。
頭では、「学校でがんばってきているのだから、家ではゆっくりしたいよね。大人だって家では息を抜きたいものだから、せかされたら嫌だよね」とわかっているのに、口は反射的に、「早く」、「まだやっていないの?」などと言ってしまいます。
自分に置き換えてみても嫌ですよね。仕事から帰ってきて、少し休んでから夕食作りや片付けに取り掛かりたいのに、それをせかされたら。嫌な気分になったり、その結果パフォーマンスが落ちたり、せかすことは「百害あって一利なし」です。
子どもも言われ慣れてしまうと、まったく心に届きません。小学校受験の指導などで、たくさんの親子にお目にかかる中で気づいたことがあります。それは、親御さんの言葉数が多いお子さんは、自分から考えなくても次々といろいろなものが与えられる状況なので、自分から何かを欲しいと思ったり、能動的な意欲のようなものが育ちにくいということです。
「欲しいな」と思ったら、すぐ与えられ、「ちょっとやってみたいな」と思ったら、すぐできてしまう。「やりたい」と思っていなくてもどんどん与えられたりしていますから、ゆっくり考える時間がありません。そんなお子さんにたくさんお会いしました。
親御さんは、よかれと思って準備をしたりせかすわけですが、お子さんは、どうやり過ごすか、どう逃げるかを覚えていきます。年長さんぐらいからそういう技を身に付けて、小学生になると、やったふりをしたり、適当にやったりする子もいました。頭の回転のいいお子さんだと、その場ではうまくいってしまうので、それでいいのかと不安になりました。
子どもには「何もしない時間」が大事
仕事がら、いろいろな専門家のお話を伺いますが、教育の本質をわかっている先生方は、「何もしない時間、予定のない時間が、とっても子どもを育てます」、「暇にしてあげてください」とおっしゃっています。
「自分で自由に時間をデザインできるようなことを、子どものときにしっかりやらせてあげる」ということが大切だそうで、それは「自分は何がやりたいのか」を考えたり、思いつく時間なんだそうです。
「自分はこういうことが好きなんだな」、「これをやっていると楽しいんだな」という経験をすることで、自分の「強み」や「長く続けられる好きなこと」を見つけられるのだとか。
「そんなことをしたら、スマホでずっと動画を見たり、ゲームをしているから心配」という親御さんも多いかと思います。その気持ちは私もわかりますが、今はそれでプロになる方もいます。
「そのゲームの何が好きか」を子どもに聞いてみて、たとえば「デザインがきれいだから」や「音楽がすごく素敵」、「ストーリーが好き」などと言ってきたら、「じゃあそこが好きならこういうことも好きなんじゃないかな?」というように、一緒に考えていくのもいいというお話を東大の先生から聞いたこともあります。
とにかく、子どもの「好き」は、暇がないと見つからないものなんですね。
子どもの「好き」を見守って
毎日学校に行っていろいろなことを習って帰ってくるだけでも、すでにかなり大変なお子さんもいます。あとは学校の人間関係で少し疲れているなど、子どもの世界にも苦労があります。
それなのに、親としてはつい、勉強の進み具合や理解度ばかりにフォーカスしてしまう。それはそれで大事なことで、私自身もフォーカスはしていました。ですが、学校の勉強の中に好きなものがあるお子さんの場合はいいものの、違う方向のものが好きなお子さんの場合には、難しいかもしれません。
「好き」や「嫌い」は理屈ではなく、善悪でもない。本能的な、本人自身のものなので、それを捻じ曲げることはできません。
やはり好きなことをしているときがいちばん、子どもはイキイキと学んでいるので、その「好き」を邪魔しないように、「好き」を感じる時間をどれだけ取ってあげられるかというのが、とても大事だと思います。
せかさない“実験”で、イキイキとした表情が……
娘が小学3年生ぐらいのときに、そういうお話を伺う機会があり、実際に試してみたことがあります。「何も予定のない時間を何日か限定で作って、様子を見てみよう」という実験のような感じで、私も腹をくくり、「あれをしなさい」「これをしなさい」と言うのを、意識的に止めました。
娘を観察していると、最初は昼寝をしたりだらだらしていたのですが、ある程度だらだらすると、何かやる気のようなものが出てくる様子がありました。
絵を描いたり、画用紙や空き箱を使って工作をしてみたり、積み木を組み立ててビー玉がうまく転がるように作ってみたり、ということをして遊んでいました。
それが直接、何に関係するかとか、将来何に役立つかということは一旦横に置いておいて、そうした遊びをすごく真剣にやっている様子を見て、普段せかされて嫌な顔をしてやっていたときより、イキイキして、明らかに集中していたので、本人にとって納得のいく時間を過ごしているのだなと思いました。
そのあともつい、「あれやったの?」なんて声をかけてしまうこともありましたが、そのときの娘のすごく集中した顔や、いい時間だったという記憶があるので、「早く早く」とせかすのを抑えられるようになったような気がします。
子育ては何が正解かわかりませんが、多数の専門家の方が同じことをおっしゃっているので、そこに真理というような、子どもが育つときのとても大事な要素があるのだと思います。それで試してみた結果、娘は好きなことがはっきりわかる子に育ちました。
好きなことは「生きる指針」です。好きなことがあれば幸せですよね。何も言わない、せかさないというのは勇気が要りますが、子どもの好きなようにやらせてみて、それを観察するというのも、何か発見があるのではないでしょうか。いつもの生活に少し変化がついて、子どもにとっても、親御さんにとってもさらにいい効果があるのではないかと思います。
話し手/井坂敦子 構成/清野 直
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▼井坂敦子 プロフィール
慶應義塾大学→ 雑誌『オレンジページ』編集部 →公式サイト『オレンジページnet』編集長 →小学校受験対応型保育園園長 →年間約100本の子育てや教育に関する講演会や対談を企画運営 英国留学中高校生女子とボーダーコリー3頭の母
中学校高等学校教諭一種免許状(国語) 保育士 食育カウンセラー 表千家師範
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