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子どもが健やかで幸せになるためのICT/データで読み解く、子どもとスマホ【第39回】

子どもが健やかで幸せになるためのICT/データで読み解く、子どもとスマホ【第39回】

PISA2015のICT活用調査結果をまとめて振り返ります。

子どもの健やかさ・幸福度とICTの関係

今回はPISA2015(※1)の調査結果の分析から見えてくる、日本の15歳とネットとのつきあい方をまとめます。

PISA2015のうち、生徒のwell-beingに焦点をあてた国際報告書が2017年に公表され、日本に関するデータが「生徒のwell-being(生徒の「健やかさ・幸福度」)」として公開されています。(※2)

この報告書ではwell-beingを「健やかさ・幸福度」と日本語訳しています。「健やかさ・幸福度」は心理的、社会的、認知的、身体的と、4つの特徴それぞれが相互作用してなりたっており、図に示すとおり、さまざまな要素が関連していると指摘されています。

OECD生徒の学習到達度調査 PISA2015年調査国際結果報告書 生徒のwell-being(生徒の「健やかさ・幸福度」) (2017年4月 国立教育政策研究所)より

日本版では、この「健やかさ・幸福度」をとりまく問題として、家での学習、学校での学習、テストへの不安、学校への所属感、いじめ、運動と食習慣、そして学校外でのICT利用があげられています。

学校外、すなわち家庭におけるICTの利用は、子どもの心身の健やかさと良好な精神にかかわる大事な要素であることを、再認識しておいていただきたいと思います。

ICTは使い方しだいだが……

ここで「そうね、ICT(スマホ)の使いすぎはよくないし」と短絡的に考えるのはよろしくありません。

PISA2015の「家庭におけるICT利用」指標で、日本はOECD平均以下。ノートパソコンの利用は参加国中唯一減っていて、家にあるのに使わない状態が急速に進んでいます。

さらに、「宿題のためのICT利用」指標も参加国中でダントツの最下位。学校の学びと家でのICT利用がつながっていません。PISA参加国の子どもが、家庭でICTをひんぱんに使い、宿題をしたりノートパソコンを使っているなか、日本はその流れからどんどん離れています。

そして、余暇でのICT利用では、ネットへの肯定的なイメージが薄い傾向があるとわかりました。

総じて、日本の子どもの家庭においてのICT利用は、学び・遊びともぱっとしないというわけです。それなのに、時間だけは他国と同じくらい費やしています。

では、子どもたちはスマホをなにに使っているのでしょう。内閣府の調査では、日本の高校生のスマホ利用内容の1位はコミュニケーション(92.3%)、次いで動画視聴(82.7%)、音楽試聴(81.7%)。

知的活動につながりそうなサービスは、情報検索(71.0%)、ニュース(50.7%)、電子書籍(19.0%)とぐっと割合が下がります。(※3)

どうも日本の子どもたちは、スマホの使い方があまり建設的でないようです。だから、スマホが“勉強の敵”になってしまっているのでしょう。

読解力の低下に影響か?

PISA2015で気になるデータがあります。

今回からコンピュータ使用型調査となったPISAで、日本は「読解力」の平均得点がOCED加盟国中1位から8位に落ちています。(全ての参加国・地域では4位から8位に下落)(※4)

誤答分析の結果では、

  • コンピュータ画面で、複数のところに書かれた情報を整理し突き合わせることがうまくできない
  • 情報の見おとしや誤読

があげられています。(※5)

いずれも、スマホでSNSや映像、音楽を楽しむのには使うことのない力ですが、これからの人生にとっては重要な力ですから、この傾向はいただけません。

そのスマホは未来につながっているか

このままずるずると同じような使い方を続けていても、未来を切り開く力にはなりませんから、わたしたちはできるだけ早く、ICT=スマホ、スマホ=子どもには害悪、と言いたくなるような環境を変えていかなければなりません。

わが子のスマホの使いようが未来につながらないのでは、と感じるのであれば、保護者が自分自身の意識や行動を変えていくことが大切だとわたしは考えます。

MOOCなどのオンライン講座を受講してみる、電子書籍を読んでみる、オンラインの辞書で調べ物をするなど、スマホを学びと結びつけられる使い方はいくらでもあります。

また、スマホでは難しいけれどパソコンではできる面白いことだってたくさんあります。画像加工や音楽の制作、プログラミングなどは、保護者もお子さんもやりがいをもって取り組めるでしょう。これらの活動のアウトプットをSNSで発信すれば、変顔画像や今日食べたファストフードの話題よりも、ずっと実のある内容になります。

子どもが健やかに幸せに育っていけるよう、ICTを“勉強の敵”から“人生の強力なサポーター”へと変えていきましょう

※1
PISAについて
文部科学省 全国的な学力調査(全国学力・学習状況調査等)
※2
国立教育政策研究所
PISA2015年調査『生徒のwell-being(生徒の「健やかさ・幸福度」)』報告書
※3
内閣府 平成28年度 青少年のインターネット利用環境実態調査 調査結果(概要)
※4
国立教育政策研究所
OECD生徒の学習到達度調査(PISA2015)のポイント
※5
国立教育政策研究所
読解力の向上に向けた対応策について

 
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渡邉純子(コドモット)(わたなべじゅんこ)

渡邉純子(コドモット)(わたなべじゅんこ)

渡邉純子(コドモット)(わたなべじゅんこ)

株式会社コドモット代表取締役社長。
NTT在籍時代の2001年、子ども向けポータルサイト「キッズgoo」を立ち上げ、同サイトでデジタルコンテンツグランプリ・エデュテイメント賞受賞。独立後は小学生向けのコンテンツを中心に、企業の子ども向けWebサイトや公共団体の子ども向けツールなどの企画制作を数多く手がける。一男一女の母。

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